裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

金曜日

OSたんラリアート

「アキバの街にテキサスロングホーンが高々とあがりますッ」(古舘伊知郎)

※雑用にて忙殺

8時ころ目が覚めて、ベッドで携帯からネットをつなぐ。
何とかドタバタが昨日でおさまったと思っていたら、
また派生して別のところから火がついた模様。
こういうとき、即座に
「じゃア、とりあえずこういう善後策を立てて、
それから誰と誰に連絡とって、経テから本人の回答如何により
ああして、こうして」
と頭がカシャカシャ働くというのは私の特技でもあるが、
可愛くないところでもある。トラブルに悪ずれしているというか。
まあ、20年前、横浜そごうでミニ・ミュージカルの演出を
やったとき、アクシデントの連続で、奈落を駆け回って足を
腫らしたほどだったが、後でバンドの控室に“ご迷惑かけまして”
と謝りにいったところ、そこのバンマスから
「このアクシデントが今にクセになりますよ」
と言われたもので、プロとしての指針にしてきた言葉ではあるが、
とはいえ、アクシデントなんぞは無いにこしたことはない。

そう言えば、今日は誕生日であった。
いや、ドタバタの連続で、とてもとても、そんなものを
祝う余裕もなし。とはいえ、驚くほどのコメントが寄せられ、
ありがたいものと感謝。

9時半朝食、スイカ、スープ。
インフルエンザ騒動もまずは一服といったところか。
そう言えば某日、某所で某人との不謹慎会話。
「なんで新型インフルエンザは高校生にばかり広がるんですかね」
「そういうシュミのウイルスなんじゃないですか」
「こないだの感染者は女子高生でしたが、女子高生萌えの
インフルエンザですかね」
「女子高生インフルエンザとか言えばみんなかかりたがるでしょう」
「しかも豚ですからね」
「豚女子高生、とくると少しマニアックな世界になりますねえ」

朝のドタバタの関係者と電話で話す。
善後策、応急措置、折衷案、なんでもいいがとにかくそういうことを
話す。このときはまだ向うもこっちの言うことを理解してくれた、
ように思い電話を切って、それを前提に話を進めるが、後で全部
(こちらにひと言もなく)ちゃぶ台返しされたことを知り、苦笑。
いや、ここまでくると笑うしかありますまい。

そういうこと処置しながら、先日新宿で依頼された企画案を
立てたり、原稿も書いたり。あと、先日出演した『私の一冊・
日本の100冊』がDVDセットになるそうなので、その許諾状も
書かないといけなかったり。

昼はチンジャオロースー風牛の炒め物。
作業続き。
湿気で生ゴミの腐敗が早いこと。
梅雨入りも間近だな。

急いでいるときに限ってメールの調子がおかしく、
書いたものがアップされない、と管理人のI矢くんに言ったら、
これはシステム不具合ではなく、ただ、ニフからの書き込みに
異様に時間がかかるようになってしまっているのだそうだ。
仕方なくYahoo!から書き込むと、こっちはあわてるくらい早い。

何とか8時には作業終え、ふうと息をついて買い物へ。
帰宅してベッドで読書してたらいつの間にか寝入ってしまっていた。
9時半ころ、起き出して、夜食作り。
タコのギリシア風サラダ。

DVDで、自分へのご褒美として買っておいた『殺陣師段平』を
見る。もちろん1950年のマキノ正博バージョンである。
そして脚本は黒澤明。これがDVDで観られるのはまことにありがたい。
ビデオ時代は、市川雷蔵の大映版は出ていたが、このマキノの東横映画
版はいっかなソフト化されず、滅多にフィルムセンターなどにも
かからず、幻の名画だったのだ。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000VKNMQS/karasawashyun-22

後の東映の三角マークとはまるでイメージを異にする、お花畑を
バックの東横マークに驚く。配役は段平に月形龍之介、澤田正二郎
に市川右太衛門、段平の妻・お春に山田五十鈴。この三人の演技は
それぞれパーフェクトであり、これまで、早乙女主水介の
「天下御免の向こう傷、パッ」
なんてセリフ回ししか知らないで観た人は、眼鏡をかけた大学出の
インテリ俳優の澤正がぼそっと
「……いや、これア、僕が自分の理想をみんなに押し付けているだけ
なのかも知れないねエ」
なんてつぶやくところ、とても右太衛門とは思えないだろう。

そこへ行くと月形と山田五十鈴の芝居はかなり類型的だが、
それでも“お前、わしと一緒になって何年になる”“いやいや八年や”
などという憎まれ口の応酬、自分の死期を悟りながら段平に東京行きを
勧めるときの山田の表情など、日本人なら胸を突かれずにいられない
だろう。これは観客の情動の操作を熟知したマキノ正博ならではの
見せ所である。

一方でいかにも黒澤脚本らしいところは、一番の泣かせどころである
お春の死、その4年後の段平の死を直接には描かず、雪の中の“忌”
の文字、娘のおきくの話で処理しているところ。『生きる』で
志村喬の死の場面を直接描かなかったのと同じ省略法だ。
しかし、これは後から効いてくる演出ではあるが、演出していて
おっそろしく不安にかられる手法でもある。果たして観客が
わかってくれるか? という疑心暗鬼に、並の脚本家、演出家なら
どうしても襲われてしまう。二人続けて死の場面を描かないという
のは黒澤明、マキノ正博というコンビだからこそ出来た大胆な
演出法だろう。

『酔いどれ天使』のカッコウワルツのような、そのときの雰囲気と
まるで違う音楽を使う、というのも黒澤おなじみの演出だが
ここでは死の直前の段平の周囲に、喜劇人を配して、
コミカルに話を進めている。氷屋の婆さんに、段平に酒を飲ませた
と責められてしどろもどろになる杉狂児の演技は爆笑ものだし、
横山エンタツの医者にいたっては、医者のくせに、入ってきたとき
の第一声が
「どや、死んだか?」
というブラックなものである。脚本にどれだけこういうことが
記されているか、あるいは演出の段階でのマキノの指示か、
ちょっと段ボール箱を掘り出して脚本を読んで確認してみたくなった。

それにしても、演技陣の厚みはほれぼれするほどである。
最初、“ずいぶんいい声の役者だな”と思った作者の倉橋が
進藤英太郎、若手の役者が原建策に加賀邦男、浅草の劇場から
段平を引き抜きにくる男が加藤嘉ときた。
段平の隠し子で、最後に段平の遺言の殺陣を伝える娘のきくに
月丘千秋。月丘夢路の姉だったか妹だったかで、後にテレビ
『光速エスパー』で、エスパーの母親役で出ている。

ワイン飲んでほんわかとしつつ、ベッドに入ったら
携帯にメール。読んでヤレヤレと思う。
はいはい了解、と返事。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa