裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

土曜日

毒霧カメラ

グレート・カブキが一般人に化けて、突如毒霧を!

※『快楽亭ブラ淋の会』

今朝の夢。
黒いパイプが縦横に張りめぐらされた空間で芝居が行われている。
舞台はパイプを四方の柱にして空間の真ん中あたりに据えられており、
客席は10脚くらいの単位の椅子があるボックスがパイプに
取り付けられ、それがモーターでゆっくりと上下に移動し、
舞台を上から眺めたり下から見上げたりする。

9時起床。
咳は少しあるが、ゼイゼイヒューヒューはもう回復。
とはいえ、息苦しさがやや、残るのは、気管ではなく、心臓が
弱っているのではないか、と思う。
ネットでいろいろ調べても、“足がむくむ”“起きているより
横になった方が苦しい”は、心臓衰弱の兆候、とある。
日記を読み返してみると、気管のヒューヒューは正月からだ。
だいぶ心臓にも負担がかかっていたことだろう。

日記つけ、入浴。
『伜・三島由紀夫』読了。
息子に愛されなかった父親の、その息子や、息子をちやほやしていた
世間のインテリたちへの毒吐きが異常なまでで、しかも自分では
それをシニカルさの現れと思っているところがイタい。
思えば自分は東大卒、農水省官僚というエリート(省内では無能扱い
されていたそうだが)なのに、エリート嫌いの大衆好きを気取っている
あたり、どこか永井荷風を思わせ、そう言えば平岡梓氏の風貌と
いうのは(ネットを探したがまだ近影が見つかっていない)荷風に
そっくりだったそうで、息子の公威こと三島由紀夫は父のことを
荷風先生と呼んでいたという。公威の祖母、梓の母の夏子は荷風とは
親戚筋にあたるというから、血なのであろうか、やはり。

どたばたしているうち、昼を食べ損ねてしまう、というか、
昼飯を食べるということをすっかり失念していた。
それくらい、食欲がなかったのか?
そう言えば数学者の森毅氏が自分で料理をしていて衣服に火が燃え移り
大やけどを負ったという。私もそんな事故にあう確率が高そうで
イヤだなあ。

3時半、家を出て、中野坂上から大江戸線で清澄白河。
快楽亭の弟子のブラ淋の会。
清澄白河駅を出て、ちょっと胸がバクバクしてきたので、
近くの薬局に立ちよって救心を買ってのむ。
清澄庭園の大正記念館が会場。もともとは大正天皇の葬儀場であった
葬場殿を移築したものだったが戦災で焼失、昭和28年に再築された
ものを平成になって大改装したものだそうで、歴史的意義が
あるんだかないんだか、微妙な建物。
開館前、周囲にはもうかなり人が集まっていて、しら〜さんの顔なども
見える。

入ってみると、オノがチラシ折り込みを手伝ってくれている。
前座の会なんで前座は他にいず、ブラ淋の友人らしい若い人が
二人、手伝っていたが、そのうちの一人が、自分の車(赤いアウディ)
を他人の敷地に無断駐車したとかで、苦情が来ている、との報告
でブラ淋はあわてて外に謝りに飛び出てしまったので、現場を仕切る
ものが誰もいなくなる。仕方ないので、椅子を並べたり、チラシを
籍に置いたり、いろいろとお手伝い。

出演者の頼光さんや、つきあいで見にきた談之助さんと一緒に場内
作っているところに、帰ってきたブラ淋、開場時間がその駐車場
トラブルで10分以上オシているので、大慌てだったんだろう、
こっちがまだ会場作っているというのに
「では開場しまーす!」
と声をかけて、どんどん客入れしてしまう。オノが
「破門されちゃえばいいのに!」
と叫んでいた。あわてて場内整理までするハメになる。

さすがに人情に厚いというか、物見高いお客様がぞろぞろ。
私の知りあいでは、ぴんでんさん(博多から仕事で出てきたついで)、
QPさん、傍見さん、黒江龍雄さんなどが来てくれた。
あとで安達Oさんも来る。
椅子の総数が135席くらいだったが、130はほぼ埋まったよう。
まず、満席とは言える状況。
オノと、佳江さんとちょっと話す。時間が押しているので
マキでやってください、と指示が出たそうだが、紙芝居というのは
そうマくこともできませんしねえ、と佳江さん。
そしたらオノ、“ブラ淋さんが噺やらなければいいんですよ”と。

ブラ淋は前説。今回の件とそのあせり様を述べれば笑いがくるのは
当然なんで楽なはずだが、もうひとつブッ翔べばいいのに、と思う。
どうもネタの扱いが中途半端。
埋まったので安心しちゃったかな。
次が坂本頼光の活弁で『チャップリンの冒険』と、自作の『ヘブリス
ギョン劇場2』。チャップリンの方は安定、ヘブリスギョンは狂気。
枕に例の森毅先生の火傷事件のことをふり、似たような事故を
起した人がいましたね、と浦辺粂子の話につなげる。
ケンカ上等な老人・花沢徳衛が浦辺粂子や森繁久彌と戦う話。

