裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

20日

土曜日

ひとつデルフォイのよさフォイのフォイ

 神官の娘とやるときにゃ、神託聞き々々せにゃならぬ。朝、7時起床、入浴、変わらず。朝食はライ麦パンとサラダ、キャベツ炒め。新聞のトップは台湾の総統選における陳候補狙撃の報。対立候補が“連戦”と言う名であることを初めて知った。連戦 連勝、とかいうキャッチフレーズが台湾にもあるだろうか。

 朝食、いつものサラダとライ麦パン。雨が降って寒い。みぞれにもなりそうな氷雨である。しばらく家のパソコンで仕事して、10時45分に傘さしてK子と出る。地下鉄で新宿、そこから山手線で高田馬場。時間が早かったのでビッグボックス内の、カフェテリアのついているパン屋さんで時間つぶし。ナンビョー鈴木くんとナジャさ んに偶然出会う。タクシー相乗りにして国際会議場まで。

 今回、同じ会場で“人権会議”みたいなものが開かれており、一階ロビーでは週刊金曜日なぞも関連書籍として売られていた。こういうところと“と学会”が同じ会場を分けて使うとは、と苦笑。会場にはすでに皆神さん、眠田さん、植木さんはじめ皆 さん集まって機材の使用テストなどをやっている。

 今日一番ヤキモキしたのは、私を通じてのゲスト参加者が多いこと。サイバラさんは二次会からということになった(子供の幼稚園のお別れ会があるのだそうである)が、それでも古書マニアのSくん、笹公人さんとタカノ綾さん、高須の若先生、それから私の読者で、地方議会の議事録の中のトンデモ発言を見つけるのが趣味というKさんが来る。彼らが無事に迷わず会場まで来られるか、時間内に発表が出来るか、などが気にかかる。無事全員たどりつけて、Kさんの発表もウケ、結果的にはいい結果となったけれども。タカノさんはずっとトンデモにハマっていたのが、『トンデモ本の世界』で目からウロコがワッと落ち、それ以来のと学会ファンであるとのこと。

 発表、今回もそれぞれの人がそれぞれの持ち味で必殺技を繰り出す。特に笑ったのは、北朝鮮よりはるかに凝った創価学会のマスゲーム、ブライアン・イーノやマイケル・ナイマンが参加したギャビン・ブライアーズの“ポーツマス・シンフォニア”の演奏による、凄まじくトッぱずした『ツァラトゥストラかく語りき』(開田さん)、気孔の技で、ちんちんに200キログラムの重りをぶらさげて持ち上げるという本とその映像(M越さん)などなど。開田あやさんがベトナム俳句(ベトナムの米兵が俳句を詠んでいた、というネットのフェイクサイト)なるものを紹介すると即、桐生祐 狩さんが自分で作った句を発表。植木さん曰く
「『笑点』じゃないんだから」
 また、ゲストのSくんは、ネタそのものの面白さというより、A社に対する罵倒を並べた本を紹介、その本を写す書画カメラなどを調整しているK田さんが実はA社の人間である(Sくんは当然知らないままにA社の罵倒を嬉々として紹介している)と いうシチュエーションが、コメディのようで大笑い。

 私はかのコキガミの作者バートン・シルバーのフェイク本『ニュージーランド・ゴルフ・クロス』を紹介。ニュージーランドでは植民地時代に定着したゴルフが、地形に合わせて独自の発達を遂げ、ラグビーボールのような楕円形のボールを用い、ホールでなくグリーンに立てたY字型のポールに張られたネットの中に打ち込む形に変化した。そのゲーム歴史とプレイの仕方、ルール、ネットの張り方までを懇切丁寧に解説した本……と見せかけて、実は全部ウソなのである。持ち時間7分だったが、時間を知らせるベルの音が聞こえず、まだあると思ってやっているうちにかなりオーバーしてしまったらしい。後半の発表者は時間がオシて短縮になってしまったが、その件についてコメントしたら、皆神さんから“カラサワさんが一番長かったんだから”と 言われてしまい、エッ、そうだったの、と驚愕、恐縮。

 ナジャさんには、いつもタイムキーピングの手伝いをやってくれている声ちゃんやmikipooさんが来てないので、ゲストでいきなり手伝いをやらせてしまう。申し訳なし。昼メシはI矢くんが買ってきてくれた焼きたてパンとソーセージ。これがしみじみうまい。M越さんのネタがあんまり面白かったものだから、急遽、東京大会のエクストラ発表に加えさせてもらうことを決議。S井さんが気分が悪い、と早退し たのがちょっと心配である。

 なんとかコボれも出さず5時45分終了、今日は二次会がはるかはなれた田町の中華料理店『大連』なため、そこから別れて中京大のA先生たちとゾロゾロと移動。考えてみれば、一次会が早稲田の地で、二次会が慶応のグランド内である。なかなかアカデミックな会であることである。田町駅で、二次会番長のIPPANさんとS山さんがずらりとみんなを5列縦隊で並ばせる。ちょうどそこに、手書きの地図を手にしたサイバラさんがやってきた。迷わせなかったということでホッとする。

『大連』、今日はわれわれの貸し切り。総勢55人が三階に入れ込みになる。藤倉さんに音頭とってもらって乾杯。笹さん、タカノさん、川口さん、高須ジュニア、サイバラさんなど、ゲスト陣の集まった席に着く。サイバラさん、今日は本会に出られなかったことを本当に残念がっていた。
「人を笑わせる仕事をしていると、5時間以上、他人がこっちを笑わせてくれる会に出ているということが本当にリラックスできて楽しい」
 という台詞にちょっと感動みたいなものを覚える。私やなをきのような、ネタを外から探してくるタイプと異なり、ある種自分自身をストレートにネタにしている彼女のような作家には、実際は凄まじいストレスがたまっているのだろう。高須ジュニア の結婚祝いに、とサイバラさん、サイバラグッズの夫婦茶碗をあげて、
「……一番縁起の悪い結婚祝いですよねえ、アハハハ」
 と笑う。これも自己ネタの一例。私にも、その縁起の悪いグッズをくれた。

 笹さんとタカノさんには、昨日行ったという秋山眞人氏の会で秋山氏に描いて貰ったという、自分たちの前世の絵というのを見せてもらう。タカノさんは明日は師匠の村上隆の会があって、そこに顔を出さねばならないとのこと。直弟子の彼女の口から 聞く村上隆の人格評価に大笑いする。笹さんの『念力家族』はまだ大人気。
「エンリキ・トーレスというレスラーがいましたが念力家族に響きが似てますね」
 などと口走るが通ぜず(当たり前だ)。サイバラさんも貰って喜んでいた。

 そこに高須シニア到着。知らせてはあったが、よく迷わずにこの店に来られましたねと言うと、田町の駅前でタクシーに乗り、“田町でギョーザのうまい店があるそうなんで、そこに連れてって”と頼んだのだそうだ。“そしたらですね、いきなり違う店に連れてかれたんです”と。これで無事、たどりついたのが奇跡みたいなもんであ る。怖いモノ知らずのナンビョー鈴木くんが、高須シニアに
「先生、ブラックカード(サイバラのマンガで有名になった、アメリカンエクスプレスの、利用限度無制限というカード)ってのを一度見せてくれませんか」
 と頼んだら、ハイハイと、まるで定期みたいに見せてくれる。周囲に人が群がった のが可笑しい。

 高須シニア、私に“しかし、と学会には感謝してます。息子のこんなに喜んでいる顔を、父親の私でも見たことがありません”と言う。ジュニアの方は基本的にあまりしゃべらずはしゃがず、特に今日はいつも相手をしてくれているイットリウム氏も早退した(サイバラさんと同じ理由で、彼女は遅刻、こっちは早退)ので、果たして楽しんでいるのかどうか、外見から判断できずに首をひねっていたのだ。サイバラ曰く
「このジュニアはインプット能力は凄まじいが、いかんせんアウトプット能力が極端 に不足している」
 とのこと。

 料理、次々に出る。中ではやはりギョーザ(焼きと蒸し)が絶品で、あと鯉がヘルペスで手に入らないせいか、鯛を使った丸揚げのあんかけが懐かしい料理。それと、牡蠣の天麩羅が出て、これはこれまで食った中華の牡蠣天麩羅の中でも記録するに足る味わい。ただし、ここの料理は昔ながらの中華であって、要するに化学調味料がふんだんに使われているから、酒と合わさると少々酔いが奇妙に回る傾きがある。料理も酒も人一倍摂取している植木不等式氏がやはり一番ケッタイな酔い方。ここのマオタイが、普通のマオタイに見えて実は全然違うパチモンだったりするのに大喜びして“偽物のマオタイいかがっすかあ”などと大声でわめいて、S山さんがハラハラしていた。会員のI田さんから、スコッチの滅多に手に入らないという度数の高いのをサイバラさんと二人ご馳走になる。互いに“しかし相変わらず強いね”“カラサワさんもいくら飲んでも微塵も変わらないじゃない”と呆れあう。

 周囲の騒ぎ、次第に狂騒的になる。これだけ騒いで、お父さんが怒らないかと思っていたが、逆に大層なご機嫌だったらしい。焼きそばを追加して持ってきてくれたらしいし、終いにはおなじみのカラオケが出た。勧められて“義務ですから”という感じでS山さんが『北酒場』を、私はサイバラとデュエットで『北国の春』を。高須シニアはこれから名古屋だということで途中退席。“ウチの母親が肌の染みを消したいと言っているのですが”というと、“あ、まかせててください!”と。

 皆神氏、志水氏などとも東京大会のこと打ち合わせ。10時ころ、お開き。疲労したところに強い酒が入ったせいか、FKJさんが歩けない状態。植木さんが面倒を見ていたようなので、彼にまかせて帰るが、酔っぱらいに酔っぱらいの世話をまかせるというのも、あまり安心な話にあらず。山手線、丸の内線と乗り継いで帰宅。メールだけチェックすると、一次会だけで帰った組から、すでに今日の会の報告が入ってい た。飲まない人はやはりきちんとしているなあ。

 

Copyright 2006 Shunichi Karasawa