2日
土曜日
あさはか村
「祟りにかこつけ財産を横領しようとするとは、あさはかな」(金田一耕助・談)
※『ラジオライフ』原稿 体調不調
朝4時ころ、猛烈な咳で眼を覚ます。
ところがこれが1時間でぴたりと治まり、その後、
実に安らかに二度寝が出来た。
どういうメカニズムか。
寝床で『ベルツの日記(上)』の方を読む。
相変わらず出てくる人名の豪華なことには一驚。
なんとオルコット(マダム・ブラバツキーと真智学教会を設立した
人物)まで出てくる。
(明治22年3月7日)
「夜、フェノロサのもとで、神秘仏教の使徒オルコット師にあう。
(中略)師は品のある立派な老人で、堂々たる白いひげと髪を持ち、
洗練された社交的の外形を備えている。師の話し振りは落着いていて、
明瞭で、理性的ではある−−しかし、話がブラバッキー女史のことに
及ぶと、もういけない! そうなると、何もかもおしまいだ。
師は左手の小指に、三個の小さなダイヤをちりばめた、重い金の指輪を
はめている。この指輪は、ブラバッキー女史がバラの花から“実現”
させたものである。しかし、最初はまだダイヤがついていなかった。
そこで女史はオルコット師の妹に、指輪を手に取って、その手を閉じる
よう命じた。それから女史は、自らの手を妹の手の上に置き、
若干の動作をした。するとまあ、指輪には三個のダイヤがはまっていた
ではないか! オルコット師自らのいわく
“どうしてこの指輪が生まれたかをお話したら、あなたはわたしを
気違いじじいと思われるでしょう”」
この言葉に対し合理主義者のベルツは
「仰せの通りだ、まるで読心術者のように図星を指している」
と皮肉っている。
9時45分、朝食。
バナナリンゴニンジンジュース、カブのスープ。
体力がかなり落ちている。
足のむくみもひどい。
明日のNHKの収録用台本がオノから送られていたので
読む、が、まだ具体的なことは書かれておらず、当日台本見るしかなし。
私としては今夜放送される『アニメ主題歌大全集』にどちらかというと
出たかった気も。何しろ石川進、熊倉一雄さんご出演だもの。
頭も身体も働かず、ぼーっとしているうち、昼飯も入浴もしないまま
どんどん時が過ぎていく。
昼は昨日の豆乳湯豆腐の汁にご飯をぶちこんでかきこみ、すます。
腹にものがたまって眠くなったのでベッドに横になる。
グーともいかず、ウトウトするうち周囲が暗くなり、起き出したら
もう5時近く。生ける屍という感じ。
あわてて入浴。ラジオライフから原稿催促、やっと正気にもどった
感じ。
原稿がりがりとやって、11枚、9時に完成。案外まとまった
内容にはなった。病中の仕事にしては、だが。
サントクで買い物、本日初めての外出。
ホタルイカのバルサルミコ酢サラダ、生サクラエビがあったので
さっと湯通しして釜揚げ。大根おろしとポン酢で。
酢の物をとりたくなるのは身体がそれを求めているからか?
酢の物もうひとつ、母手作りの柿の葉寿司。
うまいがご飯がボロボロ。これは柿の葉の酵素が効き過ぎたのだとか。
DVDで野村芳太郎『八つ墓村』。あれ、昔観たときはもっと
オカルト色が濃いと思っていたけど、まともなミステリ映画としても
見られるじゃないか。たぶん、オカルト映画へのこっちの抵抗が
ぐーんとそれ以降のムードでハードルが下がったのだろう。
公開時は都筑道夫などが(オカルト好きなくせに)
「これはオカルト映画でミステリ映画ではない」
とくさしていたものだ。やはりミステリ作家にとっては本格ミステリ
と言えば神聖にして犯すべからざる存在であり、オカルトなどの色を
つけることは侮辱に思えたのだろう。他のミステリ畑の人も同様の
意見だったと記録する。
おかげで興収14億円の大ヒットになった映画ながら公開時に見逃して
しまい、後で名画座での上映を追い駆けるのにえらい苦労をした。
思えばオカルトと映画の幸福な融合が成し遂げられていたのは
70年代であり、『ヘルハウス』『エクソシスト』『オーメン』
『マニトウ』などという、真の意味でのオカルト映画が作られて
きたが、70年代末から80年代にかけて、特殊メイク技術の革新
等により、次第にテーマが心霊の恐怖からスプラッタ・残虐描写へと
移っていった。この『八つ墓村』(1977年公開)は、その
まさに移行期にある映画で、その影響、というよりは先駆けとされる
映画かもしれない。