裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

土曜日

スカトロさわやかコカ・コーラ

 ウンコプレイを終えたあとの一杯が。朝6時半起き。7時半ころ朝飯を食いに一階の食道に行く。塩サバ、ナス煮びたし、味付けノリなど、まあ普通の旅館の朝飯。増尾さんと一緒に食べる。彼と開田さんは朝10時からのトークだそうで、食べたらすぐ出かけるとのこと。私たちは4時からなのでずいぶんゆっくり。朝風呂に入る。天気は曇りだったのがだんだん晴れてくる。湯は昨日と違いずいぶんぬるかった。

 ずっとテロ関連のニュース。ブッシュ大統領、事件勃発当初はすぐにホワイトハウスに帰らず、様子を見ながらアチコチ隠れていたりして情けなかったが、だんだん余裕を取り戻してきた。この事件が逆に、自分の足場固めに極めて有利と踏んだからであろう。貿易センタービル跡での救出作業視察のときの演説も、救助隊隊長の肩に手を回しながらのもので、さすが憎らしくなるくらいウマい。小泉サンや田中真紀子サンのパフォーマンスとは段が違う。最初、お決まりの励ましの文句を並べていたが、作業員たちの声援の声にそれを中断し、“キミたちの声は聞こえているよ”と応じ、“世界中がキミたちの声を聞いているんだ”“犯人たちもやがて聞くことになる!”と〆る。そこら一帯の人々が全員声をあわせ、“ユーエスエー! ユーエスエー!”と拳を振り上げる。なんと単純な、とも思うし、この単純さがアメリカの強さなんだろう、とも思う。ちなみに、その後もこの視察の模様はあちこちの局で放映されていたが、NHKの字幕が“皆さんの声は聞こえます”“世界中に皆さんの声はとどいています”“犯人にも届くでしょう”と、NHKらしい、極めて穏健なものになっていた。さすがにコレでは雰囲気がまるで伝わらない、と電話などがあったものか、夜のニュースでは、も少し強い調子に改められていたのが面白かった。

 11時、anieさんの迎えの車で会場へ。天候は会場に近付くに連れて回復、昼の到着時にはピーカンとなる。前日にスタッフが“あまりいい天気だと人があふれすぎて困るんです”と言っていたのが気になるが。ホール裏の控室で昼食。眠田さんは携帯で野球ニュースを見て、ダイエーがボロ負けしているのに激しく落ち込む。岡田さん到着。すぐ柳瀬くんにテキパキと指示を与え、おお、さすが忙しい企業人、と感心しかけたら、今日のネタとモバイルの電源コードを行きの中央線の中に忘れてきたので、その問い合わせの指示だった。私は一応、会場をチェック。昨日、いくつか確認しておこうとステージに上がりかけたら、係の人から“担当(われわれのイベント担当のスタッフ)はだれですか?”と訊問され、“担当と一緒に来てください”と言われてムカッときていたので、まだ確認していなかった。見た限りでは、マイクはそれほど声が拡散しない様子。これなら大丈夫かも、と思う。ただし、ビデオ機材はこちらの使うものと今壇上のものにあるのとは違うので、直前にならないとチェックできないと言われる。

 岡田さんはスペースカッタくんを見にいく。高橋名人はトークに出ていく。私はK子としばらく売店などを冷やかす。外に出たら、名人がステージにいない。アレ、と思ったら、開田さんの絵を展示している事務局の脇、と言うか裏、と言うかで、野天でやらされていた。これには驚く。驚きながらも、何か笑ってしまう感じになる。今回のライブ、何やら行き違い食い違いがいくつも重なって、実は不安感が高まっていたのだが、名人には悪いがこれを見た後では、“何があってもこれよりはマシであろう”と思えてきたのである。“今回はトークしに来たのだから、その出来だけで旅を評価しよう”と自分に言い聞かせたら、だいぶ気分がラクになった。

 物産展を回ったのだが、山口というところ、確かにコレといった大名物がないのが観光につらいところである。土佐の坂本竜馬グッズのように、高杉晋作や吉田松陰や伊藤博文をマスコットキャラクターにすればいいのに、と思うがそういうものも見当たらない。竜馬や西郷隆盛に比べ、どうしても長州の連中はネクラっぽいイメージがあるからか。K子が“おいしいものが全然ないのよ”と言っていたが、考えてみれば美味な産物にあふれている土地の者に、革命などということは起こせないかもしれない。そういう意味で鹿児島と山口が維新の中心になったのは当然だということか。司馬遼太郎の小説を読んでも、桂小五郎や大久保利通がうまいものを食っている描写は皆無である。せいぜいが村田蔵六の豆腐くらいだが、あまりうまそうには見えない。土佐が維新で薩長に遅れをとったのもこの二藩に比べ、うまいものが多い土地柄だったからではあるまいか。

 何も買わずに楽屋に帰ると、岡田さんと眠田さんが、土地の若い女の子の人生相談にのっていた。短大生なのだが、広島に出て代アニに入り、それから東京のアニメスタジオに就職して背景をやりたい、ということ。代アニは無駄というかかえって回り道になるからよした方がいい、と忠告しておく。岡田さん、しみじみと“今の若い子はとにかく、業界に直接飛び込もうとしないで代アニでもいいから、そこへ自動的にエスカレーターで運んでくれるような道を探したがるんだよねえ”と言う、K子が、“でも、鶴岡みたいなのもいるじゃない”と言うと、“彼は十年に一人の突然変異だから”と言う。今度あいつ、『フルーツ・バスケット』の挿入歌を歌うらしい、と教えてあげたら、驚いて“娘にサインしてもらおう!”と喜んでいた。

 ステージでは影山ヒロノブと遠藤正明のコンサート。ちょっと聞きに出る。前列三列くらいがオタクで、あとはやっている催しなら何でも入る人たちらしい。とにかくよく人が入り、にぎわっている。リピーターも多いらしい。K子曰く“だって他に娯楽がないのよ”。まあ、これで客の入りは心配しなくてもよくなる。このコンサートが案外長いので、会場の裏手に回る。海を眺めながら日陰でひなたぼっこのできるスペースがあり、そこで休んでいたOAQのメンツとしばらく雑談。びんでんさんの入院ばなしなど聞く。コンサート終了後、機材チェックをしに壇上へ。PAさんに音出し用に何かビデオを貸してくれといわれ、今流すとネタが全部見えてしまう(オープンな会場なので)からそちらの手持ちのビデオでやってください、と眠田さんが言うと、ビデオはそれぞれで音が違うから実際に流すビデオでなくちゃあテストにならない、とPAさんが主張し、ここで眠田さんが珍しくキレる。“わかりました、いいです、ビデオ使いません!”と言い切って楽屋へ戻ってしまった。私も、ビデオを直接手許で操作できない(するときは舞台ソデにマイクとビデオを持っていく)と聞いてちょっと驚く。まあ、スクリーンを確認したが、この時間になると西日が会場に差し込みはじめ、スクリーンにストレートに当って、何が映っているんだかわからぬ状態となる。これは使わぬ方がむしろいいかも、と考えて、一応、万が一のときのためにファイティングマンなど数本、私の持ってきたものを頭出しして用意しておくが、三人で、“今日はトークだけで2時間やろう”と打ち合わせる。眠田さんは高橋名人の“なんだね、ここの技術スタッフは「技術はないがプロ意識だけはある」人たちなんだね”という言葉に“うまいッ!”と、かなり気分を復調させていた。

 4時、トーク開始。出の時の拍手凄まじ。で、話はまず、カッタくん。仕方ない。岡田さん、この制作費が三億と聞いて、さて、どこで誰がいくらヌいたか、と仔細に検討を始める。ついで、テーマパークのイケてるものイケてないものの比較。USJのダメさ加減と、富士急ハイランドのガンダムライドの素晴らしさを滔々と語って独壇場。後でわかったが、実はガンダムライドのデザインは増尾さんであり、増尾さんはワキで名前が出てきたとき、かなりヒヤヒヤしたそうである。

 それから話題はどんどん進む。岡田さんは例のテロ事件後の2ちゃんねるのフライトシュミレーションスレッドの盛り上がりぶりを伝える。ビデオ使わぬ、という気迫が会場にも伝わったのか反応もかなりいい。200人ほどの客のうち、席を立ったりしているのは最後尾のおばさんたちくらい(まあ、最前列の女の子でも途中で立ったのがひと組いたが、これは別の事情だろう)。大家の漫画家の行き遅れ娘をねらってその財産を丸まる手に入れるというテがオタクにはある、と私がフると、岡田さんが実例を持ち出してウーン、と半ばマジでうなり、眠田さんが“著作権つき女性”と極めて的確かつヒドいモノイイをする(岡田さん、メモしていた)。あと、なぜ宮崎駿作品をわれわれは褒めないか、という問題。私が、“質が高いものを好きになるのには、努力も才能もいらないから。あれはそういうものに貧しい人々のための作品で、仮にもオタクとしてのスキルを高めようと思うなら、その作品にハマるときに、多少のハードルがあるものを選んだ方がいい。その方が絶対に「ハマるという行為」としておもしろいし、自分の中の思いもかけない感性や嗜好に対する意外な発見もある。何がおもしろくないって、みんなが褒めるものを一緒になって褒めるくらいおもしろくないものはない”と持論を展開。“好きになる(ハマる)”にも個性があった方がいい、と主張する。

 そんなこんなで質疑応答を含め、2時間はアッという間。“あと5分”とフリップが出たので、最後をどうまとめようか、と考えてオ、と思いつき、“では今回のオタクアミーゴスはこれで終わりますが、もし、またこういう催しがあって、みなさんがわれわれを必要とするときは、いつでも呼んでください。われわれは、すぐに飛んできます”と、『スペースカッタくん』のラストのセリフをそっくりパクる。両サイドの二人もプロですぐに合わせてくれ、三人揃って
「なぜなら、私たちは、みなさんの、心の中にいるからです!」
 で〆メ。これには観客よりも袖のスタッフや同業者たちがひっくりかえってウケてくれた。今回のトークは、このラストをやれたことで自分的には大満足。もっとも、あとで聞いたらカッタくんをイジったところで、主催者側から少々文句が来たらしいが、まあそれはオリコミ済み。

 終わってすぐに撤収。宿に帰り、打ち上げが9時なので2時間ほど休む。ざっとフロを浴びて、寝転がって読書。『だから儀式は〜』アゲ、長山靖生『妄想のエキス』(洋泉社)を読む。以前著者から寄贈を受けたが、ほとんどの文章は初収の雑誌で読んでいたのでそのまま書棚に差し込んでおいたもの。今回の旅行用にヌイてきたものの一冊。第二部の『妄想家たちの履歴書』が面白い。さっきのオタアミでの持論ではないが、作品も人間も、クセのあるものであればあるほど、一旦ハマると離れられなくなる。

 8時半、宿を出て打ち上げの居酒屋へ。高橋名人が“萬寿! 萬寿!”と叫び、それから“クジラ! サンマ塩焼き! スッポン!”と注文の嵐。ここで取りかえそうと思ったらしい。刺身はさすがにうまいが、ただ醤油がタマリなのが惜しい。これに限らず、山口というところは料理の味付けが基本的に甘い。これはタマリを料理に使うからか。楽屋で無気味社の寺西さんに会い、彼がおいしいところをどこか探すということだったが、結局見つけられなかった模様。増尾さんも土地の知り合いに、どこかうまいところはありませんか、と訊いたら即座に“ありません”と答えられたとのこと。みんなに“あのラストは最初から仕込んでいたんじゃないんですか!”と驚嘆された。トークのテンションのせいか、終わったあとカレーパン食ったせいか、あまり食欲なし。岡田さんはトークでテンション上げ過ぎて、もともと風邪気味だったのがひどくなり、1時間ほどで辞去。11時過ぎに眠田さんと出て、ローソンでヒゲソリなど買って帰る。いろいろトラブった旅ではあったが、考えてみれば、回りがプンプンしているだけであって、私個人はそれほどひどい目にあったわけではないので、今日のトークが充実したというだけで満足。夜中に飲もうとビールやつまみなど買ったが、結局目もさまさず朝まで寝た。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa