20日
月曜日
ジョン・ロック語録はどこでわかる
前編が四章、後編が六章、これを名付けて……(花緑だとかザ・ロックだとかハーロックだとか、もっと語呂がいい人名もあるんだが、“語録”ときてピタッと座るのはやはり、ジョン・ロックなのだな)。朝7時半、起床。ゆうべ暖房の風量を自動にしておいたら、やはり寒い。しかしあえて朝寒を楽しんでみる。熱い朝風呂が快感である。
朝食、またコーンと豆。バナナ。日記つけていたら電話、小野伯父から。母が渡米の前に電話したらしい。札幌で公演を行うことでいさかいがあったらしい。その言い訳を私にしてくるので、“私に何か言われても困ります、関係ないんですから”と言う。“母もあれだけ縁を切ったと言っておいて、また電話するのは困ったものだと思います。そのことはよく言っておきます。でも、伯父さんも、いちいち母に理解されようと思って説明したり言い訳したりするの、よしませんか。お互い、70と72です。この年齢で理解しあえないというのは、根本のところでズレがあるんです。もうそのズレを補正するのは無理な年齢だと思います。母は母で伯父さんに振り回されない、自分の時間を持つべきですし、伯父さんも、母に褒められようとか、認められようとか、そういう希望はもう捨てて、自分の納得のいくことであればやってしまえばそれでいいんです。どう言葉を費やしても、母は伯父さんのことを理解して褒めるようにはなりません。それはもう、アキラメてくださいませんか”と言う。そもそも、いかにも前日深酒をした、という声である。自分でも気になったとみえ、“この声はネ、ゆうべ、新年会でちょっと歌ったんで……”と言う。一番聞きたくない声だ。 電話切って、仕事関係(〆切延ばしていただけませんか、というようなモノ)電話数本。そしたら、等の母から電話、“これから立つから”という報せ。今、小野伯父から電話があった、と伝えると、“あら! エヘヘ、私さっき、電話しちゃったの”と言う。困ったもんだ。これからアメリカへ一年間旅立つというときの電話で小野栄一コキおろしばなしとなる。それもこの人らしいか。
今夜の朗読原稿に手を入れる。擬古文のものなので、漢字の読み、特に人名など、ヤッカイである。ゆまに書房さんから吉屋信子本解説、改めて正式に依頼。昼は外に出る時間がないので、茶漬けですます。ネットでレッシグのインタビューを読むが、冒頭部分の話のつながりが不自然で、ちょっと混乱してしまった。よく読むと、どうやら“コミックマーケット”という言葉を、“マンガ市場(いちば)”と訳しているらしく、その“市場”と“マンガの市場”というときの“市場(しじょう)”がゴッチャになっていて、それで読みにくいのではないか、と想像がついた。コミックマーケットは固有名詞なんだから、訳しちゃおかしいだろう。先日の鶴見俊輔の本の『超人』みたいなものだ。インタビュアーの鈴木謙介という人は気鋭の社会学者らしいのだが、コミケはご存じなかったか。まあ、もっとも高校生くらいのとき、社会学のお堅い本に“ビートルズの『昨日』という曲に……”という文章を見つけて吹き出したことがあるから、こういう学者訳というのは伝統みたいなものかもしれないが。
http://www.bk1.co.jp/cgibin/srch/srch_top.cgi/
3cdf1c9f57c6a0103d83?aid=
一方で、今一日数ページづつ読んでいるのがマイケル・ペイリンの『ヘミングウェイ・アドベンチャー』(産業編集センター刊、月谷真紀・訳)。こちらの訳は非常に読みやすく好感が持てるのだが、
「イギリスの喜劇俳優ジョン・クリーズのそっくりさんが……」(22頁)
というような部分、果たして“イギリスの喜劇俳優”の部分は原文にあるのかな、訳者の親切心からの、しかしお節介な付け加えではないのかな、と、引っかかってしまう。マイケル・ペイリンが余人は知らずジョン・クリーズの名に説明を加えるとはちょっと考えられないんだが(しかし、それを前提にぬけぬけと言わでもの説明を添える、というギャグとしてなら、モンティの連中であればやりそうではある)。 4時、家を出て新宿ロフトプラスワン。斎藤さん、本日の出演者ベギラマ、宇多まろんと打ち合わせ。衣装は斎藤さんが必死に回って揃えてくれた着物、ひょっとこのお面。お面ではなくゴムマスクで、見るも奇怪なウナギ(これもゴム製)がついている。ウナギかと思ったらドジョウで、パーティの余興のドジョウすくいセットなのだそうな。メイド・イン・チャイナと書いてあったが、中国にはドジョウがいないのだろうか、ヒゲがドジョウのものではなく、ナマズである。このドジョウを無性に使いたくなったので、急遽、朗読予定に、『相対会報告書』の中の、大正七年の尋常小学校教諭の13歳の女の子姦淫事件の朗読劇を付け加えることにする。方言丸出しのこの調書で、教師がズボンの中から“カモ”を出す、という件があり(北海道地方の方言で男性器のことだというが、聞いたことがない。もうひとつ“ツンポ”というのもあるが、これはズーズーだろう)、このカモをドジョウでやってみようと、急遽、斎藤さんも舞台に上げることにする。
ベギとまろんの二人の朗読、初めてにしてはなかなかよし。どんどん内容にツッコミを入れて飛ばすベギラマ、綺麗な声で淡々と読んでいき、そのままのトーンで“何もしないから、と言うオトコって大抵やりますよね”と感想をもらすまろん。斎藤さんと大笑いしながら聞く。22日のトンデモ落語会特別編と、6月のトンデモ本大賞授賞式のチラシをまいてもらう。
6時半、客入れ。最初は出足が鈍いな、と思っていたが、最近の私のライブの特長で、始まってからも入ってくる客が絶えず、最後はほぼ(座敷席を除いて)埋まってしまった。開田さん夫妻とK子は同人誌販売。講談社YくんIくん、福原鉄平くん、阿部能丸くん、川上史津子さん、銀河出版Iくん、神田陽司さん。陽司さんは『かまいたちの夜』の麻野一哉さんを連れてきてくれた。その他、常連さんも多々だったが一方でまったく知らない顔も多い。女性二人のくすぐリングスでのファンもいるらしく、差し入れがあった。くすぐり男爵も来てくれていたが、まろんが“ノーメークの時に男爵とは呼びたくないなあ”と。
雑談、ビデオ上映などから入って、『春画材料』という、やはり相対会報告の中の寸劇みたいなものの朗読(犬までセリフをしゃべる)、特別に川上さんに講談社からの新刊『えろきゅん』の中の一編を客席で朗読してもらい、それから例のカモ。こっちは観ている方は呆れていたが、やっている方がバカ受けだった。こういうことを喜んでやるから、私はエラくなれないのだなあ。大悪ノリで斎藤さんを押し倒す。
で、女性二人の朗読。ベギちゃんが朗読しているときの客席を見て斎藤さん、
「みんな股間あたりを居心地悪そうにさせてます!」
とウレシソーに報告。まろんの朗読の最後の、“肉をかきわけて進入するその様はまるで無人の境を進む戦車であった”にみんな(まろんも)爆笑。休息をはさんで、私の朗読『秘本・楊貴妃』より武恵妃の段。エロ部分(講釈調)と歴史部分(ナレーション調)を読み分ける。読んでいて楽しいが、やはり客席に本職の講釈師がいるというのは緊張。このとき、脇にベギ・まろんの二人を出してアテぶりのようにからみをやらせる。二人とも、下着姿になって大暴れ。ご苦労さまである。もっとゆったりと、一時間くらいかけて読む予定だったが、二人の熱演にひっぱられ、45分になってしまったのは反省点。ともあれ、大ウケでよかった。 そのあと、スカイパーフェクTVの取材に少し答えて、ご苦労様、で打ち上げ。いつもの青葉。陽司さんに語りのダメ出しをしてもらうことにする。雑談系いろいろ。ベギちゃんの新居探しばなしなど。開田裕治さんと麻野さん、陽司さんは、互いに三百メートルも離れていない地域で生まれたのだとか。なんとも世の中は狭いことである。話ながら食べる。最近はトークのあとでも食が進むようになった。カキの唐揚げが美味。それと、ここでいつも楽しみにしているアヒルのロースト。ビールと紹興酒で。12時過ぎ、帰宅して、心地よく疲れて就寝。