裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

土曜日

チャンプル・ブック

 沖縄の炒めもの料理本。出版の不景気状況をきのう手塚さんとやたらかこちたせいか、成り金の出版業者が作家たちを集め、インパクトある出版による右翼革命を起こすので協力してくれ、と依頼されて逃げ出す夢を見る。6時起床。検温後は包帯を替えるだけで、あとは朝食まで、ひたすらタイクツな時間を過ごす。こういうときは中野貴雄の才能が欲しくなる。まさに、彼の能力の大半はひまつぶしとしかいいようのないことに投入されている。一般人の場合、それは才能の浪費、ということになるのだろうが、彼の場合においては“この人物はひょっとして、こういうことを考えるために産まれてきたのではないか”と思わせる凄みがあるのである。

 中野貴雄と加藤礼次朗共作になる『一本でもニンジン』の替え歌。
「♪一回でもニンシン。二人でも産婆。三人でも夜這い。四人でも強姦。五人でも夢精。六回でも中だし。七回でもハメ撮り。八粒でもクリトリス。九人でも獣姦。十回でもイッちゃう」

 以前ロフトプラスワンの楽屋で二人、この歌を作りながら大真面目な顔で“八粒でも、というのが苦しい”、とか“五人で夢精、というのはどういう状況か”、などと論議していたのが、究極の脳の無駄遣い、という感じで大変にヨロシイものだった。中野監督、しみじみと
「あの本歌の歌詞のすごいところは、一から十まで、単位が全部違うところですね。その域にはどうしても達せない」
 いや、十分に達してると思うが。私も“千兆でもマンチョ”というのを考えたが、千兆のマンチョとはどういう状況か。

 包帯替えのとき傷口を見てみたが、腫れた足の中に傷口が埋もれているような形。この腫れがスムーズに引かないと、ギリギリまで病院に足止めを食わされることになる。あまり無茶はしないようにしよう、と決意。痛みは薬のおかげでほとんどないが傷口を冷やすためと称してキンタマみたいに氷嚢を二つ、足首にかけられる。これが冷たくてイタい。

 8時15分、やっと朝食。ブロッコリと小エビの中華風サラダ、ワカメの味噌汁、カツオのフレーク。それにふりかけがつくが、これが土佐風味。カツオのフレークが出ている上にカツオ味のふりかけをつけてどうする。点滴で生食ワンパック。グレ電でパソ通。またまたBWPで『ジャパニーズ・フィギュア・アート・シーン』に対する私の金持ち逃げ疑惑(於2ちゃんねる)情報。ウレシクテウレシクテ(変態)。確かにアノ本では私ゃ持ち逃げ同様、何にも仕事してないですなあ。スタッフ集めたのと、私の名前でスポンサーから製作費を出させただけ。これもお仕事とは素人にはわからないかもなあ。あと、裏モノ会議室、光市の亭主のこと、まだ引きずっている。そんなに諸君、社会的正義の位置に自分を置きたいか。本当の意味でのアナーキーにはなりきれない連中だな。修行が足らんねえ。

 隣のお爺ちゃん、75歳でほとんどボケているような感じだが、家ではまだ現役で仕事(不動産屋らしい)しているらしく、家族が毎度その報告をして指示をあおいでいる。メガネの看護婦(Gさん)さんにはしょっちゅう叱られてばかりいるが、いいようにあしらっている感じ。若い看護婦が世話してくれるところでは、“Gさんが怖くて・・・・・・”と言っているけれど、これは同情をかうテクニックであろう。

 昼12時過ぎに昼食、パン二ケ、ハンバーグ、モヤシ炒め、バナナ半本。牛乳ではあまりにアジケないので、コーヒー牛乳で食べる。昨日入った糖尿お父さんはGさんにさんざコワい口調でオドかされていた。まあ、確かに糖尿はコワい。酒のみは40過ぎたら自己点検を欠かさないようにしないとダメですな。“そんなに飲んじゃいねえよ、冷酒一本と水割り3バイだよ”と見舞い客には言っていたが、かつぎこまれた晩のアルコールの血中濃度はかなりのものだったそう。家族が入院アンケートに記入しながら、“入院理由”の欄に“自業自得”と書き込んでいた(笑)。しかし、このお父さんの、看護婦に対する口のききかたなどは聞いていてほれぼれするほど。東京生まれでないとこうはいかない。3時半までに週アス書き上げる。これは用意した資料で書き上げられたが、他の原稿はやはり帰宅してやらないとなあ。

 4時半ごろ開田夫妻見舞い。今夜は快楽亭のガイドでみんなで浅草の名所旧跡めぐりだとか。“あいのこに 道教わるる 江戸の跡”ですかい。風流だなあ。誰だったか、快楽亭の江戸趣味(歌舞伎マニアであり、名所旧跡マニアであり、忘れてはいけないが落語家でもある)、日本映画趣味、SM趣味などは、みな、ハーフでしかも母はパンパン、ネイビーだった父の名も顔も知らぬという生い立ちからくる必死のアイデンティティ追求だ、と分析した人がいた。江戸は日本人としての、でわかるし、日本映画もわかるが、SMってのはどうか、と思っていたのだが、異端というのはアイデンティティ不在者にとって、より自己確認のウェッジをシャープにしてくれるのですね。己れの人種的アイデンティティを捨て去ったマイケル・ジャクソンがエホバの証人の敬虔な信者だ、というのにも一脈相通じるものがあるように思う(それにしてもマイケルがエホバ、ってことはアノ度重なる整形手術に輸血は使われていないのですな)。

 6時半、K子来て、FAX、手紙類その他手渡し。イラストの指示。『入院マニア雑学ノート』の見本刷りを持ってくる。昨日の晩、井上デザイン(装丁担当)と、担当編集のN氏とでまさ吉で打ち上げやったそうな。“そのときにね、Nさんが昔、美少年だった時代の話を・・・・・・”と、ウレシソーに話す。べろべろに酔わせて聞き出したらしい(笑)。ジャーナリストの才能がありますな。浅草で名所旧跡回った後の飲み会に合流するから、と急いで出ていく。例の駒形橋のちゃんこ屋だそうな。こういうときは入院がうらめしいな(今日という日取りは快楽亭のムスコの秀次郎の幼稚園入園祝いを兼ねてだから仕方ない)。

 K子帰ったあと、夕食。サワラの塩焼き、鳥肉ロール、ゴボウ煮付け、浅漬け。『入院対策〜』に載っている、前回骨折のときのメニューを見たら、昨日の献立と、塩焼きがミソ焼きだっただけ(昨日と入れ替わり)でまったく同じ。ローテーションしてるんだな。ただし、前回は今日からが個室であった。ホタテの煮付が一品、アッチは増える。ううむ。まずくはないが、さっき開田あやさんからお見舞いで貰った花園ダンゴを食ったのでカロリーオーバー、半分残す。せっかくこの4日で体重が1キロ減ったのだ。も少し痩せて帰りたい。『入院対策〜』は全然入院対策にはならない内容だが(笑)、怪書。

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