裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

12日

水曜日

ユリア樹脂だよ人生は

 プラスチック製品開発担当。今日も通院で朝が早い。6時半起床。朝食はサラダスパゲッティ、バナナとイチゴ。BWPにちょっと書き込んで、8時半東京医大病院。原稿の資料などいくつか読んで待つ。9時半、トップで診察。畸人研究の今柊二さんそっくりのドクターが、やっと抜糸(ホチキスの針であるから抜鋼というんだね)してくれた。4月で新配属のドクターらしく、処方箋の書き方をいちいちベテランの看護婦さんに教えられている。それでも記入方式がおかしかったらしく、会計の人が首をかしげて、いろいろ私に確認する。帰りに、Yさん(あの腰痛のお爺さん)の家族と会って、ちょっと会話。

 新宿駅で階段から落ちて足をケガした、レゲエみたいな若いのが車椅子で受付に連れてこられていた。腹が減ったので診察まで下の喫茶店でメシ食ってきていいか、とか、いろいろワガママなことを言い、とりあえず待合室でざっと見てくれているドクターに、“ここ、大学病院でしょう。おれ、自分のケガの状態を学生さんとかにのぞかれるの、イヤなんで、それは患者の権利として先に言わせてもらいたいんです”などとノタマい、ドクターもムカッ腹を立てたか、“ここで治療を受ける気ならここの規則に従ってくれないと”と言うと、“患者には患者の権利があるという、日本の規則を守りたいから言ってるんです”とやり返し、ドクター、怒って“とにかく順番を待ちなさい”と、彼の言葉の途中で帰ってしまった。彼もそのうち自分で車椅子あやつってどっかへ行ってしまったが、違う病院へ行ったのか? どっちに味方する気もないけれど、なぜケガを見られたくないのか、その理由がちょっと気になった。

 昼にゆうべ寿司屋でもらった稲荷三ケ食べ、外へ出る。パルコブックセンターに立ち寄り、銀行で入金確認したあと、神南デンタルクリニックで無沙汰を詫びて、来週の通院予定を立てる。入院のことを話すと、“そう言えばお痩せになりましたねえ”と言われる。体重は減ってないのだが、顔は少し頬の肉などが落ちているからな。ここの受付は院長の奥さんがやっているのだが、顔つきといいしゃべり方といい、イッセーのところの森田夫人にソックリ。

 帰ってナンバーフェチ原稿一本、アゲてメール。宝島社からまた以前の別宝の文庫化依頼。原稿資料用に江戸期のポルノのことを調べていたら、石毛直道が座談会でプリンティング・カルチャーのことに言及していた。日本における印刷文化は、神社のお札のようなスタンプ・メディアから発生して、江戸期に浮世絵という形態が完成したおかげで大発展をとげ、それが明治維新につながっていく、と論じている。要するに思想などまでが大量に伝達・配布できるようになって庶民の知的レベルがぐんと向上したことをバックに社会変革が成り立つ、ということ。テクノロジーを軸にした文化論というのはなぜこう刺激的な面白さがあるのか。文化論に社会学を交差させた論としては、例えばバルザックの作品をこれまでのように文学作品として批評するだけでなしに、印刷技術の大衆化にともない発生した新聞販売拡張合戦の商品、としてとらえる山田登世子の研究などがあるが、これなど、私のB級文化研究の根っことも言うべき“質と量”の問題に見事にシンクロしていて、興奮モノだった。前記の座談会で石毛がポルノについて
「やっぱりアルチザン(職人作)でないとあかん。タブロー(芸術作)になったらダメだ」
 と断言しているのも、ここを言っているように思うのだが。

 やることがいっぱいありすぎてどれも半チクになる。資料本や手紙、FAX類の整理が急務なのだが、なにしろ室内改装がまだ終わりそうにないのでまるで手がつけられない。K子のテレビの件で制作プロダクションからいろいろうるさい電話がかかってくる。4時、K子帰宅。平塚くんに電話しながらハコ作りしばらく。

 6時、今日の朗読用の画像用にイラストをコピー。それから大和書房に渡す原稿をフロッピーに入れ、半にK子と家を出て新宿ロフトへ。ついたのが7時過ぎだったが客席がまったくのガラ空き。いくら宣伝をほとんどしなかったとはいえ、いくら朗読の会という地味なイベントとはいえ、ヒドい入り。岡田斗司夫ではないが、“オレもこれまでか”と落胆しそうになる。・・・・・・が、始めてからボツボツと三々五々、入りはじめて、8時半ころには30人以上の入りで客席が埋まる。9時過ぎて来た人もいた。まあ、何にせよホッする。聞いてみると、やはり4月の年度替わりの時期でゴタついており、サラリーマン(朗読の回は観客の年齢層がかなり高い)たちには平日に出るのは荷だ、とのことで、来たかったのだが、という伝言もいくつかある。フリーを長年やっているとつい、こういうことに無配慮になるな。朗読そのものは、まだ本調子じゃない、という感じで読み違え、舌噛みなど続出、赤点ギリギリという出来。まあ、テキストの面白さで救われた。『とて変』『入院対策雑学ノート』を休息時間に売るが、これも完売。サイン多々。

 気楽院氏、哭きの竜氏などと雑談。なんとQPハニー大人もいた。ジャカルタから一時帰国で、とうぶん滞在とか。またオフやらねばなるまい。11時半アガリ、焼肉の寿々苑で生ビールと豚足。後ろの席に、顔じゅうピアッシングだらけの男が女連れで入ってきたが、最近話題のホストクラブ『E−ve』のナンバーワンホスト、渚カヲルくんだそうだ。“やはりアヤナミは肉食えないが、カヲルくんは食べるんだね”とみんなでヒソヒソ(笑)。

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