17日
金曜日
柳生小僧に会ったかい
あの十兵衛と申すわっぱ、末恐ろしい剣客になる器とみた(御子神典膳・談)。ゆうべの昼寝のせいか、朝5時に目が覚めてしまう。月曜の朗読用のレトロエロ小説を仕事場で読むが、朝読むものではない。6時にまた寝て、7時半起床。朝食はサトウザヤをスチームして。モヤシやクレソンよりボリュームがあるので満足感があるかと思ったが、やはり飽きるな。果物はモンキーバナナ。スーパーモーニングで京都伏見の連続殺人事件レポート。現場が何故か水浸しにされていた、というミステリアスな事件。証拠隠滅にしても特異なケースだということだが、現場の目撃者の証言が
「被害者は血まみれで倒れていたんですね?」
「へえ、そうでんねん」
と、実に緊迫感をそぐ。京都弁でサスペンスは盛り上がらぬ。
新聞に秋山庄太郎氏死去の報。82歳。しかしそれよりもその隣の、榎本滋民氏宅全焼、焼け跡の焼死体は榎本氏か? という記事が気になる。容易に判別できぬ ほど黒焦げになっていたということか。腹ンとこだけ生焼けに……(などという不謹慎なギャグを落語ファンはみな、思い浮かべたと思うが)。TBSの落語特選会での山本文郎とのコンビの姿が真っ先に思い浮かぶ。あのシャツの趣味はどうにかならないかとか、みな言っていたものだが。
こないだからメールやりとりしていた某映像関係会社の人からメール。何か出来ぬかと思って話をしていたが、やはり、今の状況では厳しそう。新しいことにチャレンジしてみたい気分がいろいろしてきているだけに、ちょっと落胆した。文章書きは天職だし、書きたいことはまだ山ほどあるし、決して飽きが来ているわけではないのだが、机の前に縛り付けられている仕事をしていると、“現場”のある仕事がうらやましくなる。映像といえば昨日読んだ『女優の夜』の、荻野目慶子の最初の不倫相手の河合監督、自分のことを“白澤明”と呼ぶほどの映画好きで、のめりこむ性格で、映画を撮る以外の人生を考えられなくて、その結果、映画が撮れなくなった時が生きる目的を失った時だった、というのはあまりにも純粋すぎてやりきれなくなる。こういう熱情は私にはない。私は何であれもう少し余裕と客観性を持ってものごとにあたりたいと考える方だ。それだけに損をしている部分も多々、あると思うが。
郵便局に振込みに出る。ついでにコンビニで買ったご飯に冷や奴、キムチで昼食。冷蔵庫のニラを使ってニラのオミオツケ。コンビニご飯の“原材料”を見たら、“白米、大豆”と書いてある。大豆がいったいどこに? アミノ酸調味料かなんかをまぶしてあるのか? テープで圓生の『らくだ』聞きながら。中学時代買ったレコードをダビングしたものだが、やはりこの『らくだ』が最高。特に後半、屑屋と兄貴分の立場が逆転して以降のブラックなこと、突飛な連想だがスタレーヴィッチの『マスコッ ト』を思い出す。グロテスクきわまる、深夜の狂宴。
電話一本、ちょっと屈託していた件が向こうサイドの都合でひとりでに解決。ホッとした。別に迷惑ということでもなく、めんどくさいなー、というレベルのことであるが。資料本を読み込む。タイトルでアタリをつけて購入したものが、ズバリ役に立つ内容であった。うれしくなる。が、やはり翻訳ものの学術書は読んでいて眠くなってしまう。早起きの疲れもあり、しばらく昼寝。しかし、昼寝をここのところちょいちょい用いることで、まだ今年に入ってからはマッサージや麻黄附子細辛湯のお世話にはなっていない。朝、報道があった榎本滋民氏焼死の件だが、その後一向に続報がない。ネットで検索してみても、森繁久彌の退院、というのは数時間措きに報道されているのに、第一報以来何もなし。何か理由があるのか、とカンぐってしまう。
「馬はそこなわれずや、人を問わず」
とか。
他人様の著書の間違いをあげつらってばかりいてはフェアでない、自分の著作の間違いも公表しておかなくては。『キッチュワールド案内』の中に、箏曲家宮城道雄が事故死したのは参宮急行(近鉄)との記載があるが(76頁)、これはすでに指摘もあった通り、東海道線寝台急行『銀河』のあやまり。主な内容については2度チェックを行っているが、この部分は書き下ろし原稿の最後あたりのもので、別の事故死の記事の資料とゴッチャになり、チェックの目を逃れて活字になってしまった。重版、または文庫化の折には改稿の予定である。全国の鉄ちゃんの皆さんにお詫び申し上げ るものであります。
ロフト斎藤さんから朗読の打ち合わせについて。なんでもCSだかBSだかの取材が入っているとやら。あと、神宮前のアメトイ屋さんアストロマイクから電話。『帝国の逆襲』(スター・ウォーズエピソードV)のボバ・フェット役、ジェレミー・バロックの特別サイン会があるんですが是非、というオタクな内容。夜は華暦で、とか思っていたが金曜で満席とのこと。『ママズアンドパパサン』へ行く。昨日も鶏だったが、まあいいか、と。相変わらず、客層はここの息子(アッくん)のサーファー関係の友人・知人ばかり。話の流れでわかったが、彼、おとついあたりにパパになったらしい。店名が変わるな。子供の名前はなんていうの? と聞いたら、“愛波”と書いてアロハ、と読むとか(女の子)。サーファー的、内田春菊的命名。
「将来、彼女も恋人が出来、結婚するだろうが、大江という男とはつきあわせない方がいい」
「へえ、姓名判断ですか?」
「うん、“アロハオーエ”になる」
串の他にゴーヤチャンプル、じゃこ奴、ジャガバタまで食って、お値段は安いにしても、ここのいつもの値段の五割増し。帰宅する道が寒いこと。11時過ぎ、やっと榎本滋民氏と確認、というネット記事。アクの強い落語評論家たちの中で、一番穏当な人であり、演者の好き不好きを明言せずに良いところ、努力しているところを褒めようとする姿勢を見せていた。ときにそれが行きすぎて“四代目(当代)金馬は名人である”などと言ってしまうこともあったが。