裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

11日

木曜日

エルサレムこの世のほかのおもひでに

 いまひとたびの国家再建。ゆうべ寝入ったのが10時ころ、何かやたらぐっすり寝た気分で目が覚め、アア、いま何時ころかな、6時かな、まだ窓の外は暗そうだから5時半くらいかな、と思って時計を見たら1時半だった。早起き(?)の新記録。仕方なくまた寝て、3時ころ目が覚めて、また寝て5時ころ目が覚めて、さらに寝て、7時半、本式に起床。目が覚めるたびに『蕪村俳句集』何句かずつ読む。

 風呂に入っていたら母から内線で朝食が出来たというしらせ。どうもまだお互いの連絡がギクシャクである。50分に食堂に行き、クルミパン、中華スープ(以前私が作って飲んでいたようなインチキ中華ではなく、繊切り野菜の入った上品なもの)を カップ一杯、ニンジンのサラダにコーヒー。

 早いから、とのんびりしていたら、すぐ30分近くになる。クリーニング屋さんに部屋番号確認の電話かけたり、雑用もチョコチョコある。済ませてあわてて出勤。通りに出たところで、半のバスが目の前を通り過ぎた。今日はまた時間通りに来やがった。バス停で次の便を待つ。青梅街道は馬糞風が吹き荒れていて、帽子を飛ばされないよう苦労する。次のバスは5分後なのだが、これが今度は遅れて、10分待たせられる。その代わり空いていて、運転席の後ろの席に座れた。宝泉寺前、東京医大前を経由して新宿駅西口。そこからの乗り換えで、またまた9時3分の渋谷行きを目の前でミスり、次の10分発に乗って25分に放送センター前、9時半に仕事場着。ジャ スト1時間かかった。

 時間の正確さと早さでは地下鉄とJRの組み合わせの方がはるかに優れているのであるが、しかししばらくはバス通勤をしてみるつもり。理由としては、地下鉄とJRではこの時間帯では絶対座れないが、バスだとまず確実に(殊に渋谷行きは始発だから)座れることと、地上オンリーの乗り換えの方が楽なことがある。立ったままでは 本も読みにくい。

 到着してしばらくは連絡事項で時間を費やす。岡田斗司夫さんから、ホルモン好きな女性を一人紹介するから、犬鍋とかの会に連れていってあげてくれませんかという変わったお願い。岡田さんやヌカダさんが連れていっているような、普通にウマい焼肉屋さんではダメなんだそうである。あと、SFマガジン、北海道新聞などから締切 の確認メール。

 昼の弁当、今日は豚の味噌漬け(?)と卵焼き。飯が少し固めだが、噛みしめて食すとしみじみうまい。録画しておいたビデオ類を少し消化。ふむふむ、という程度。和室(これまで寝室に使用していた)に、どのように書棚を設置するか、を考える。 頭の中では見事に整理された、美しい書庫になるはず、なのだが。

 気圧乱れ模様。テンションあがらずぐったり。和室の真ん中に寝転がって『奇抜雑誌』バックナンバーなどに目を通す。ウトウトして、気がついたらもう5時半。急いで支度して、外出。携帯を仕事場に忘れてきたのに途中で気づく。オシャレなカラーシャツで、胸ポケットがない。いつも私は胸ポケットに携帯を入れておくのだが、仕方ないのでズボンのポケットに突っ込んで仕事場に来た。しかし、ズボンのポケットだとふくらんでしまうので、目の前に置いておけば大丈夫だろ、と思いパソコンのモニターの脇に置いておいて、着替えをしている間に見事に忘れた。やっぱりオシャレ なものってのはダメである。

 渋谷駅でK子と落ち合い、恵比寿へ。ネット四コマを講談社フライデーと提携して連載する件で、ネット四コマの(株)スカイバナナN社長とW氏、フライデー編集部と打ち合わせ。打ち合わせ場所に指定されたのが恵比寿のウエスティリアホテルなるところ。ネットで調べるとガーデンプレイス内とある。恵比寿駅からガーデンプレイスというのがだいぶある上に、たどりついてみると、ウエスティリアホテルというのがまた、ガーデンプレイスの端っこにあり、かなり歩く。着いてみて驚いたが、無闇やたらと豪華なホテルである。悪趣味系に一歩足を踏み入れている豪華さかも知れない。太い柱に文様のついた絨毯、ロビーに置かれているのがペガサスの像、それも向かい合って二つである。一階の“ザ・カフェ”なるところでとりあえずN氏、W氏と待ち合わせ、少し話して二階の中華料理店『龍天門』なる店へ。ここもまた(まあ、中華系は仕方ないかもしれないが)成金悪趣味系全開の装飾の店で、店頭に置かれた像が、神様だか仙人だか聖人だかが巨大な魚の腹に腰掛けているもので、魚は口から灯籠のようなものを突きだしている。キッチュ好みとしては嬉しいものだが。

 奥の個室に通される。フライデーのTくんと、副編集長K氏、それから(株)エイバックのO氏。名刺交換して、打ち合わせに入る。今回の企画、こちらとしては非常にオイシイ話であるのだが、なにがさて、まだネット配信の開始時期があやふやなもの故(この期に及んでまだ開始が四月イッピから末まで揺れている)、なかなか具体的な話に入れないのが隔靴掻痒という感じ。K子がそこらをビシビシと指摘する。彼女はまだ具体的になってないものは一切信用しない人間だし、マネージメントする役職としてそれは当然なのだが、モノカキとしてのこちらとしては、多少は将来のオイシイ状態を鼻先にニンジンとしてブラ下げられなくては、走り出すモチベーションが 得られないから困惑するところ。

 仕方ないので仕事周辺の雑談いろいろ。K子と漫才のように合いの手をお互いに入れながら話していたら、O氏がやたら面白がっていた。ゴシップばなししばらく。料理はクラゲ、炙り鶏の前菜からキヌガサタケのスープ、茹でエビ(指で剥いてタレにつけて食べる)、牛肉の煮物、ソフトシェルクラブの揚げ物(北京ダックは鳥インフルエンザの影響で販売中止になっており、その代わりの料理だとか)、チャーハンなど出るが、全然印象に残らない味。かかる豪華絢爛な店構えでこの味というのはやはり問題があるのではないか。K副編集長が、この日記を克明に読んでいるのにオドロ いた。最近はこれだから打ち合わせなど、油断が出来ない。

 とにかく、フライデーの方は第一弾を別冊の方でGW前に、ということだけ決めて今日はおひらき。“ごちそうさまでした”と話を〆メたらOさん、“拍手したいくらいですね”と。寄席の高座と思われたか。タクシーで帰宅、11時。支払いしようとしたら、講談社が払ってくれていた。長年講談社とはお仕事しているが、タクシー代まで持ってくれたのは初めて。思えばエラくなったものであるが、あまりエラくならなくていいからも少しうまい店で打ち合わせがしたい。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa