裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

14日

金曜日

SWATさわやかコカ・コーラ

 犯人を一発で狙撃できたときのさわやかさといったら。朝7時起き。飛行機が2時であるが、昼飯の時間を空港でとるから12時には出る、とK子が言うので、もう大忙し。朝食は今日も牛乳切らし、K子にスパゲッティ、私はレトルトのチリコンカンとブラックコーヒー。ブラックコーヒーの方がうまいのだが、朝以外牛乳をとる機会がないので仕方なくカフェオレにしているのである。まずSFマガジンの図版用ブツをバイク便で出す。それから銀行へ行き、当座の金をおろし、メール数本。青林工藝舎には扉にこれも図版用ブツを納めた封筒を張っておく。それと、昨日で一杯になった裏モノ会議室(やはりテロ事件以降書き込み率大幅アップ)の、新会議室開幕の言を急いで書き、アップして、リードオンリー解除を頼んでおく。

 12時、家を出て羽田へ。きらら博で予約してくれていた飛行機のキップを自動発券機で買う。自動発券機を使ったのは初めて。K子がオナカが痛むので昼は食べないと言い出し、仕方なく、喫茶店に入り、彼女は紅茶、私はランチのおろしヒレカツ定食を食べる。800円で、赤ん坊の掌より小さなカツが2枚。

 K子は少々腹下しを伴う腹痛らしい。本人は“山口(故郷)などに行くから体が拒絶反応起こしているんだわ”と言っているが、風邪ではないかとちょっと心配。米国テロの影響で金属探知機の感度がむちゃくちゃに上げられており、ベルトのバックルで何度も引っ掛かる。それと、航空券呈示の際に名前を告げろと言われるようになった。乗り込む直前に眠田さん、機内で開田夫妻と挨拶。ずいぶんとオタク度の高い飛行機であるな、と思っていたら、なんと庵野秀明氏も乗っていた。最初、似た人もいるもんだと思っていたら、本人だったようである。開田さんが驚いて、やっぱりきらら博なのと訊いたら、単なる墓参りだそうだ。とはいえ、女の子を連れていたようでもあり、女と一緒に地元に帰省とは、と、眠田さんなどと邪推をする。開田さんは、展示する絵を開田さんの絵をプロデュースしている事務所の人たちがわざわざ運んで同道してきている。SMAPのガッチャマンなどを作ったCGアーティストの増尾隆幸さんに紹介される。おお、増尾さんと言えばギャバンのキャラデザイナーではない か。

 山口はドンヨリとした曇り。ときおり雨の飛沫が顔に当る。飛行場は驚く程新しくてモダン。この博覧会のために建てたか? anieさんはじめスタッフの方々、出迎えてくれる。分乗して会場の方へ。山口は初めてだがとにかく広い。道路を走っていても、空が大きく覆いかぶさるようで、山々が遠く、北海道とは違った大きさ。眠田さんが景色に感心してた。会場に着いて事務局に案内される。スタッフに会場を見せてもらうが、天井が高く、開放的なステージで、オタクトークとしては少しつらそうな環境。眠田さんと二人、どうするかちょっと打ち合わせ。スタッフの中に、以前『カッタくん物語』を初めてエフコメで紹介した人がいて、“あれからやっとここまで来たかと思うと感無量です”と笑う。

 会場で何か見たい催し物がありますか、と言うので、それァもちろん、と、『スペースカッタくん』を見る。前回の『カッタくん物語』はアニメであったが、今回は特撮(!)映像と舞台でのぬいぐるみ芝居との組み合わせによる立体企画。特撮はあの河北紘一によるものである。豪華々々という感じだが、実際の映像はおっそろしく粗末なもの。ストーリィも、カッタくんと花咲か爺さん、一休さんがかぐや姫と共に悪の魔王から地球を救うというもので、いやはや、愛だの夢だの未来だの、空虚なコトバをこれでもかと並べている。スタッフは金のために投げやりに作ったんだろうが、依頼する山口県側にセンスある人が一人でもいたら見て突っ返す、という出来。ロコツに田舎者と代理店にあなどられてカモにされた、という感じ。……で、当然のことながら極めてオモシロかった。博覧会の映像はこの程度の出来でなくちゃ、という感じである。明日、岡田斗司夫に是非見せなくては、と眠田さんと話す。他の見学者の中には、ラストの“キミの願いは必ずかなうんだ!”というセリフに“ボクの願いはこういう作品が二度と作られないことです”と言っていたヒトも。

 事務所の方へ帰ってみると、その事務所の中に衝立を立てて、絵を飾りはじめている。なんでも、他に展示場所が取れなかった、ということで、開田さんサイドの人たち、ややキツい顔つきになっていた。展示しながらそのイライラがだんだん沸点に達してきて、とうとう現場のスタッフと談判がはじまる。われわれは“長引くかもしれないので、お先に”と、宿の方へ連れていかれる。その宿のある湯田温泉というところが、会場の阿知須から一時間ちょっと、という距離である。

 宿は温泉街特有の団体客旅館。ただし、こないだの飯坂温泉よりはかなりまし。部屋は和洋折衷とも言うべき作り(スリッパ履いて歩く洋間部分から居酒屋のお座敷みたいな形で上がって畳敷の部分がある)。宿名が“のはら”。どうしても下に“しんのすけ”とつけたくなる。荷物のみ置いて出て、飲み会の居酒屋まで雨の中を歩く。携帯の連絡によると、あの後開田さんたちもすぐ出た模様。

 増尾さん、眠田さんたちといろいろ話しながら待つ。眠田さん、増尾さんがゴライオンもやっていると聞いて、“微妙にイイとこついたお仕事されてますねえ!”と感激している。そのうち、開田さんたちも来て、とにあれ乾杯。開田組の人に訊いたら結局、いくら怒ろうと担当の人たちがみんなボランティアで、責任の持っていきようがなく、ウヤムヤになったとか。かつての農民一揆の傘連判以来の日本の知恵(というか日本をダメにした知恵)である。ジオポリスの場合はそうはいくまい。“カラサワさんの監修なさるイベントだったら、「D」や「H」が入って大掛かりにやるのかと思ってたんですが”と言われる。ならばこちらも苦労はしない(いや、それはそれで苦労するかも)。ゲストの高橋名人などと飲みつつ話す。今日はワリカンで一人三千円。まあ、飲み会だと思えば安い。私は初日の歓迎会は自費と前もってメールで知らされていたが、知らないゲストもいたらしい。……オタクアミーゴスなどの地方公演は大阪でも札幌でも九州でもやっているんだから、そういうところにノウハウを訊ねておけばよかったんじゃないかと思うが。

 宿に帰り、露天岩風呂を試みる。雨はポツポツ落ちていたが、お湯も熱くてまあ、いい感じ。フトンに入り、旅行中読書にと書棚から無作為に抜き取ってきた小原秀雄『だから儀式はなくならない』(農文協人間選書)読む。“農山漁村文化協会”とはまたいかめしい出版元である。現代文化に地下水脈として流れている儀式性というものに最近興味を持って、いくつか関連書を買いあさったうちの一冊だが、著者が動物学者だけに、ちょっとこちらの期待(タイトルからのもの)とは異なり、動物の行動における儀式性が中心で、それと現代社会の中の儀式性との関連にはあまり大きく筆を割いておらず。面白いことは面白いが隔靴掻痒的感はあり。小原秀雄と言えば中学生当時、この人の書いた『猛獣もし戦わば』などの動物本をむさぼり読んだ懐かしい著者。そのころと変わらぬ歯切れのよい文章で読みやすいが、昭和2年生まれという世代は争えず、スカンクの逆立ちを“角兵衛獅子よろしく”などと形容している。今の読者は角兵衛獅子の方が思い浮かべ難かろう。

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