裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

木曜日

エロゲームエッサイム、エロゲームエッサイム

「我は(さらに過激な描写を)求め訴えたり」

※朝日書評原稿 『妖怪くノ一大戦争』イベント

7時起床、今朝もゼイゼイ。
とはいえ、昨日に比べればだいぶまし。
目覚め間際に見た夢。
まだ夢の中で私は小学生。
『ウルトラマン』にエキストラで出演することになる。
もちろん現場では怪獣は見えず、後で合成。
山道で怪獣を見て驚く子供たち、の一人で出る。
「どんな怪獣なのかな」
と思ってワクワクしながら放映日を待つが、見てみると、
メインの怪獣ではなく、山の一帯が古代世界になっていたという
設定で、トカゲにヒレをつけたチャチな怪獣がただ歩いている
だけで、ちょっとがっかりする。

9時半、朝食。
バナナジュース、スープ。
明日まだ咳が止まらなければ病院に行くことにする。
自室に戻り、一日遅れの原稿。
朝日新聞用書評。

ロバート・クォーリー、2月20日死去の報。
83歳。ホラー・マニアには『吸血鬼ヨーガ伯爵』の
ヨーガ伯爵役で著名。イギリスのハマー・プロが確立させた
吸血鬼像をアメリカでお色気たっぷりに映像化したのが『ヨーガ伯爵』で、
出来は大したことなかったが続編『ヨーガ伯爵の復活』も作られ、
ホラーとセクシー美女の取り合わせはこれ以降定番となる(今晩一緒に
トークする山田誠二監督もその影響は受けている筈である)。
他にも『ドクター・ファイブスの復活』など、ホラー映画にコンスタント
に出演し、その気品ある顔立ちが映画にアクセントを与えていた。

子供時代からラジオドラマで活躍していたクォーリーだが、
人生は非運続きで、60年代にはガンに体を蝕まれ、やっとそれを
克服したと思ったら70年代に交通事故で重度の障害を負い、
映画界を一時引退した。そんな彼に熱烈なラブコールを送って
スクリーンに復帰させたのは、Z級映画監督としてその名も高い
(というか低いというか)フレッド・オーレン・レイ。
クォーリーはその映画人生の後半のほとんどを、レイの映画への
出演に費やす。ここらへん、映画にもなったエド・ウッド・ジュニア
と、ベラ・ルゴシの関係に似ているかもしれない。実際、レイは
生前のエド・ウッドに会っていることを生涯の自慢にしているという。

クォーリーは1999年に本当に引退、俳優専門の老人ホームで
悠々自適の生活を送っていた。アメリカのいいところは、たとえどんな
B級映画俳優であろうと、組合がちゃんとこのように晩年の保証を
してくれていることだろう。潮健児さんや安藤三男さんの晩年の
状況を思うと、そこらへん天地の差で、ため息が出るのである。

書評原稿メール。
弁当(メンチカツ)使い、入浴。
咳止め薬の作用で眠くなり、1時半ころ横になり、3時まで寝る。
起きてまた、軽いゼイゼイあり。

5時、阿佐谷まで。ロフトAに行く前にルノワールで
バーバラ、オノと今後の仕事スケジュール打ち合わせ。
ちょうどこちらで思惑立てていたことと、バーバラの思惑に
一致するところあり、うまくからめばいいが。
オノから連絡、仕事ひとつ流れる。ありゃりゃ。
もっとも、要領をあまり得ない依頼ではあった。
近々の出版予定をどうするか(これが案外つまっている)を
話しあう。

6時、阿佐谷ロフトAへ。
すでに木原さん、山田誠二監督、幸田尚子ちゃん、金沢涼恵ちゃん
来て、話に花を咲かせていた。
尚子ちゃんと涼恵ちゃんは共に劇団クロムモリブデンの女優さん。
このあいだの観劇のお礼も言われる。
IPPANくんにチラシと同人誌渡す。
山田監督、なぜか緊張気味で声もテンションも低い。
私と木原さんで
「なんで発売記念イベントなのにDVDがないのよ」
「会社が忙しいらしくて持ってこられなくて」
「会社ってどこ?」
「高円寺なんだけど」
「歩いたっていける距離じゃねえかよ! 売る気あんのかよ、
会社!」
などとハッパかける。

主演の大野由加里ちゃん、雪女役の岡本朋子ちゃん、阿部能丸くん、
音楽と主題歌を担当した古屋美和さんなどもいらして、楽屋はほぼ満員。
能丸くん、福原鉄平くんが描いたこの『妖怪くノ一大戦争』の
同人マンガのコピーをくれる。
「これ、もっとコピーして売ればいいじゃん」
と木原さんが言い出し、急遽能丸くん、コピー屋さんに走る。
やはりイベントには売り物がないと。

やがて開場、シヴヲさん、豊田くんなども来てくれたが、
それ以上に若い女の子が目立つ。木原さんが
「おかしいな、いつもの怪談の会の客層と違うわ」
と不思議がっていた。

最初に木原さん、山田監督、私の三人が上がり、
例によって私と木原さんが両側から監督を徹底してツッコんで
イジメるというSMプレイ風大会。
そうやって客のテンションを上げ、うまく上映作品への興味を
誘導する。なかなかうまくMCできて、楽屋で金沢さん古谷さんの
拍手を受けていい気分。ただ、声は相当ひどいことになっていた。

やがて上映開始、京極さんがかなり念をいれて音響効果、さらに
CGを描き込み、さらに古谷さんの音楽が入って(これまでは仮の
ものが入っていた)、なんと、かなりよく見られる出来のものに
なっていた。途中で楽屋に京極さん見えるが、ドラキュラのセリフ
などで、
「いくらなんでもそりゃないだろ」
というようなところには音をかぶせて聞き取れないようにしたとか。
ここらへんが、私(や木原さん)と京極さんの違いなのだろう。
私なら、絶対にそういうセリフは目立たせて、B級中のB級という
カラーで売るのだが。
ラストに幸田尚子ちゃんが梶芽衣子ばりのスタイルで
出てくる次回作品の予告編が入ったが、これがかなり面白そうな
感じだった。

上映が終ったあと、15分ほど休憩。ハッシーも来たので
こっそり耳打ち。ちょっと今日は私とハッシーで
アテコミがあるんである。

休憩後、壇上にスタッフ、キャスト、そして京極さんを
上げてトーク。京極さんのトークはやはり手だれで面白く、
主演女優二人も、頭で話をまとめる幸田さんと天然系の大野さん
の対比が出て、面白い。
ただ、放っておくと山田さんが“いい話”ばかりしゃべるので、
そこらへん適宜、突っ込みを入れる。
苦労ばなし、いい話は映画を作れば誰だっていくらでも話せるが、
イベントの(特にこういうB級テイスト映画の)ウリは、
ロジャー・コーマン方式のドライなエピソードなのである。
イベントで本当の苦労ばなしをしても仕方ない。

ただ、引退同然だった五味龍太郎(大映ナンバーワンの悪役時代劇
俳優)氏をくどいて出演させた話には、やはりジンとくるものあり。
それこそ、エド・ウッドとベラ・ルゴシの関係である。
こういう関係はB級映画という、どこかに情念がないと惚れ込めない
作品群に惚れ込んだ人間でないとわかるまい。

ラストの〆も、“映画監督という仕事は、俳優さんからロケ車の
運転手さんまでにいたる全てのスタッフさんの力を借りてものを
作らせてもらう仕事で……”と“いい話”をはじめるので、
「盛り上がる話をしろ!」
と壇上両端からツッコむ。
そういう話は平山亨さんクラスで初めて似合うので、女の子を
ノコギリで真っ二つにしたり、額に釘を打ち込む映画を撮る人間が
(イメージとして)言ってはいけない。マーケティング戦略として。

結局、予定時間を25分もオーバーしてトーク終了。
今日の客には京極さんファンが多いのかと思ったら、最前列の
お客さんはみな私のファンだった。常連のクスリ娘さん、
それから『トンデモ怪書録』持ってきてくれた人などにサイン。
お店から焼酎ボトルがプレゼントされたので、シヴさんやハッシーも
加えて、お疲れの乾杯。今日の売り上げを壇上に上がった人数で
割ったギャラがIPPANくんから出るが、トッパライは
初めての人もおり、大野由加里ちゃんなど感激していた。
10人で割るんで、ホンのわずかなものではあるのだが。

そこでワイワイ1時間ほど話し、12時過ぎ、木原さん、由加里ちゃん
など帰ったあと、残りのメンバーと京極さんのスタッフさんとで
焼肉屋に入り、ここでも某話題で大盛り上がり。
京極さんもノることノること。ハッシーが大喜びであった。

で、上記のアテコミ、見事に功を奏す。
ともかくも、これあるを以て今日はじつに実り多い一日となった。
雑談、歓談、とめどなく、ふと気がつくともう4時半。
なんとここは山田監督におごってもらう。
イベント成功のお礼だとか。何だか、突っ込みまくっておごって
もらうのは、いかに演出とはいえ良心の呵責が(笑)。

タクシーで京極さん、山田監督を送り、私とハッシーで次に
タクシー相乗りで帰宅。二人ともゴキゲンでちょっと興奮状態。
さて、帰りついて、明朝のゴホゴホが怖いので、
アスクロンとベリコデの二薬を一度に服用する。
どちらもかなり強めのクスリであり、ちょっと合わせての
服用は普段ならしないが、この体調ではこれくらいの荒療治で
ないとダメだろう。5時、就寝。

*記念写真。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa