1日
水曜日
一年の計はカウントダウンにあり
さあ、今年もあと364日だ! 朝8時起床。雪に包まれた北海道の冬の朝の特徴だが、反射光で窓外一杯がキラキラ輝いている。朝湯に入り、メールチェック。新年のあいさつ、多々。母とK子と食事。おせちと言ってももう身内向けだけのものなので、カズノコと黒豆(自家製)、伊達巻きなど数品のみ。カズノコで酒をちびちび。
飲むと眠くなりソファに寝転がる。一年で一回のみの、罪悪感なく一日中寝転がっていられる日。ここらが正月のよさである。ベランダに陽がさんさんと差し込み、暑いくらいである。時折、どーん、と自動車事故のような大きな音が響く。夜のあいだに屋根に積もった雪が日差しに緩んで落っこちる音である。結婚当初はK子がこれにおびえていたもの。
二階の布団にもぐりこんで本格的に寝る。ときおり目を覚ますと、本棚にあった宇野信夫『幕あいばなし』(光風社)などを読む。高校生のとき読んで、歌舞伎役者の逸話などを仕入れて喜んでいたエッセイ集だが、改めて読んでみて、後半をまったく読んでいなかったことに気がついた(読んで全然記憶に残っていなかったのかも知れぬ)。若い世代に鶴屋南北が人気で、女性の歌舞伎研究家などが過剰な思い入れをした文章を書いているのに対し
「南北物を上演すると、よく南北は人間の悪を赤裸々に摘出したとか、人間の飽くなき欲望を追求したとか、人間性を掘り下げたとか言われます。これは後世の人の勝手な注釈で、南北自信は、只面白い芝居、大入り大当たりを願って書いただけのことで南北の趣味嗜好が、ああした舞台や人物を作り出したのです。南北の台本を通読すると、昔の事だから、南北が通して書いたのではないことがよくわかり、私共の頭では理解の出来ない所がよくあります。難しい理屈をつけて褒めそやされ、地下の南北は苦笑しているかもしれません」
というところなどは繰り返し読んでは喝采していた。後になってアニメ・特撮などのにわか高踏評論家どもの騒ぎにかぶれずに済んだのも、こういうものであらかじめ解毒されていたからかもしれない。
12時半に豪貴夫妻と実母のチカ子さんくる。ユウコさんは妊娠7ケ月だが、ほとんどおなかも目立たない。K子が“想像妊娠なんじゃないの?”とヒドいことを言っていた。夫婦は雑煮を食い、私はまたカズノコで酒。晩の飲み物や何かを仕込みに、セイコーマートみぞぶちに行って買い物。ワインも1500エンくらいのを買おうとしたが、800円台のものしかない。このあたりではこの値段でないと売れないのだろう。
年賀状を見ている豪貴たちを階下に置いて、また2階に上がり、寝る。徹底した寝正月である。無理しても寝ている感がある。4時半、坂部の一党来宅。総勢12人、あわせて18人。15畳ある居間が狭く感じる。これだけの人数の中に社長が3人(豪貴、K子、義郎兄)いるというのがなかなか。社長というもののイメージが変わることである。副社長の正文さん(ノリコ姉の旦那さん)の音頭で乾杯。母が大車輪で料理を供する。ツナとトマトのパテ、エビのフライタルタルソース添え、ビーフシチュー、ローストビーフ、それにわが家名物のおこげ料理。最後にフルーツみつまめ(これも赤豌豆を茹でるところから手作り)。御馳走というより何か神前で大食をする儀式みたいな様相を呈した。
井上の薫はイラストを担当した本をくれる。がんばっているな、という感じ。こういう頑張る子は好きである。わが一族の特徴として、必要以上に頑張らない、という基本的性格があるのである。妹の真琴は母がN.Y.に行ったら訪ねて行きたいと言う。彼女は向こうに住んでいたこともあり、いいガイドになると思う。この姉妹が母親であるナミ子姉のことを毒舌で切りまくる口調が実に辛辣で大笑い。豪貴とK子は母の退職金の扱いとか、この家を売った金の預け場所などをメールでやりとりしているのだそうで、母が“まあ、養子と嫁でそんなことを”と呆れるとK子が“社長同士ですよ!”と。シャンパン、発泡酒、日本酒、ワインと飲みまくって、10時くらいにはすでに眠くなる。みんなが帰ったあと、母と、東京での住まい捜しなどの話を少し。今住んでいるマンションに空き部屋が出来たらば、という話。いろいろ予定立てて、今日三回目の就寝。廊下の寒気甚だし。もっとも、ゆうべ水道管が凍って水が出なかった2階のトイレは復旧した模様。