それから梅田佳声の紙芝居『国性爺合戦』、妖術合戦のスペクタクル。
スクリーンを使わなかったので絵が見られない人も大勢いたようだが
声だけで充分な出来。
さらに立川キウイで『大工調べ』のブラ淋版。
これまでのキウイはマクラで大爆笑させていながら本題の落語に入ると
とたんに失速、というパターンばかりだったが、今回は大工調べの
棟梁を立川吉幸(ブラ房)、与太郎をブラ淋、大家をブラックに
置き換えて、
「大家さん、確かに会場を一杯にゃできなかったが、たった数人の
ことじゃあありませんか。あっしの顔に免じて」
と吉幸がブラ淋のためにブラックに頼むという絶妙のキャスティングの
話で、好調。首を縦にふらないブラックに吉幸がキレて
「なんだこの呆助のちんけいとうの芋っぽり、それならここで俺が
おめえの氏素性すっぱ抜いてやるぞ」
と、例の言い立てをする、という、まさにそのときに
師匠のブラックが川柳師匠を伴って入ってきた(この会場は楽屋
口がないので、客や演者から丸見え)。キウイ、
「せめて言い立てが終ってから来てよ〜」
と泣き言。それ以降が大幅にトーンダウン、客席爆笑。
本日一番のウケであった。

それから元気いいぞう、例により“共産党に入党”などのネタだが、
ひさしぶりに“のりピー”をやった。のりピーの曽祖父の記念館
でこのネタをやるという度胸と言うか怖い物知らずというか、
その開き直りぶりは凄い。

休憩中にブラ淋が、ビールとおつまみを配っている。
本当は売るはずだったのが、この会場は物販禁止だったそう。
持ってくる前に調べておかないような了見だから破門されるんだ
けどねえ。

後半は川柳川柳『昭和音曲史』、快楽亭ブラック『権助魚』。
快楽亭、高座にあがるや
「何で来るんですか! クビに出来なくなっちゃったじゃないですか!」
と。権助魚は快楽亭にしては大人しい古典だが、途中で女流落語家の
桂ぽんぽ娘が吉幸に惚れて……という、実にひどいエピソードを
嬉しそうに間にはさむあたりが快楽亭。

これで終了、8時半だが、この会場は公共施設なので9時、
“もとの状態に戻して”完全撤収せねばならぬ。
椅子を重ねて、外に出してあったテーブルをもう一度中に入れる。
これも指示を出して、お客さんに手伝ってもらう。
いろんな落語会に常連のお客さんたちの方がブラ淋よりよほど
手なれているのはどういうことか、と笑いあう。

その後、地下鉄で門前仲町まで一駅もどって、そこの居酒屋
『江戸っ娘』で打ち上げ。薄暗い路地を抜けていくとある店で、
外見からはどうしたって10人くらいしか入れない店なのだが、
二階に30人入れる座敷があるとのこと。
最後に入ってきた頼光くん、
「小さい店にどんどんどんどん人間が入っていくんで、マジック
見ているみたいでした」
と。

階段上っていく最中にノスケ師匠から電話、
「いま、門仲の駅にブラックさんと川柳師匠といるんですけど、
打ち上げってどこでやるんですか?」
と。“師匠に伝えてなかったのかよ!”とみんな呆れ、爆笑。
いやあ、なんでこういう会をやるに至ったのかがよくわかる。
と、いうか、あれだけアガリがあったんだから、出演者に
だけでも(ご高齢だったり病み上がりだったりの人が多いんだから)
クルマ出すのが普通だろ。
打ち上げの席でブラックにみんながブラ淋の復帰は、と正式な
判断を求めると、
「ウーン、まず14日まで保留ということで」
と、微妙な判決。ま、妥当なところか。

佳声先生、かずおさんといろいろ話。
次の石響の会のことなど。あと、談之助さんに“勝手に前田隣
先生を偲ぶ会”をやるんですが、出てくれませんかと言われ、了承。
日を聞いて、“その日あたり、本家の偲ぶ会が開かれそうだな”と
言ったら、談之助さんの携帯にメールが入り、
「うわ、本当にかぶった!」
と。ぴんでんさんが娘の写真を見せては談之助さんをイジっていた。

頼光さんとはトンデモ演芸会の話。危惧していた件、
まずは大丈夫だろうというのでやや、ホッと。
さらに、アルゴピクチャーズのHさんも来て、例の件、
催促される。やはり、書き下ろしと平行でやらねばならぬか。
ともあれ、打ち上げのいいところは、そういう種々の件を
一気に打ち合わせできること。
Hさん、この店の店員さんが山崎バニラ風の声とおかっぱ頭
なのが気になって気になって、と。
そう言えば『江戸っ娘(こ)』って店名も萌え風だな。

キウイからもちょっとお願いごとされる。
その後いろいろとワイワイ話があり、11時半、お開き。
しら〜さん、談之助さんと大江戸線で帰宅。
新宿で降りてタクシー。
そう飲んでなかったので、ホッピー2杯飲みたし。
昼に食わなかった弁当をつまみ代わりに食う。
1時半ころ就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa