裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

火曜日

わんぱく王子の藪下泰司

 まあ、本当は『わんぱく』には藪下先生は参加していませんが。その昔、池袋文芸座での東映動画作品オールナイトで、毎度この作品のタイトルを場内放送が『わんぱく王子のダイジャ退治』と読んで、“オロチと読むのです!”と訂正しに行ったのを思い出す。今思えば、映画館での放送くらい間違ってたっていいじゃねえか、という感じだが、その頃はこういうことに厳しかったねえ。森卓也先生なんか今でもやってるらしいが、そういうこと。朝、6時45分起床。入浴。ひどくダルい。気分もすぐれない。二日酔いも多少はあるが、やはり夏バテなのだろう。7時半朝食。キウリ、ニンジン、カボチャなどを唐辛子ミソで。モモが冷蔵庫の中で半分凍ってしまった、 シャーベット状のものを食べる。

 朱里エイコ死去の報。歌手としての最盛期を見ているはずなのだが、何故か私の記憶の中にははっきりしたイメージがわかない。『アニマル1』の主題歌を歌っているというのも、かなり後になってから知った。ちょっと調べると、少女歌手田辺エイコとして『アニマル1』を歌ったのが昭和43(1968)年、その吹き込みを最後の仕事にして渡米し、ラスベガスのショーなどでトップスター朱里エイコに華麗な変身を遂げて帰国したということらしい。その後の奇行・病気などもあって、晩年はほとんど引退状態だったが、同棲していた男性(死去を通知した人)がいた、ということ で、孤独な死ではなかったことがわかっただけ、救いかもしれない。

 もう一人、挿絵画家の畑農照雄死去、69歳。私の書棚の一角に常備本として置かれている『ユーモア・スケッチ傑作選』(浅倉久志・編)の装丁・イラストの人である。名前を覚えたのは、SFマガジンにおける半村良とのコンビネーションによる仕事だと思う。いまだに記憶に焼き付いているのは、『庄ノ内民話考』の挿絵で、いわゆる人面犬のイラストを版画タッチで描いたものだったが、イラストから伝わってくる“不気味さ”をあれほど感じたことはちょっとなかった。とにかくミステリやSF畑では空気のようにいつも身近にこの人の作品があった。辰巳四郎氏に続き、子供の頃から親しんできたイラスト・装丁家が亡くなっていく。とても寂しい。

 バス25分。仕事場到着後すぐ横になる。身体に力がまったく入らない。メールでちょっと秘密の頼まれごと。FRIDAYからゲラ送られてくるのでチェック。いろいろとココロ乱れて、それやったきり何も手につかず。ずどんと落ち込む。午前中か ら落ち込んでいちゃいけないが。

 気を晴らそうとCD『ザ・ピーナッツ レア・コレクション』を聞く。ドイツでシングル発売されたという(もちろんドイツ語歌詞)『スーヴェニール東京』から『三大怪獣地球最大の決戦』中で歌われた『幸せを呼ぼう』、林家三平とのコラボ『ふりむかないで』まで、珍曲中の珍曲ばかり集めた文字通りのレア・コレクション。冒頭の布施明との共演『ワン・ツー・スリー』がいい感じで、だいぶ元気が回復する。

 弁当、鶏肉の山椒焼き。食べたらなおのこと身体がフニャフニャしてきて、こらあかん、とタントンマッサージへ。一時間揉み込んでもらう。オチるかと思ったが今日はオチず。疲れていて寝るどころでないのかもしれない。10パーセント割引デーな のでいくぶん安くて嬉しい。揉まれて出て、オモチャ屋などのぞく。

 帰宅して、メール数通、例の頼まれごとの件、Web現代と次回打ち合わせの日取りの件など。アニメ夜話打ち合わせの場所なども連絡、来る。いずれもテキパキと片づけられるので、おお、これはいいかな、と思ったが、そこまで。ずーんと深い鬱になり、何も手をつけられない状態になる。固まったままのような状態で、そのまま、夜までいたずらに時間を過ごす。まあ、こんな時もある。精神状態や体調の波には慣れている。ただ、問題は、仕事がもう崖っぷちで後がない、というときにこういう状 態になることだが。

 夜9時、帰宅して晩飯。キウリ、シソ、青唐辛子などを刻んで醤油漬けにした即席漬け物を冷や奴にかけて。それから自家製キンピラ、母がサントクで“いい肉の半分くらいでいつも売っている安肉が、今日はさらにバーゲンで半額だった”ものを買ってきて焼いたステーキ。確かに固いが、しかし噛みしめると、何とも言えない肉の風味がある。焼酎をペリエレモンで割って飲むうち、肉のアナンダマイド(興奮物質)のせいかアルコールの効果か、やや鬱も回復。DVDで『みんなのうた』を聞くというか見るというか。母のリスペクト曲『せんせほんまにほんま』、グリーグのペールギュント『ソルヴェイグの歌』に詞をつけた不思議な曲『みずうみ』(母が昔習ったというこれの文語詞のものを歌って聞かせてくれた)、芝山努の、枚数を徹底して節約したアニメがいい『南の島の花嫁さん』などを聞く。しかし、今夜も飲みすぎ。

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