3日
水曜日
道満かましてよかですか
安倍晴明がなんぼのもんじゃい。朝、7時20分起き。日本酒が少し側頭葉に残る感じ。読売新聞は今日から新中野に配達されているはずだが、こっちに入っていた。向こうへの配達はされているのか? K子に言われて食器や棚の中の素材などをまた整理する。上新粉、ナツメグ、ゼラチンなど、何の料理に使ったんだか、もう記憶も 定かでないものがゾロゾロと出てくる。
11時、家をK子と出て、ハンズで物干し竿を買い、昼食用のお弁当を西武のデパ地下で買って、新中野へ。駅からの道、ポカポカと春の陽射しがあたる中を、杖代わりの手押しカゴを押したおばあさんたちが何人も散歩している。女子中学生たちの一団が菓子パンなど齧りつつ通っているが、みんなごく普通の、まっとうな女の子である。いかにもエンコー顔といった子たちしか歩いていないセンター街ばかり、8年も見てきたこちらとしては、まったく人の種類が異なってとまどうようである。
まだマンションは新入居者の引越用の青いシートがそこら一面に敷かれていて、落ち着かない。だいたい、引越というのがあまり好きでない。蔵書というものを抱えている者はみな、そうだろうが。今回の引越も、生活空間のみの移動だから、まだそれほど荷でないという程度で、あまり嬉しくはないのである。ただし、フリーの身の上としては、住居には苦労していない方かもしれない。レディースコミックのブームで少し金を儲けて参宮橋の億ションに入ったときには、世間はバブル崩壊時期でそこのマンションに借り手がなく、不動産屋に“ご職業は”と質問されてK子が
「エッチなマンガ描きでーす」
と答えて、こりゃゼッタイ審査通らないだろうと思っていたのがスンナリと通って江川卓と同じ建物の住人になった(江川の奥さんの両親が住んでいて、江川本人もときどき通ってきていた)し、そこから今のマンションに引っ越したときも、宇田川町のど真ん中という絶好のシチュエーションが、ちょうどここが商業地区に認定変更されて、日照権など、居住者が権利を主張できなくなり、それで古くからの住人がどんどん出ていって、そのおかげで非常な好条件で借りることが出来た(この8年、まっ たく家賃が値上がりしていない)。
一方のK子は、引越大好き人間で、見る夢も最近は引越のものばかりという女である。部屋に入ると私と母にテキパキと指示を出して、ものを片づけはじめる。11時半頃にメシを食って、12時過ぎ頃、荷物の第一陣(札幌から送ったもの)が届く。母は“もう、本当に少いの。お前たち来ないでも、私だけで荷解き出来るわ”などと言っていたが、どうしてどうして、運ばれてきたのを見ると冷凍庫、書き物机、衣装箪笥、電気ピアノまであり、その他にダンボール箱が30箱もあるという、一人暮らしにしてはかなりの量の荷物である。中でも食器類が多い。片端から明けて中のものを棚にしまう。このマンションの購入を決めたときの要素のひとつが収納スペースをしっかりとっていること、なのだが、そこがすぐに満杯になる。まあ、3LDKのう ち一部屋は最初の予定通り納戸替わりに使うからいいが。
平塚くん夫妻も来てくれて、パソコン回りを設定してくれる。電話機が届いたので私が接続。荷造りはほとんど星さんがやったので、母はどこに何があるのかわからない。ハンガーがいっかな出てこない。ダンボール箱はどんどん畳んでベランダに積み重ねる。途中で、まだ荷物が山積している和室でコーヒーを啜りながら、祖母の話など。『わしズム』に書いたエピソード以外にも、祖母には凄まじい話がいくらもある ようである。
風呂の自動給湯装置を試してみる。途中でときどき、ゴボゴボ……と止まったりしてハラハラするが、無事、作動するようである。止まるのは、湯の音頭だの水量だのを測っているらしい。機械がいろいろ考えるのは嫌いである。私はコピー機が勝手に用紙サイズを決めたるするのもイヤで、必ず紙はこちらで大きさを指定する。機械ごときがモノを考えなくていい、指示された通りに働いていればいいんだ、と、新『鉄 腕アトム』の悪役みたいなことを思うのである。この自動給湯器は、おまけに
「そろそろ、お風呂がたまります」
などと、生意気にしゃべるのである。
今日届くはずの最後の荷物(猫の砂)も無事届き、7時、平塚くん夫妻伴って、参宮橋『クリクリ』に行く。雛鳥半身、タルタル、イカの巻きずし、ルンピアなど。子羊が品切れだったので代わりに頼んだ豚の角煮が、黒酢風味で結構だった。母は明日からはウチの台所で料理をする、という。まだダイニングチェアがないから平塚くんたちはダメね、とK子が言うと、平塚夫妻、“いや、椅子を持ってお邪魔します”。椅子持参の食事というのは珍しい。他に、毎昼のお弁当も作ってもらうそうで(これは私もこれからそうなる)、お弁当箱も買ってくるとのこと。