裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

18日

水曜日

あなただけがきちがいなの忘れられない

♪ラブユー、ラブユーなみだの脳病。6時半起き、7時半朝食。ポテト、レタス、キウリ、梨。オリンピック金ラッシュ。めでたいことではあるし、北島などを見ると、橋本や黒岩の頃と比べて、今の若い人は“期待される”“目立つ”ということを素直に価値観としてとらえているので心理的プレッシャーがかからず、強くなっているのだなあ、と感心する。……しかしね、だからといって何で日本のマスコミは、ここまでオリンピックオリンピックと大騒ぎするのかね。戦後の、日本が何とか国際的舞台に復活することが出来て大喜びしていた時代ならともかく、今さらになって水泳だの体操だのの選手を自分たちの名代みたいに祭り上げて、みんなで大騒ぎしなくたってよかりそうなものではないか。こういう心情において、いまだ日本は戦後を脱せていない気がする。……というような意見、誰か同じことを言っている人がいないかと検索をかけてみたら、立川談之助のサイトの日記がヒットした。やっぱりこの人と私は (ロリを除けば)思考がほぼ、同系統らしい。
http://www5f.biglobe.ne.jp/~dannosuke/

 8時25分のバス。仕事場到着してすぐ、アスペクトの『華氏911』原稿。最初は徹底してトバした原稿にしたが、思い直して頭から地味めに書き直す。この映画はテンションあげて批判するべき映画じゃない。こういう映画を絶賛する人々は、テンションあげた批判が出てくればくるだけ、“自分たちは正しいから相手が頭に血を上げて怒ってるんだ”というカン違いをする。要はお祭りがしたいだけなのである。

 昨日に引き続き、企画類よく動く。昼はおにぎり一ヶ、今日はちゃんとした塩ジャケ。しかし、この昼飯おにぎりダイエット、まだ始めて数日、しかも中断もしているのに、今朝体重を計ったらもう2キロも減っていた。これまで自分は昼食にラードの 固まりでもムシャムシャ食べていたのか? と思えるほど。

 2時、時間割にて講談社Web現代Yくん。10月からの朗読コンテンツ打ち合わせと、それに関連してのお願いごと。何を頼んでも“ア、いいですよ”と引き受けてくれてしまうので、逆に拍子抜けっぽい気分でもある。贅沢な話だが。島さんと引き 合わせるためにうわの空に週末に行きましょうと話す。

 5時半、家を出てNHK西口。アマゾンのKさんが出迎えてくれた。一階の収録スタジオに案内されるが、まだ最初の回の録りが済んでいないという。それはまた、伸びているものだ、なにかトラブルでもあったのか、と廊下のモニターを見たら、池田憲章さんがしゃべりまくっていた。アア、このせいであるかと納得。台本を手渡される。見ると『アニメ夜話・カリオストロの城』とある。カン違いして、今日は『あしたのジョー』収録だと思い、そっちの前準備ばかりしていた。だがまあ、カリ城であればいきなりふられても2時間は話せる。逆のカン違いでなくて、まずよかった。

 6時、やっと第一回終わり、くたびれ果てたようにスタジオから出てきた岡田さんとアシスタントの乾貴美子さんに挨拶。会議室でざっと進行の打ち合わせ。乾さん、“私昨日、カラサワさんを東急ハンズ前の道で見かけました!”と言う。乾貴美子に顔を認識されているとは知らなかった。帰り仕度をした憲章さんがのぞいて、“ア、カラサワさん、明日も来る? いい『フラバラ』のポスター手に入ったから、明日あげるね”と言うのでお礼を述べる。ポカンとしている乾さんに岡田さんが
「マニアはね、『フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)』のことをフラバラと略すんだよ」
 とレクチャーしてあげていた。

 進行打ち合わせ、スタッフたちの意見を総合すると、今回のゲストは井上伸一郎さん、大地丙太郎さん、国生さゆりさんで、大地さんと国生さんは徹底したカリ城リスペクターなので、番組がただ絶賛の連続になってしまうことを恐れているらしい。どうも期待されているらしいので、アアわかりました、じゃア今日はわたし、悪役に回りますと手を上げる。『カリ城』くらい入れ込んだ経験のある作品だと、持ち上げるのもクサすのも自由自在という感じである。感謝のまなざしを向けられる。ただし、
「すいません、NHKで『やぶにらみの暴君』という作品タイトルは言えますか? この作品の元ネタとして、どうしても出さなくては話にならないアニメなんですが」
 と言うと、全員、“うーん”と首をひねる。結局、『王様と鳥』のタイトルの方でお願いしますということになった。ポリシーとして、絶対『やぶにらみ〜』以外のタ イトルは認めたくなかったのだが。

 6時半にはすでに打ち合わせ終わり、録り開始の7時半までは控室でボーッとしていなければならない。ずいぶんと能率の悪いことである。“始まるまでいったん仕事場帰って原稿書いていていいですか?”と言うがダメだとのこと。何でかな。一人でボーッと待っているのも能がないので、弁当持って氷川竜介さんの控室を訪ね、雑談しながら弁当つまむ。もっともダイエット中なので、天むす一個食ったきり。この二人がそろえばさぞ濃いアニメや特撮ばなしをしているだろうと思うかもしれないが、“このあいだドックに入ったら肝臓の数値が……”“こっちも血圧がなかなか下がらなくて……”というような中年オッサンばなし。

 とはいえ、そこに岡田さんも加わって、一時間はあっと言う間に過ぎる。スタジオ入り予定通り、テーブルにつき、他のゲストの方々と挨拶。国生さゆりさんが隣の席である。番組が開始され、大地さん、国生さんがまず、冒頭から大絶賛する。ひとし きり褒め合戦が終わったところで、おもむろに
「……実は私、たぶんこの作品について、日本ではじめて、けなした文章を発表した男だと思うのですが(アニドウの会誌で)……」
 と、脚本の不備、設定の矛盾などを指摘する。大地監督が“いや、そんなことはどうでもいいんだよ!”と断言すると岡田さんが“ほら、さすがの絶賛者の大地さんも「どうでもいい」ってだけで「それは違う」とは言えない”と、またけしかけるようなことを言う。さらに、この作品の、みんなが褒める場面のほとんどが海外の既存の作品からのインスパイアなので、と順次指摘していったら、突如、国生さゆりさんが
「わ〜、聞きたくない! それ以上言うな〜!」
 とこっちの首を絞めにかかる。いいリアクションである。岡田さんが世にも嬉しそうな顔をした。私も昔、おニャン子をテレビで見ていて、まさかこれに出ている子に 将来、自分が首を絞められるとは思いもしなかった。ちょっと嬉しい。

 で、番組はクラリス論に移る。これまた“このクラリスってキャラクターの行動がまた、間尺に合わないことばかりで”と言い、それを大事に守っているが故につけねらわれる指輪を、助けて貰ったお礼にと、見も知らないルパンにくれてやろうとするのはいくら何でも心理的に不自然だろう、と指摘する。また国生さんが何か文句を言うかと思っていると、彼女、ちょっと考えて、
「あー、そう! そうですよねーそれ!」
 と、意外や大感心してくれて、
「おじさん、えらーい!」
 と拍手してくれた。満足である(おじさま、と言ってくれたらもっと嬉しかったかもしれないが、まあそれではあまりにワザとくさい)。

 勿論、こういうアホな展開ばかりでなく、宮崎駿論やアニメの演出論、大塚康生論などにも話は及び、結論は絶賛してまとめる。どこまで編集で残るかわからないが。しかし、1時間番組の収録に、7時半から9時15分までの1時間45分しかかからなかったというのはなかなかの能率なのではあるまいか。その分、触れられない部分も多々、あってくやしい(ことに時間の関係で『ベルヴィル・ランデブー』の追っかけシーンに触れられなかったのが心残りだ)が。みなさんに挨拶し、帰宅。NHKに出ていつも思うのだが、歩いて帰るのは何か、テレビに出演したという緊張感がないものである。

 仕事場で、ちょっと朗読コンテンツの件を島さんと土田さんにメール。10時半にタクシーで新中野に帰宅。シャケ、チキンカツ、鶏とワカメのサラダなど。DVDでギルバート&サリヴァンの『ミカド』をK子と母と一緒に観賞。観ながら缶ビール小一缶と、焼酎『愛子』。屋久島のものだそうで芋焼酎ながら口当たりが非常にソフト である。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa