裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

6日

木曜日

クェンティン・タランチーネ

 みずからことの姓名は、父はもとマフィアの産にして。朝、7時起き。ベッドから出たのは7時35分。気圧・天候とも、よくもなし悪くもなし。昨日のTシャツをクンクンと嗅いでみるが、別に何のニオイもなし。あの異臭は神経性のものか、それとも嗅覚の方に何か異常を生ずるのか。朝食、ヨーグルトとイチジク、それにスモークト・サーモンひと切れ。ニフティ裁判に高裁判決という記事。先日のA〜E裁判もそうだったが、やはりネット内のことはネット内で、というのが裁判所の基本姿勢。いちいちかまっておられん、というのが司法関係者の本音であろう。

 Web現代のこないだの原稿にサイトいくつか付け足し。アメリカのピンナップ・アーティスト、ビル・ウォードのところを紹介する。マンガ絵で、幼な顔に超巨乳。現今日本の巨乳ロリマンガの直系の先祖である(URLは第44回掲載時の『裏モノ見聞録』を参照のこと)。K子に弁当、エダマメと豚バラの塩炒め。自分はミソむすび三ケで昼飯。

 サンマーク残りを今日じゅうに片付けようと書き出すが、腕が重いという感じで、なかなか進まず。冒頭部分が気に入らなくて2回書き直す。1時までに一本、なんとか書き上げた。これで体力をほとんど消耗。後は明日回し。鶴岡から電話。アニメの声優体験の話。さらにそっちの業界で仕事が広がりそうだがいいですよね、と言う。モノカキという分野に少しでも所在を残しておけば、あとはどんどん広げていけばいいんじゃないのか。特に若いうちはありとあらゆることを体験しておいた方がいい。ただし、ヤッコダコではないが上がりすぎて糸が切れてしまうと、居処を得ずといった感じになって、戻る家を失ってしまう。こうなると人間はヨワい。自分の基本立脚点はきちんと確認しておくべき。

 OTCから11日のテレビ撮りの連絡。ハローミュージックからは9日のビデオ撮りの連絡。他にもBSや講演、ライブなど、今月後半以降は私自身、居処不明といった感じである。2時半に家を出て、3時、新宿西口小田急線改札に集合。喫茶睦月堂訪問である。官能倶楽部のいつものメンツと。開田さんは画集の仕事で来られず。ロマンスカーで藤沢、江ノ電に乗り換え一駅。こないだ訪れたときはまだ新築のゴチャつきがあったが、喫茶店も形になって、結構忙しいらしい。以前、下北の『虎の子』の二階の古道具屋で買った、軍人姿の五月人形を開店みやげに持っていく。

 喫茶店で海軍コーヒーをごちそうになる。最初来たときは満席で入れず、二階で空くのを待って降りていったが、われわれが話している間にもまた初老のカップルがひと組、入ってきた。なかなかの繁昌である。5時45分、そこからみんなで歩いて藤沢へ。夕暮間近で、街路樹に凄まじい数のスズメが帰ってきていた。鳴き声もこれだけいると、ちょっとスズメのものとは思えない。またロマンスカーで相模大野へとって返し、焼肉『八起』へ。行くと、談之助さんが予約を入れていたはずなのに看板の灯が消えている。何かあったか、と不安になったが、中はほぼ満員。これ以上お客さんがきても追い返すことになるので、電気消しちゃったとのこと。

 とにかく最近のバテは尋常ならざるものがあるので、肉を食って明日からガンバろう、という算段である。いや、この店も何度も来ているが、今日の肉はまた、これまで食ったことがない絶品。ことにロースの、厚いこと、柔らかいこと、旨味のあること、まさに三絶。下手なステーキほどもある肉を、表裏を一瞬ずつ焼いて、口にほうばると、その瞬間、脳の中に麻薬成分がパーッと分泌される感じ。いしだ壱成も大麻じゃなくこの肉を食えばよかったに。何か、無限に食い続けることができそうな肉であった。あと、レバ刺し、レバ焼き、共に絶品。刺身の方は舌触りと甘味爽やか、焼いた方は濃厚にして少しもクドくない。タンの薄切りにカレー粉とマスタードをつけて食べる“快楽亭ブラタン”(ブラックさんがこの店に教えた食べ方)もいい。談之助さん曰く、“落語会の打ち上げじゃあこの肉はちょっと出ない”。睦月さんは油ひき用の脂身をペロリと食べていた。

 ここの店は親父さんおかみさんが脱サラして始めた店で、夫婦揃って焼肉マニア。それだからいろいろ研究して、自分たちの納得できるうまい肉を見つけてくるのだそうな。こういうところ、出自からしてプロの、供給しか知らないという人より、自分が受容者としての客の視点でものを考えられるという点で強い。全ての分野で消費者の立場が昔とは比べものにならないくらい強くなっている現代においては、モノカキや芸人であっても、完全なプロでなく、シロウトの感性を持ち合わせている人の方が強いのは当然だろう。もちろん、これは感性のみの話であって、技術や根性に関してはプロでなくちゃいけないが。

 K子の目が肉に酔ってトロンとしてくる。私の目も同じだろう。“弁慶と小町は馬鹿だなあ嬶ア”という感じである。意味は違うが。バクバクと食べ続け、ビール、日本酒、焼酎をガブガブ。仕事への意欲がわいてくる感じである。おかみさんが、いろいろお世話になっているからと(ネット日記読んで来たお客さんが数組いるってだけなんだが)まけてくれる。主人夫婦と記念写真を撮って、解散。あやさんは開田さんに肉をおみやげに包んでもらっている。小田急線で、満ち足りた気分で帰京。下北沢で降りて、タクシー拾って家まで。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa