23日
木曜日
エーコ盛衰
『薔薇の名前』の頃はワシも売れたもんじゃったが(最初『栄子聖水』というのを考えたが、検索してみたらさすがにもういくつもあった)。朝、7時半起床。目が覚めて一瞬、あれ、時間を間違えたかと思ったくらい外が暗い。朝食、アスパラガスの缶詰(クレードル)ひと缶。モンキーバナナ2本。食って仕事場に入ると、窓外は紛々と雪が舞っている。やがて11時ころまでにはそれが雨に変わる。気圧の変化がひどく、ずっしりと肩が重い。いや、肩以上に頭が重い。
母から電話。アメリカからである。パソコンの設定の変更のしかたがわからないから豪貴に聞いてくれ、という。自分でかけて聞けばいいのに、と言うと、あの子は忙しいから、とか言う。誰がかけたって忙しいのには変わりない。札幌に電話してが出 かけていたようなので、依頼をFAXしておく。
なんとか日記書き、原稿にかかろうとするが、数分モニター画面を見つめているだけでガクッと落ちそうになる。気分を転換させようと読書。それも難しいものはダメである。レナード・ニモイの『わたしはスポック』を読む。ユダヤ人である彼(『屋根の上のバイオリン弾き』のテヴィエも演じている)がホロコーストや自分のルーツであるロシアに非常に関心を持っていることを知って興味深かった。なるほど、チームの一員でありながらどこか異物視されるスポックのキャラクターは、ユダヤ人のニモイが演じたことで非常に自然になったのだな。
あと、ハリウッドというところのビジネスライクなドライさも面白い。『スター・トレック』の放送が終わったとたん、それまで使っていたオフィスを明け渡せと言われ、どんどんとオフィスの調度を運び出されてしまう。ところがその二週間後、今度は『スパイ大作戦』でのレギュラーが決まり、また元のオフィスに舞い戻ることになる。“あのとき二週間待ってくれればこんな面倒なことはしなくてすんだのに”とス タッフに言うと、そのときの答えが
「レナード、今はきみを愛しているが、あのときのわれわれはきみを愛していなかったんだ」
……ちょっと聞くとムチャクチャに不人情に聞こえるが、これはハリウッドでは定番のセリフであるらしい。ああいう仕事をしていると、以前つれなくした俳優が後で売れ出したりして、顔を合わせたときにバツの悪い気分になることよくがある。そういうことが度重なって“ここ(ハリウッド)ではそれが当たり前、うらみっこなし”という習慣が生まれたのだろう。いや、私も将来ベストセラーでも出したら、いまつれない態度をとっている編集者のみなさんを、やっぱり愛するようになります。
昼は母が送ってくれたカレーとけんちん。食事したらもうダメで、床にごろりと倒れるようにしてしばらく熟睡してしまう。3時半、平塚くんがサイトのURLの変更 に来てくれる。東文研でドメインがとれたためで、新URLは
http://www.tobunken.com/
になる。ブックマーク等の変更をよろしく。お礼代わりに、母のカレーがもうひと瓶あったのを差し上げる。
原稿にかかったのが夕方5時を過ぎてから。しかし肩が鉛のように重い。銀河出版のIくんから戦争論の内容についての質問事項メモなどが来たので、それに対する返信をしたためているうちに7時過ぎになる。雨はあがっているが、寒々しい。出て、四谷三丁目、まさ吉。井上デザインのみんなと、角川書店のKくん(以前イーストプレスにいた)、彼の知り合いのぶんか社の人たちと。雑駁な話をエンエンとしたが、いろいろ情報交換も出来て有意義だった。イワシしそ揚げ、納豆シソ揚げ、牛すじ、焼き鳥などの他、モツ鍋とチャンポン。やはり体調がヘンで、ヘンな酔い方。まさ吉のお母さんにおみやげといって明太子と日本酒ひと瓶、貰った。