裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

4日

木曜日

関白フリッパー

 イルカに乗った太政大臣。朝5時目が覚めて、メールチェックなど。メディアファクトリーから、竹内真氏の小説の推薦文をダ・ヴィンチにお願い、という依頼。すぐ了承のメールを送る。6時にもう一度寝床に戻り、7時半、改めて起床。朝食、ソバ粉焼き、リンゴ、中華スープ。K子は本当に引越の夢を見た(新しい部屋に行ってみたら、荷物がそこら中に散乱し、猫がゲロまみれになっているという夢)という。

 新聞でいよいよケリーVS.ブッシュの対決が頻繁に話題になりはじめた。マスコミも識者も露骨にケリー贔屓で、ケリーはベトナムの英雄、ブッシュは兵役逃れ、と言っているが、反戦々々と言っている人たちにとっては、兵役がイヤで逃げたやつの方が“良心的”ということになるのではないのか。ところで、昔アート・バックウォ ルドがコラムで、“政治風刺作家協会の会議”というネタをやり、漫画家に
「モンデールみたいな特長のない顔の男が大統領になったら、われわれはメシの食いあげだ!」
「クエールなんて、首に“副大統領”って書いた札を下げさせておかないと読者には誰だかわからん」
 と叫ばせ、
「ああ、ニクソンの時代はよかったなあ」
 と感慨にふける有様を描いて、読んで大笑いしたことがある。ブッシュ氏とケリー氏を比べてみると、言動ではブッシュの方がいろいろマヌケなことを言ったりするのでコラムニストには有り難く、また漫画家にとっては、ケリー氏のあの長大なアゴが カリカチュアライズしやすく有り難かろう。

 このあいだ某サイトで、ジュヴナイル・ポルノのことが論じられていたのをなにげなく読んだが、そこで、“「ジュヴナイル・ポルノ」という名称は、パソコン通信時代に、ニフティのゲーム系会議室で、ボードリーダーをしていた安達瑶氏が名付けて広まった言葉”という説明がなされていて、いきなり知人の、それもジュヴナイル・ポルノとはあまり縁のない作家さんの名前が出てきて驚いた。本人に確認したところ確かにいい名称がないのでそう称したことがあるが、しかしあの当時は丁度そのような作品の濫觴期で、同時多発的に各所で言い出されたのではないか、とのこと。ジュヴナイルという、日本語として座りの悪い響きの言葉が、こんなところで市民権を得 るとは思わなかった。

 私らが中高生の頃、“ジュビナルSF”という言い方がちょっと流行ったことがある。少年向けSFのことだが、ジュビナルという聞き慣れない単語が、語感的にSFと非常によくマッチして、ジュビナルもの、というような言い方も生まれてしばらく広まったが、その後、大人向けの分野でのSFが衰退し、おまけに『スター・ウォーズ』などの大流行りでSFと言えば子供、もしくは子供っ気の抜けない連中のためのもの、というようなイメージが定着してしまい、ジュビナルとわざわざ区分して呼ぶ必要がなくなったために、いつしかこの言い方は消滅してしまった。ポルノであるならば、大人ものが前提の存在であり、それにジュビナル(ジュヴナイル)とつけて区分する必然性がハッキリしている。変な話だが、juvenailという単語が日本 でやっと居所を見つけた、ということになるかも知れない。

『ダ・カーポ』コメント稿のゲラチェックして返送。昼は兆楽で味噌ラーメン。2時に『時間割』で世界文化社Dさんと打ち合わせ。ようやく、本の視点が定まってきた感じ。『こんな猟奇でよかったら』進呈して、しばらく雑談。彼女も植木不等式さんの招待になる“豚の丸焼きの会”に行くそうである。話している最中に、なんだかどんどんトリトメがなくなっていくのが自分でもわかる。おかしいな、と思い、打ち合わせ終わって外へ出て見たら、雨が降っていた。ああ、この気圧変化のせいか、と納 得した。

 帰宅して仕事場のパソコンの前に座ったら、外が黄砂でも降ったかのように、黄色く染まっている。眠くて眠くて、ガクッとキーボードの上に顔が落ちそうになる。ひさしぶりに石原伸司さんから電話。著書『ヤクザの恋愛術』(幻冬舎)がやっと出た件。この人のキャラクターは大変にオモシロイが、いいマネージャーが絶対必要だと 思う。潮健児さんなみの、オトナコドモ的人格なのだ。

 メディア・ウィザードS氏から電話、来週急遽メシ食いながらの打ち合わせ時間がとれないか、とのこと。進行中の企画がどんどん広がっているらしい。“それとは別件で”“これも別件ですが”と、ベッケンと聞くたびに新展開がある。そのくせ、本家本元の仕事はいろいろあってまだ動き出していない。ベッケンの件は、まだ電話で聞いただけなので何とも判断がつかないが、実現すればヒョウタンからコマである。 K子に電話してスケジュール確認。

 5時半、家を出て(雨はやんでいた)東急ハンズで買い物、そこから新宿に出て、サウナ&マッサージ。美人の女性マッサージ師さん、私の記事などを雑誌で見ているらしく“やっぱりあれだけお仕事なさっていると疲れますよね”とか話しかけてくるが、こちらは気圧と目の疲れの凝りが補正されていくのが気持ちよく、揉まれながら 寝込んでしまった。

 そこからタクシーで新中野。まだ引っ越しの最中の、いろいろ荷物が散らばっている中での初めての母の料理会。作っている間にハンズで買った飾り釘を使って鏡や絵をかける。8時半、平塚くん夫妻、丸椅子を抱えて来宅。わが家のお客第一号。まだ調理器具や皿がどこにあるのか、探しながらの料理だったが、メニューは塩イクラとサーディンのトーストカナッペ、ベーコンとトマトのキャベツスープ、繊切り大根とキャベツと札幌のクルミのサラダ、タラのムニエルアンチョビソース、ジャガイモのバター煮添え。これでおしまいのハズだったがまだ食べたりず、急遽牛肉のホイコーロー風を加える。最後に梅おかかのおにぎり。床暖房の入ったリビングで食べたので酒が回る々々。11時、お開き。新中野から渋谷に帰るのはキツい。外食ならば武蔵小杉だの相模大野からでも帰るのは苦にならないのだが、やはり“自宅で食べる”という意識があるからか?

Copyright 2006 Shunichi Karasawa