裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

13日

木曜日

尼さんバレー

サインは合掌。

※アスペクト原稿 映像化打ち合わせ 書庫整理

朝9時半起床。
空は快晴だが、安眠できずに何度も目覚めたりまた寝たり。
そのときの夢。
『新婚花嫁の手引』のビデオに出演。なんと花婿の役で、
いつの時代か、純和風の家で、家庭ではゆかたに着替えている。
花婿ばかりでなく、ときには“白人の客”の役などもやる。
で、このビデオ、解説をすべて浪花節でやり、
「♪そのときお客が入ってきて〜」
などとやっている。

朝食、バナナジュース、つぅきゃっとさんから戴いた福島の梨(涼豊)
を使ったサラダ。
自室に戻って日記をつけ、それから『社会派くん』単行本
あとがき原稿。さらにコラムを。
オノからメール、いろいろと大変。
仕事また仕事、だなあ。

朝日に載った“田母神論文論”について、メールいくつか。
好評のようで安心。
しかし、あれは私の功ではなく、あの論文を陰謀論の立場から
論評させようと考えたオピニオン編集部のアイデアのよさだろう。

弁当(アメ横で買ったという炭火焼き塩サバがお菜。美味い美味い)
使い、家を出る。渋谷のベラミで某社某君と打ち合わせ(まだ
雲をつかむような話なので伏せておく)。私の某著作の映像化について。
企画案そのものはかなりしっかりしているが、具体的な製作に
ついてはまだ何もわからず。とりあえず連絡のみとるよう、
某君に指示。

事務所に行き、原稿続き。
途中でバーバラ来て、蔵書処分市の打ち合わせ。
さらにカメラマンOさん、オノも来て、そこに持ち込む書籍を
段ボール箱にどんどん詰める。
以前から主張しているように、ネット書店(含む古書店)が
これだけ充実した現在、北は北海道から東は沖縄までの古書店の
棚が全て自分の棚になったようなものであり、ざっと検索して三冊
以上、出品がある書籍というのはまず、必要に応じて手に入れる
ことが可能であって、整理不可能なほどに蔵書数が増えた書庫に
入って無駄な探書で時間を潰すよりはるかに能率がいい。
だから、よほどの稀書や常時手元に置く必要のあるもの
以外は処分、と決めて分類にかかったのだが、思わぬネックが
その本にまつわる“思い出”というやつ。今はなき○○書店の
棚で見つけたのだったなあ、とか、新婚時代に高い値で買って
女房ににらまれたっけ、などという思いが一冊々々に沸いてきて
涙ぐみそうになってしまった。

一方で、手元にあったことをすっかり忘れていた本も多々、あり。
ローゼンベルクの『20世紀の神話』は知人に乞われて手放したと
思っていたがちゃんとあった。してみると、二度買いをしたのか?

7時過ぎまで作業。手が真っ黒になった。
みんなを引き連れて、神山町『聞弦坊』へ。
エビや野菜を茹でて、その上にニンニクバタをかけ回した
料理が蕎麦屋のつまみとしては意外で新鮮。
睦月さんのところに行ったときの話をバーバラが繰り返しする。
あと、なべかつさんにイベントをお願いしたことなど。
その間に珍しや、永瀬さんから電話。昔を思い出す。

9時、家を出てバスで帰宅。
原稿書きしばし。
12時過ぎまで。
豆サラダ、生ベーコンなどで黒ホッピー。

事務所にあった『血を吸うカメラ』を見る。
ベータで撮っていたもの。と、いうことは20年くらい前のものか?
一目でマイケル・パウエルとわかる色彩設計が素晴らしい。
まあ、当時の撮影技術の限界がそのまま特色になっている、
とも言えるわけだが、天国と地上をモノクロとカラーで
使い分けて撮った『天国の階段』など、パウエルが最も尖端的に
映画の色彩化に取り組んでいた監督であることは確かだろう。

(以下ネタバレ含む)

カメラマニアの青年が、ナイフを仕掛けた映画カメラを使い、
モデルを刺し殺しその断末魔の表情を撮影する。
映画の中では、主人公が幼児期に“恐怖心の実験台にさせられた”
父親の影響というな説明がされており、寝ている少年をトカゲで
怯えさせる実験がその直接の描写とどこでも解説されているが、
女性を専門に殺すという性癖に主人公が至った理由は、
最愛の母が死んですぐ父が若い愛人と再婚したことと取るのが
自然だろう(ここのホームムービー場面で主人公の父親の
心理学教授の役で出演しているのがマイケル・パウエル自身、
少年時代の主人公を演じているのは監督の実際の子供コロンバ・
パウエル!)。父がその罪悪感から彼に与えた8ミリカメラは、
主人公にとり母の代わりだった。カメラを使った殺人を行う
ことで、主人公は母に成り代わり、若い女に復讐しているのだ。
しかし、その母(カメラ)の“意”に反して、主人公は
アパートの階下に住む娘に恋をしてしまう(デートにもカメラを
持ち歩くのは変、という娘の意見に従い、彼は初めてカメラなしの
夜を過ごす)……そういうストーリィだと考えると、
当時何かと比較された(そして本作が駄作の烙印を捺された
原因になった)ヒッチコックの『サイコ』とこの映画は、
まさに同じテーマを描いているのだと言える。

マイケル・パウエルはスチールカメラマン出身。カメラマン出身の
監督としては他にスタンリー・キューブリックが有名だが、
やはりそういう出自の人間はメカに凝る。
この作品も、主人公が殺人に使うカメラを筆頭に、アパートの各部屋
を盗聴する装置だの、映画プロデューサーが使っている、受話器を
持たないでも話ができるスピーカー装置だの、さらに有名女優の
スタント役のモイラ・シアラーが持ち歩いているポータブル・
テープレコーダー(!)だのといった、当時(1960年)の最新機器
が満載で、監督のメカ嗜好が顕著である。この映画でのポータブル・
テープレコーダーの役割は今でいうiPodであろう。

出演女優の中で一番美人なモイラ・シアラー(パウエル映画
『赤い靴』の主演、『ホフマン物語』での主要キャラ。本業は
ダンサーで、今回もダンスシーンは凄い)ではなく、
ヒロインはアンナ・マッセイ(『毒薬と老嬢』のレイモンド・マッセイ
の娘)であったのが意外。モイラ・シアラーがこの後映画界から
足を洗うのは、こんな猟奇オタク映画に出演させられて、しかも
はるかに美貌では劣るマッセイにヒロインの座を奪われたせい
かもしれない。とはいえ、マッセイは さすが名優の娘、その後
卓越した演技力を身につけて、『サイコ』の監督・ヒッチコックの
『フレンジー』や、テレビの『ヤング・インディ・ジョーンズ』
シリーズにも出演、いまだに現役である。

ちなみにアンナ・マッセイの最初の亭主(58〜62の短期間だが)
がジェレミー・ブレットこと、グラナダ・テレビの『シャーロック・
ホームズ』シリーズのホームズである、というのはまたまた意外!

なんだかんだで就寝2時過ぎ。
胃がちょっとムカムカ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa