裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

4日

火曜日

大石も安心

 内蔵助殿、このようにして横もれを防ぎまする。朝4時ころ、看護婦と隣の爺さんがやりあっている声で目が覚める。この爺さん、昼間は退屈で寝てばかりいるので、朝はやたら早く目が覚めて、やれリハビリに行くの座薬を入れろのとヤカマシイのである。夢も見ず。『月光』読む。アラーキーは若いころから仲間うちで“天才”と呼ばれていたが、それは写真の腕が凄かったからではなく、ナンパ成功率が100%であったから、などという話が出てきて笑う。あと、彼の青春時代の作品に、女性の全裸オナニーシーンをコマ撮りで撮ったものがあり、そのモデルがなんとマンガ家のO田F子であったという・・・・・・ホントかね? 私はO田F子を神格視する世代に属する人間であるが、この写真は見られるものなら見てみたい。世の中にはこういうものを拒否する人間と見たがる人間の二種類がいる。もちろん、モノカキは後者でなきゃダメでしょう。

 朝刊、今日は早めに新聞売りに声をかけてGET。アオリを食って、隣の爺さんのところに定期購読分の新聞を新聞売り、置き忘れていく。悪いことをした。オブチ首相、最悪の場合脳死状態も、とか。朝日の一面、沈痛な面持ちで善後策を話し合う森幹事長と青木官房長官の写真を載せているが、その手前の人物、ピントがボケていて誰かよくわからないが、あきらかに歯を見せて笑っている。確かに人間、最愛の人の通夜の席でも笑顔を見せるときはあるが、写真に残るとちょっとなあ。“アイツはあの場で笑っていた”とずっと言い続けられるであろう。

 7時半、昨日の日記を井上デザインにメール。原稿類もメール。のぞきこんだ若いドクターが“へえ、公衆電話でメールが送れるんですか!”と驚いていた。パソコン関係の知識というのは年齢とか性別とか教育に関係ないデコボコがあるな。8時、回診。腫れ、昨日よりはいいがまだまだ。退院は金曜に延びる。トホホ。しかし、じっくり本が読めるとか酒抜きが出来ると思えばありがたいかも。8時20分、朝食。ガンモドキ煮物、高菜漬物、タラコフリカケ、大根味噌汁、夏ミカン。

 この入院のアイマに、と、やたらブ厚い書物を読むべくガンバる。バフチン『フランソワ・ラブレーの作品と中世ルネッサンスの民衆文化』とか、『グロテスク』合巻本とか、要するにこれまで拾い読みですましていたものを通読してみようというココロミである。読んでいたら、外科のちょいエラい先生が、もう一度傷口を見せてください、と言ってくる。“縫合がキツいのかも”と、ヌイメのいくつかをハサミでパツンパツンと切る。かなり痛い。あとはサージカル・テープでとめる。皮膚がもし壊死しているような場合は、切り取って寄せる処置も必要だとか。退院、さらに延びるかも。読書はすすむな。メール送信何本か。

 午前中、何もする気がなくボンヤリしているうちに過ぎる。ウトウトしているうちに昼飯を食いそこねそうになった。カジキ照り焼き、肉ジャガの肉のないの、ホウレンソウゴマあえ。糖尿お父さん、ますます文句多くなり、見舞いにきた家族に“ここの睡眠薬はまったく効かない。ビタミン剤じゃないのか。昨日もおとついも2時間くらいしか寝られなかった”とタレる。2時間どころかひと晩中あんたのイビキで悩まされたぞ、と言いたくなる(笑)。今日から病院配布の寝間着がモデルチェンジ、ポケットがついて便利。色も青、緑、ピンクの三種類。ピンクを選ぼうとしたが、いやいや、こんなところでウケをとっても仕方ない、と思って青にしておく。2時半、洗髪。ひさびさでマコトにいい気持ち。3時の仕事に備えて着替え。

 3時、ダ・カーポインタビュー。抜け出して喫茶店ででも、と思っていたのだがこの状態ではやむなく、食事室で。文庫で読む奇人変人を野球のメンバーに例えて、という、面白いんだかいくないんだかよくわからぬ企画。他の選定人もヒーヒー言っていたというが、そこはコジツケの名人の腕を見せ、“バラエティーに富んでていいですねえ”と向こうで感心するメンツをどうにかヒネリ出す。K子の本を“紹介してくれ”と言って渡しておいた。終わって病室へ帰ったところで、うまい具合の入れ違いに、大阪から尾崎(ドリー蛇臼)氏、知人で平田篤胤研究家(!)のMという人を連れて見舞い。ドリー・テリーの映画ガチンコ兄弟本、動かす話を少し。いろいろと忙しい一日であった。

 K子6時に来る。これから鴬谷の何とかいう有名な豆腐料理屋にササキバラゴウ氏を誘っていくんだとか。メシ救援広告を出したとたん、やたら豪勢になってる。こっちの方は6時45分に夕食。トンカツふた切れ、アサリとワカメとネギのヌタ、キャベツサラダ。家から持ってきてもらったリンゴ5切れ。糖尿オヤジはあさってあたり6人部屋(6人部屋は病室代無料)に移るそうだ。ウルサイのでもっと早く移ればいいのにと思う。お茶がまずいの部屋がまぶしいのと、実に文句が多い。これが江戸っ子なんだろうねえ。

 8時、メール。喫煙室では常連たちが看護婦のだれそれサンは彼氏とこないだ別れた、だれそれサンはドクターの○○サンと只今進展中などと、どこで仕入れてくる情報化かまびすしい。帰ったら、今日から腫れを引かせる点滴。もっと早く入れろよ。量のせいか内容のせいか冷たいせいか、血管痛でズキズキし、本も読めず約1時間半をじっとして過ごす。10時就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa