裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

5日

金曜日

ひとことご猥褻を申し上げます

 ええ、本日はまことにすがすがしい×××びよりでございまして。朝、7時15分起床。テレビつけるとニュースはどこでも長島の脳梗塞ばなし。68歳というと、うちの父が倒れたのと同い年。おまけに、毎朝アミールSを飲んでいた(CMやっていたんだから飲んでいたんだろう)のは私と同じ。長島という人はセコムといいアミールといい、CMのスポンサーをよく裏切る。それでも悪口を言われないんだから(セコムはあの事件以後も長島をイメージキャラクターとして継続して使っている)、実 に得な性格の持ち主であった。朝食、ソバ粉焼き。

 米マクドナルドがフライドポテトとドリンク類のスーパーサイズの販売を年内で取りやめるというニュースが昨日あたりから大きく取り上げられている。昨日の日記に書いた大統領選がらみで言うと、これはブッシュ有利の要素である。何故かというとこういう断をマクドナルドが下せるのは、アメリカ人の経済状態が向上し、安定していることを示すニュースだからである。『デブの帝国』(バジリコ)でグレッグ・クライツァーが指摘しているように、アメリカが超肥満大国になってしまったのは、ニクソン政権時代、政府があの国の貧困層に食事の満足感(満腹感)を与える目的で、値段の安いパーム油(アブラヤシからとる、牛脂に近い植物油)と、砂糖の六倍の甘さを持つHFSC(高果糖コーンシロップ。発明者はなんと日本人だという)を使用したファースト・フードの普及を奨励したためである。これらを多用したことで得ら れる“飽食の快感”に、アメリカ人の低所得層は完全に虜になってしまった。

 彼らに太りすぎによる不健康の責めを負わせるのは、ちょっと酷である。著者のクライツァー自身、自分のダイエットが成功したのは、自分が社会的経済的に上位の階 層に属していたからだ、と認めている。
「わたしには二週間に一度、診察しましょうと言ってくれた医者がいたし、近くに散歩やジョギングをするのに安全な公園があった。友人たちも、スマートになることはいいことだと思っているし、妻は、家でヘルシーな食事を作ってくれた。健康についての本や、栄養学についての最新情報が書かれている医学雑誌も手に入る」
 ハレムに住んでいる人々は、夜寝る前にジョギングをしようとしても、追いはぎにナイフを突きつけられるという危険を覚悟の上でなければ出来ないのである。脂肪分の少ないローカロリー食は、油ギトギトのビッグマックの数倍の値段がする。減食の苦しみをまぎらす娯楽も、映画やビデオの鑑賞はつい、スナック菓子に手が伸びる誘惑の温床だ。そういうものを観賞中に食べられない、コンサートや演劇は入場料が高く、楽しむのに教養を必要とする。結局、たらふく食って満足して寝ること、これし か低所得層に許されている娯楽はないのである。

 そのアメリカ人が、自分たちの満足を犠牲にして、スーパーサイズのフライドポテトとマックシェイクをやめよう、と言い出した。これは、アメリカの経済が現在、かなり安定し、貧困層が減っていっていることを示している。また、イラク戦争に対する国民の不満感もそれほど蔓延していないことを示す。もし国民に焦燥感が瀰漫している状態であれば、自分たちの楽しみを制限するこのような決定に、低所得層からの猛反発が巻き起こる筈である。あの国の人々には(まあ、かなりひどいところまで行き着いてしまった末、ではあるけれど)節制により自らの状態を改善させよう、という上昇志向がある。これは精神にかなり余裕を持っていないと出来ないことである。経済と国民意識の安定があるとき、選挙は現職が絶対有利。これは鉄則である。現職ブッシュの父のブッシュは、大統領だったとき、湾岸戦争に勝つことにばかり一所懸命になって経済をおろそかにしてしまい、対立候補クリントンの“問題は戦争ではなく経済だ”というアピールの前に敗れ去った。その轍だけは踏むまいとブッシュは雇用や社会保障政策に力を入れている。もちろん、イラク情勢は相変わらず時限爆弾である。あんなものを抱えて戦うブッシュ危うしの状況に変わりはないが、少なくともこの報道のウラを読む限りでは、アメリカ人は経済状態の改善を実感している、と思 えるのである。

 11時、河出書房Sくんと打ち合わせ。時間割で待ち合わせたが、11時ではまだあいておらず、東武ホテルで。『こんな猟奇で……』を進呈。本のスケジュールと、まず手元にあるものの整理を話し合う。万博公園の太陽の塔の話など。Sくんは岡本太郎の本などを作っていたので、太陽の塔にもかなり思い入れがあるらしい。人型の巨大建造物の神性、みたいなことを二人で雑談。周囲の席に、老婦人たちがやたらについて、みんな同じランチを食べている。何か婦人会の会合でもあったのか、ちょっ と異様な光景だった。

 新連載、新刊、新企画が多々あるのはうれしいが、その陰で長年続けてきた連載の終了もあり。札幌の就職情報誌『クルー』に3年以上連載を続けてきた『本の中のトンデモ職業』、掲載誌の誌面刷新につき、消えることになった。まずほとんどの私の読者の目に触れない連載だったと思うが、書いていて楽しい原稿だった。まあ、進めていた単行本化の話はそのまま進行するので、いずれまとまった形にはなると思う。

 新宿に雑用で出る。昼時分もちょっと過ぎて(2時近く)、どこかで昼飯でもと思うがちょうどいた場所の近辺ではいい店もなく、東中野まで総武線で行き、大盛軒で焼肉麺。ここでこれを食うのも当分打ち止め。その後、新宿に戻り、ドンキホーテでハンガーを買い、新中野まで。母にハンガー渡す。母が“ちょっと調理道具を買いに新宿に行ってみたい”というので同行する。地下鉄の駅で、母がニューヨーク滞在中に体験した大停電の話を聞く。市民は気楽なもので、マンションの玄関口に座り込んでペチャクチャしゃべりながら、宅配のピザを取って食って、ピクニック気分だったという。なぜピザが大停電でも動いていたかというと、窯焼きを売り物にしていた、 電気を使わない店だったから、だとか。

 三平ストアに母を案内して別れ、帰宅。朝日新聞社からコメント依頼あり、日取りの設定連絡。原田実氏からリンク許可依頼のメール。ゆまにTさんから、ローリー寺西による『人食いバラ』朗読のラジオ放送の件。ワニマガジンから『壁耳劇場』表紙画像。さらに、『ものかきデータベース』なるところから、リンクのお知らせ。
http://kitayu.com/monokaki/navi/navi.cgi?cmd=r&Num=113
 ……本当に、いろいろとある毎日。

 7時半、また家を出て絵などをかけるフックを東急ハンズで買い、新中野に。8時到着。すでにリビングには開田夫妻とI矢くんが着席していた。お客第二号であるが今日はちゃんと椅子が到着しており、さらにテーブルクロスも敷かれ、食事会ぽくはなっている。家での食事会はK子が電話でピンポイントに予約をとっているので、私には行くまで誰が来るのかわからない。肝心のK子はホステスを相務めるどころか、領収書の計算に時分の部屋に行ってしまっている。なんなんだ。I矢くんの持参してくれたワイン、それから開田さんたちの持ってきた銀河高原ビールとベルギービール で乾杯。

 白身魚の酢の物、大根と豚の三枚肉のあっさり煮 塩とタレで焼き鳥二種、レンコンのキンピラに自家クルミをかけた野菜サラダ、茄子味噌炒めなど。会話がはずんではずんでトメドない。最後は塩イクラをたっぷり使ったイクラ丼。I矢くんの持ってきてくれたスペインワイン(カーサ・デラ・エルミータ)がフランスともイタリアとも異なるスペインワイン独自の風味で結構。11時過ぎまでワイワイとやって、タク シーで帰宅。

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