裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

7日

土曜日

ロミオとウォシュレット

 おおロミオ、あなたはどうして痔持ちなの。朝7時起床、入浴した後、猫が待ちかまえていて浴室へ入ろうとする。7時半朝食。トマト、ヤキイモ、ブロッコリの冷ポタ。出かけるとき、昨日受け取った開田さんの『特撮が来た!8』を仕事場に持って いきなさい、とK子が押し付ける。

 8時20分のバス。気圧極めて不安定。とはいえテンションはある。肩が凝るだけである。マッサージに行かねば。仕事場着。雑用ざざっと片づける。『ザ・ピーナッツ レア・コレクション』、こないだから聞きっぱなし。林家三平歌う『ふりむかないで』のバタくさい調子っぱずれが頭の中でグルグル回ってリフレイン。ドイツ語曲(もちろんドイツ人作詞・作曲)『スーヴェニール東京』『ハッピー・ヨコハマ』の驚くべき軽さ(安っぽさ)も凄いし、山上路夫作詞、沢田研二作曲(!)のムード歌謡『白い小舟』の淫猥なこと(女性の、たぶん独り遊びと思われるエクスタシーへの階梯をしんみり謳いあげる“夜の”歌謡曲)にもビックリ、改めて音楽シーンにおけ る60年代の(『白い小舟』は70年)B級的豊穣さを思う。

 12時半、新宿までちょっと用事を片づけに出る。乗ったタクシーの運転手さん、もう70代半ばか。新宿の歴史を滔々と語ってくれる。西口のバス停のあたりは終戦の頃は雑木林で、あそこを伐採したあとの切り株の上に板を引いて仮設ステージを作り、バタやん(田端義夫)や岡ッパル(岡晴夫)が歌ったんですよ、と言う。また、東口にあった喫茶・聚楽は当時歌謡ショーもやっていて、菊池章子がよく歌っていたとか。この運転手さんは両親をB29の爆撃で亡くしたが、そういう歌謡ショーのたびに、ガリ版刷りで歌詞カードを作っては、これを5円で売って生計を立て、早稲田に通っていたという。
「よくそういう商売が出来ましたね」
「あそこらあたりを取り仕切っていたヤクザの小津組の組長が私を可愛がってくれましてね、“絶対にヤクザにはなるな、どんな苦労しても正業につけ”と、あの場所でのバイトを許可してくれたんですよ」
 と。結局、早大を出た彼は、自分を育ててくれた新宿を守ろうということで区の仕事につき、京王プラザが初めて新宿の超高層ビルとして建つときの会議などにも区の住民代表として何度も出て、設計者(植野糾か?)とも友達なのだそうだ。

 こういう昔話を聞くのは大好きなので、ふんふんと相づちを打ったり、受け答えを したりして聞き出していたが、降りるとき、
「いやあ、今日はひさびさにあの時代を知っている世代の人とお話が出来て楽しかった」
 と言われてギャフンとなる。私を同世代と思ったか? それは老けキャラではあるし、古い話ばかりするのでデビューした頃から50代くらいに思われていたけれど、70代後半と思われたのはこれまでの中でも最たるレコードだ。

 用事をすまし、王ろじで昼飯でも食おう、と思って裏道に入ると、ちょっとよさげな輸入古オモチャ屋が出来ていた。ちょうど、明日がうわの空の尾針恵の誕生日なので、プレゼント用にいいのがないかと思って立ち入る。私が欲しいようなものがいっぱいあった。動物キャラのマトリョーシカ(80年代くらいのものらしい)があったので買う。それにしても、うわの空の女優陣、牧沙織と小栗由加が7月7日、尾針恵が8月8日と、並び数字の日に生まれた女優が三人もいるというのはちょっと不思議 ではないか。

 その後で王ろじ、満席だったのでちょっと待ってとん丼と豚汁。豚汁のしょっぱさが昔ながらでいいが、もうあと何年、こういう味のものが食べられるか。食べ終わって都営線で神保町に。昨日、古書展で荷物が重くなってそのまま帰ってきてしまい、寄る予定のところに行きそびれたので、もう一度。いろいろと駆け足で回る。仕事が らみになるので詳しくは書かない。

 地下鉄で渋谷に戻り、そのままタントンマッサージで1時間、肩を揉み込んでもらう。仕事場に帰って、少し休み、少し仕事。いろいろなことを少しづつ。日記でうわの空の公演のことを“少し”力入れて書く。結局、これが一番の大仕事になった。書 き上げてアップしたらもう帰宅までギリギリの時間。

 今日はパイデザ夫妻と、その関西の友人のUさんがお客。京野菜を選んでくれた人で、今度東京で仕事が決まって出てくるとか。ネイティブ関西人の、いかにもな関西言葉がいい感じ。茄子の揚げおろしの甘さ絶品。“庄屋長茄子”と言って、昔は庄屋さんのようなエラい人でないと食べられないものだったとか。あとは青トマト刺身、ゴーヤ炒め物など。旅行の話などをしながら焼酎をレモンペリエ割で飲んでいたが、途中から記憶全くなくなり、ブラックアウト。マッサージと気圧とで身体がメロメロだったのだろうが、こういうのは珍しい。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa