裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

金曜日

凡平の遺跡

 教授、帽子が出てきました! 朝7時起き。エビカツサンドとスイカの朝食。昨日酔っ払って書いたメモを見返すがなんだかわからん。アスペクト原稿ゲラチェックして返送、『とて変』赤入れ。昨日の『THE JAPANESE TATOO』、他にも亀頭にドクロを彫りつけてあるもの、花びらを彫りつけてあるもの。ひえー。

 家から惣菜をクール便で送ってくる。カレーも作ったが煮込んでいる最中に寝込んでしまい、こがして一鍋ダメにした、とか。親父の看病と店でクタクタなんだから、そんなことせんでもと思うのだが、何もしないことに耐えられない性格の人だから仕方がない。つくづく、この母が倒れないでよかったと思う。一日ベッドに寝ているだけで、プレヴェールの詩ではないが退屈で死ぬだろう。

 11時45分、マンション下のソバ屋で天丼を食べる。東京風の真っ黒い天丼で、下種な味でよろしい。内田百鬼園の言うように、もともと天丼なんてのは“犬に出すものを間違えて人様の前に出したもの”なのだ。上品な天丼なんてそもそも天丼ではありませぬ。食後、パルコブックセンターに行き、今日BOOKTVで紹介する予定の『風とマンダラ』探す。こないだ講談社から送ってきたのは『メンズプライスマガジン』の図版用に貸し出してしまったので。・・・・・・ところが、ブックセンターには見あたらず、仕方ないので、丁度六本木に用事があったので出てABC、あおい書店、誠至堂と三箇所回るがどこにもナシ。おいおい、と思い、やむなく新宿にノシて(ノスというのは古川ロッパの造語で、足を“ノばス”の略)アドホックの紀伊国屋マンガ部から駅ビルの書店まで見て回るが、ここにも影もカタチもなし。超人気で売り切れたか(まさか)? とにもかくにも、本が無ければ紹介も出来ず。仕方ないので今回はアキラめる。代わりにどこか連載持っているところでもう一回、ネタにして書評しよう。それにしても講談社、きちんと営業してるかー?

 2時半、神南デンタルオフィス。こないだ削った奥歯の台を入れるかと思ったら、まだ出来てないようで、今日は歯石とったのみ。もっとも、スケジュールつまっているのでそっちの方がありがたい。天王洲アイルまで急ぐ。4時、スタジオ入り。こないだの出演から数カ月は間があいている筈だが、キャスターの女の子、まだ慣れていないでトチるトチる。技術的なことでなく、場を“呑める”か、という度胸の問題だろう。私は芸人さんと長くつきあっているせいか、この“場を呑む”ことに関してはかなり勉強させてもらった。自分がその場でどういう風にふるまえばいいのか、ということに関してはイメージ力、想像力が大きなものを言う。TPOのことを私が若いのにいつも言うのは、結局、TPOをとっさに判断する能力こそイメージ力であり、モノカキにとっても必須の能力なのだ。

 2時間休息ナシで通し、収録終了。安い出演料だが、時給に直せばかなりなもの、か。この番組、今度マンガ専門のも作るらしい。誰が見るのか? 品川から(南品川にサウスパークタワーってのがあって笑う)青山へ出て買い物する。連休前で、天王洲あたりは空いているが逆に青山あたりはかなりの混みよう。帰ってしばらく休息、8時から夕食の準備。根菜のスープ煮、イカとタケノコの白和え、春雨炒め。K子はこの春雨炒めが異常に好きで、お代わりまで作らされる。

 ビデオで『セルロイド・クローゼット』。映画の歴史に描かれたゲイとレズビアンの変遷。以前は映画に出てくるゲイというと必ずシシー(おネエ)であり、人権派ゲイは“差別的表現で、見ているだけで不愉快だ”と吐き捨てていたが、ハーヴェイ・フェアスタイン(『トーチソング・トリロジー』の脚本・主演)は“描かれるだけでもいいことだわ。アタシもシシーだから、逆にうれしいわよ”と好意的。この二派の対立は日本のゲイ界にも存在し、以前インタビューしたゲイバーのママは、ゲイリブ運動のことを“あのコたちには慎みってもンがないわ”と斬り捨てていた。隠れオタクとカムアウトオタクの対立にも似たこの構造、探せばもっとさまざまな場所にある筈なのだが、権利獲得運動にはマイナスになるという理由で、表沙汰にはなかなかならない。はっきりとした形で表れているゲイ界の対立は珍しい例に属するかも。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa