裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

水曜日

タリバン先生

「ウォーター、ウォーター!」「いいえヘレン、ワールド・トレードよ」朝、妙に学術的な夢を見る。自分が国文学誌の応募論文選考担当の編集者で、受賞選考会の場で応募論文に学会の長老が文句をつけ、“この論文の執筆者は其角の句を「夕立ちや田を見めぐりの神ならば」と間違って表記している。「見めぐり」は「三囲」でなくてはならん。こんな誤記をしている論文を受賞させるわけにはいかん”と強硬に主張して、私が、“いやしかし先生、この句は見めぐりと三囲神社をかけているのでは”と言って、なおご機嫌を悪くさせて困り果てるというもの。

 朝食、カキフライサンドとバナナ。バナナは夜食用にと山口で買っておいたのを結局手付かずで東京まで持ってきたものだが、カバンの中で熟れて、皮がはじけ、冷蔵庫じゅうに甘いバナナの香りが満ちる。ネット検索でテロ事件の替え歌を収集するがもう、どんどん集まる。アニメソングなどのほとんどは単語をいくつか入れ替えるだけで成り立つものばかり。ただし、“ラディン”ならば歌詞に入れやすいが、正規の表記がビンラディンになってからこっち、やはり歌いにくくなったようだ。ビンというのは“〜の息子”という意味だそうだが、してみると今度の事件はビンラディンとビンブッシュの戦いなわけだな。日記つけ、K子に弁当。金華ハムのチャーハン。

 原稿、講談社Web現代のナオシ一本。遅れに遅れた。続いて新原稿も書き出す。鶴岡から電話。例のトゥナイト2の取材の件。もちろん、駄弁いろいろ。カルーセル麻紀の本名が平原徹男というのがイタい、というような話である。早稲田のマンガ学講義の話も出る。マンガ研究でちかごろ活動が目立っていた某氏がどうも学内で失脚したらしいというような話。あと最近、何か頼まれごとを断るのに、“ポストモダン以降〜はないので”というのが便利でいい、と話す。“町内会のお祭りでかき氷の屋台をやってくれ、と頼まれたら、「ポストモダン以降にかき氷はないということがわかったのでやれません」と言って断るんだよ”“ア、それ便利ですねえ、村さ来の店員が「すいません、うち、ポストモダン以降ホヤの塩辛はないということがわかったんです」とか言うですね”。“ポストモダン以降に疲れたときの夜のおつとめはないとわかった、とか”“風俗店で女の子が「ポストモダン以降生尺サービスなんてものはないのよ」とか言われたら、客も文句言えんですよ、筒井康隆ですら文句言えなかったんだし”と盛り上がる。バカだね。

 その他電話、訪問頻々。みんなそれぞれ仕事にかかわることなので断れない。2時にNHKのYくんが来て、トラッシュフェスを局内で宣伝してくれるというので招待券何枚か渡す。それから後楽園に行き、サヨリさんとジオポリスNさんと、もう一度下見。まだ設営してないので(それは金曜日)、ざっとアタるだけ。その後サヨリさんに招待券の追加をもらい、ダンドリを打ち合わせる。開田さんの絵の展示、きらら博のこともあり、万端注意のこと、念を押す。サヨリさんに“カラサワさん、お痩せになりましたか?”と言われる。こないだも談之助夫人のユキさんに痩せましたねと言われた。体重は別に減ってないのだが、やはり疲れで顔がやつれたか(メガネを変えたせいかもしれず)。昼を喰いそこね、新宿駅で立ち食いの冷やしタヌキ。

 帰宅、潮さん時代からのつきあいのファンのHさんから手紙。池袋の文芸座のオールナイトで10月6日に、二十数年ぶりに東宝チャンピオン祭で上映された『新八犬伝』がかかるというお知らせ。残念ながら私はその日、長野に行っているので行けないが、これまで所在すら不明と言われていたフィルムが見つかったということは、こんごのDVD化などに大きく希望が持てるようになったということで、まことに目出たい限り。と、思っていたら偶然にも時代劇マニアの中田雅喜さんから電話。このことを伝える。雅喜さん、天津敏の声優時代のことを調べるのに、今度第一期の声優さんたちで作っている会の集まりがあるので出向いていくのだが、その取材の仕方に関していろいろ質問されたのでレクチャーする。話が長引くと仕事が遅れるのだが、しかし『水戸黄門・人喰い狒狒』のことなどをアツく語れる相手というのはそういませんからなあ。

 5時半、家を出て中野へ向かう。途中で植木不等式氏に出会った。早めに会場に入り、ウツギ氏に招待券渡し、お客さんに配ってもらうよう依頼。しばらくK子と三人で喫茶店で話す。会場に再び向かい、志加吾の代演のキウイに、志加吾の引っ越し祝いにと『作(ザク)』の一升瓶を託す。睦月さん、開田夫妻、QP大人、鈴之助氏、藤倉さん、志水さん、などなど。三遊亭新潟は今日が新潟最後の高座。昇進祝いの手拭いや冊子をもらう。で、『トンデモ落語会』、内容はもう、皆さん御想像の通り。テロの嵐であった。談之助と談生はどこでこんなに調べたかというくらいイスラムにくわしい。あまり詳しく書くとこの二人がテロに会いかねないので割愛。キウイは、まあ、本当にキウイなのね、という期待を裏切らない出来であった。
「ブラック師匠に、“お前、今日はソルボンヌ先生が来てるんだから、受けなかったら打ち上げでロウソクをたらしてもらうぞ”とオドされまして」
 と言うと、みんな笑う。ソルボンヌK子の名前、局所的に有名。

 打上げはえん屋。出た料理がオニオンリングフライとポテチ、エダマメ、鶏の空揚げ、ホウレンソウサラダ、程度で三千円(まあ、出演者さんたちの分をおごったにしても)というのはすさまじい。アニドウのメンバーとか、まんだらけの人とか、女性ファンとかと話す。みんなこの日記を読んでくれているのに驚いた。何で検索かけて辿りつくのか(談生さんのHPあたりからのリンクか)? “キウイの代演でこれだけ入るってことは、志加吾はいらないってことですかね”“『鬼畜大変態』でブラックと談生だけで超満員でしたから、新潟と談之助もいらないんじゃないですか”“談之助・ブラック二人会でも立ち見が出ましたから談生もいらないですね”“快楽亭が骨折して休演のときも入っていたからブラックもいらない”“じゃあ、誰もいらないんじゃないですか”。その後三次会、十名程度で例のトラジ。タリバンの話題出まくりで大もりあがり、2時くらいまで大バカ話大会となる。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa