裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

11日

火曜日

マニア虫だよ人生は

 手塚治虫。今日は室内改装があるので、と早寝をしたらまた5時ころ目が覚めてしまう。本を読んでいたら5時半に電話。こんな時間、誰かが事故でも、と思ってあわてて取ったらテレビ局だった。夜中に電話が通じなかったので朝、かけたらしい。何とかいう番組でレディースコミック作家をインタビューしたいんですが、という話。昼ごろ女房に連絡しろ、と言って仕事場の電話番号教える。朝食早めに7時。スパムとナス炒め。沖縄以来、スパムはちょいと個人的ブーム。日本唯一のスパム料理評論家になれるかもしれん。

 自衛隊を改名してJ隊にすればどうか、などと思いつく。それだけ。午前中かかってフィギュア王原稿。案外時間かかった。9時に内装工事、入る。今日で終わるのかと思ったら、通気孔のところだけとか。遅々として進まず。12時半、メシ食いに出る。パルコの上でチャーハンとギョーザ。さすがに兆楽より上品だが、ギョーザなんてものはもともと下品な食い物だからな。スープは圧倒的にこっちの方がうまい。

 帰りにブックセンターに寄る。桜井智のセミヌードが載ってる『FLASH』は売り切れ(笑)。そんなに見たいか。『週刊ポスト』、ビートたけしが例の光市の被害者夫のことを批判していた。ここ、よく裏モノ会議室で出た論議を後追いするんだよな。編集者、のぞいているのか? まあ、ウチのようにただ突っ込むだけでなく、あの夫の社会的影響力、法治国家における人権の問題にまで言及していってるあたり、悔しいかな今回はポストの勝ち。ここは大相撲の八百長追及をしつこく続けながら、大相撲マニアの内館牧子のエッセイを連載している。カウンターバランス感覚が取れているのか、何も考えてないのか。

 平積みの棚、『とて変』は順調。『回収』はそう言えばまだウチに送ってきてないな。文庫の棚をみたら、中公文庫でいつのまにか三田村鳶魚全集が出ていたが、これまでまるで気がつかなかった。老化現象だろうか。全集版を持っているから脳が反応しなかったのかも知れないが、全36巻別巻2を見逃していたのはひどい。江戸時代の生活・仕事などの考証に興味がない人も、別巻の『大衆文芸評判記』『時代小説評判記』の二冊だけは読んでおくといい。作家のデタラメを俎上に乗せてポンポンと悪態をつきまくる、悪態随筆の傑作。これだけの碩学を彼の生前のアカデミズムはマルクス主義史観一辺倒で江戸学などは古いと顧みる者もなく、孤独のうちに窮死せしめている。私のアカデミズム嫌いはここに端を発しているかもしれない。

『ダ・ヴィンチ』に電話、Sくん不在だったので、受付の女性に伝言を託す。
「えーと、昨日のホラービデオの正式タイトルですが、例のプードルゾンビのやつですがね・・・・・・」
「はあ?」
「プードルゾンビです」
「フードル、ですか?」
「いえ、犬のプードル。プーです。それがゾンビになるというビデオがありましてですねえ・・・・・・」
「はあ(不審声)」
「そのゾンビが凶悪な顔をしてるんだけど、そこはプードルですから可愛らしいリボンなどつけているのが大笑いなんです」
「あ、はあ(理解不能)」
「そのタイトルを昨日、失念していたんですが、コレコレでしたのでSさんにそうお伝えください」
「はあ〜(Sはいったい何の仕事やってるのかしら?)」

 3時、『ザ・ベスト』インタビュー。東武ホテルで編集とライター拾って時間割。“近親相姦の歴史”なるマニアックなことを1時間ほど喋らせられる。こないだの性具の歴史のインタビューで、こういうオタクなことは唐沢に、となったらしい。裏モノ分野の三田村鳶魚になるか(笑)? 聞く方はやたら感心していた。帰ると、テレビ局のスタッフがK子と打ち合わせ中。13日に収録とか。ディレクターが私のファンなのだそうだ。

『アイアンジャイアント』応援原稿の載った『アニメージュ』届く。NHKのYくんからも電話で、今週末のウィークエンド・ジョイで取り上げるそうだ。ある意味、奇形的にまで特殊化してしまったが故に世界一の質を誇るまでになったのが日本のアニメ作品であり、そこに、限りなくオーソドックスで、奇をてらわないで、これだけの魅力ある作品が作れるんだ、と提示してみせたのがこのアイジャイである。業界人がまず真っ先に椅子から転げ落ちたのもむべなるかな、だろう。ついでに言うと、この作品がアメリカで大ゴケしたこともムベとは思う。流行の流れからあえて外れたものを作ろう、という制作者たちの考えこそ、大衆の欲求とはかけ離れた“芸術指向”なのだ。この作品における、妙な居心地のよさは、むしろ知的虚栄心の強い日本のオタクたちに歓迎されるのではないか。

 明日のロフトの準備などを。と、言っても読む少女小説は決っている。西条八十の大怪作少女小説『人喰いバラ』。あとは奇譚クラブ倶楽部の少女フェチ小説。6時ころから、メディアワークス用原稿、バリバリと書く。8時、新宿新田裏寿司処すがわら。桜鯛のアラ煮をサービスで。K子の注文で極薄味で味わうと、鯛のうまみが舌に染み、絶妙。他に赤貝、ウニ、アナゴ、甘エビ。

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