裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

25日

木曜日

逆さま侍捕物帖

 ……タイトルだけ浮かんだけどいい受けが思いつかないので勝手に考えて下さい。朝、6時半起床。心配していた二日酔いはないが、やはり吐く息がパイチュウくさいことくさいこと。入浴、歯磨、如例。朝食、ナッツパン、梨のサラダ、コンソメ。服薬、いつもの黄連解毒湯、小青龍湯に加えて整腸剤をのんでおく。お腹は別に痛んでいないが、強いアルコールを接種したせいか、口中が少し荒れ気味なので(腸が悪い と口の粘膜が荒れるのである)。

 今日も寒く、空模様怪し。ぼんやりと考え事をしていたら、バスを乗り越してしまう。NHK職員は誰もバス通勤なんぞしていないのか? 仕事場、肌寒い。留守録に“タケウチです”と入っているので、竹内真氏かと思ったら竹内義和氏であった。朝日新聞社の人間に電話番号を訊かれたので教えてあげましたので、ということ。ここ の新聞社はヨコのつながりというものがないのだろうか? とか思う。

 と学会、以前に入会待ちとなっていた会員さんの入会が認められたので、詰まっていた他の入会希望者の入会申請手続きをやってしまう。と学会と言えば、このあいだの日記に、FKJさんの介抱を会員が誰もやらなかった、と書いたが、会員のMさんがQPさんと一緒につきあって送ってあげていたとのこと。会の名誉のために訂正。

 昼の弁当は豚肉の味噌漬け。ただしいつものではなく、九州みやげにだいぶ前買った肉ミソの中に豚ロースを漬け込んだもの。それとタラコ。茶(発酵茶)が切れたので自動販売機で通勤の途中に買ったお茶で。食後、買い物にとハンズに行くが目当てのものなく、目的果たせず。仕方なく帰ろうとしたらかなりの雨が降っており、買い たくもなかった傘を買ってさして帰る。

 雨の日は何も出来ず、あくびばかり。資料数冊小脇に抱えて横になるが、すぐ前後不覚。本を読もうと枕を三つくらい重ねて高くしていたので、寝入ると気管が圧迫され、呼吸困難になってわっと目が覚め、しばらく胸がバクバクする感覚で息をつく。女優の三ツ矢歌子さん死去の報。晩年は自身の病気や、子供の不祥事などで、傷心の表情をブラウン管で見ることが多かったように思うが、われわれの世代にとっては、テレビをつけるといつも映っているお母さんの顔、であった。大学に入ってからさかのぼって名画座めぐりで観た、新東宝時代の彼女は清純のきわみ、というような美少女で、タイトルこそ『肉体女優殺し』とか『ヌードモデル殺人事件』などという末期新東宝的なキワモノであっても、彼女のみは常に清らかな役(殺される肉体派女優やヌードモデルの妹役)であり、沼田曜一や林寛に襲われ、アワヤというところで宇津井健に救われるのである。だから、石井輝男の『天城心中・天国に結ぶ恋』で演じた愛新覚羅慧生(映画では王英生)役でも、モデルとなった満州国皇帝の娘は実際に死んでしまうわけだが、三ツ矢歌子だけは絶対、助かるものだと思ってしまい、最後に やはり死んでしまったときは大ショックだったものだ。

 追悼と言えばもうひとつ、S井さんから美食MLで、能登のさんなみに旅行するときにいつも用いていた能登鉄道がいよいよ廃線とのニュースが。ほとんど人家のない原をゴトトン、ゴトトンと進んでいく、『千と千尋の神隠し』を地でいくような路線で、朝早く、さんなみの庭で、海鳥の鳴き声とおだやかな波の音、そして能登鉄道の遠くを走るかすかなトドドントドドンという音を聞きながら、しばしボーッと何も考えずにベンチに寝ころんでいるのが至福の時間であった。無くなる来年3月までに、 もう一度乗れるだろうか?
http://mytown.asahi.com/ishikawa/news01.asp?kiji=6761

 5時45分、家を出て新宿へ。埼京線で十条まで出て、篠原演芸場へ行く。このあいだのちゃんこツアーで、世界文化社のDさんが、ここで見た子役の河内真子という子がスゴい、と聞いたので、それは是非見てみましょう、と出かけた。それでなくても、大衆演劇をまたぞろまとめて観てみたいものだな、と思い始めていたのである。篠原演芸場は以前、おおいとしのぶくんや木村金太さんに誘われて言ってから少々やみつきになったところ。改装前のあの、昭和の名残的雰囲気はなくなったものの、花道の位置が向かって右から左に変更になったくらいで、基本的な作りは変わらず。入場料1500円払い、お茶とつまみの菓子を買い、あと座布団と座椅子をそれぞれ百円で借りて場所を取る。河内真子は関西の美川麗士劇団の子役で、座長美川麗士の娘であるらしい。お爺ちゃんの美川竜二(先代座長)と三代揃って舞台に立っている。
http://homepage2.nifty.com/r-mikawa/

 お客は60人くらい。入れば100人は入れられる劇場だが、平日にこれだけ客を入れられるのはなかなか大変だろうなあ、と感心する。おばちゃん族がほとんどだが中に小学生くらいの女の子がいて、なんだろうと思ったら、若いお母さんがどうやらここの劇団の若手の美川慎介のおっかけらしい。彼の歌と踊りのとき、写真を撮りまくっていた。『仮面ライダーブレイド』の追っかけをするお母さんおり、大衆演劇の スターの追っかけをするお母さんおり。

 芝居は今日は剣劇ではなく人情もので『不人情長屋』。美川竜(座長の姉?)が実質的な主人公で、因業なご隠居の婆さんに扮し、嫁へのあてつけで自殺しようとするのを、親方に頼まれて止めに来た大工の麗士と漫才みたいなやりとりをする。ゆらい大衆演劇というのはクドいものだが、大阪の一座だけにいっそうクドく、しかも下ネタ満載。30日までの公演で、もう終盤にかかっていささかダレているのか、アドリブ連発。二枚目役の麗士が、ちょんまげにガングロ女子中学生のメイクをして演じていた。主役がこれなのだから、後は推して知るべし。姉の竜をもう、麗士がいじるいじる。おばさんたち、下ネタでキャッキャと大喜び。すでに女でなくなってしまっているであろう観客の女性が、一瞬、オンナに戻ったはしゃぎ声のすさまじさ。

 休息のあと、座長挨拶があって(ここでも若手の慎介を座長がいじくること)。第二部の歌謡ショー。芝居ではチョイ役だったお目当ての河内真子の、一種フリーキーな(初めて見た人の三人に一人は“ミゼット?”と思うだろう)魅力をたっぷりと楽しめる。茶摘み踊りの達者さや、男の子に扮して踊る和田アキ子の『ルンバでブンブン』のハジケっぷりなど、これは天才かも、と思わせる。この子の特長は、子供なのにメイクが完全にオトナメイクなのですね。真っ白けに白粉を塗りたて、アイラインをくっきりすぎるほど強調する。東京の人にはちょっと刺激が強すぎるかも、と思うほどである。昔の子役ってみんな、こうだったんだろうな。この後は名古屋地方を回 るようだが、東京に来たらまた観にきてみよう。

 9時半まで歌謡ショーは続くのだが、家でのメシがあるので9時で切り上げ。埼京線が出来て、本当に十条も近くなったと思うが、新宿からタクシーで、9時半にはもう、家で夕食の膳に向かえている。今日はカニ汁。北海道ではカニ汁のことを“鉄砲汁”と称する(こっちではフグ汁が“いつあたるか”ということで鉄砲汁だが、あちらではカニの足を加えると、中の汁がぴゅっと飛び出すので“水”鉄砲汁、なのであ る)ネギと豆腐がたっぷりで、酒によし、メシによし。

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