裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

13日

水曜日

ナンパ系全学連

「カノジョぉ、デモいかない?」

※『Memo男の部屋』原稿

朝7時半起床、寝床でマリオ・プーヅォ『ザ・ファミリー』
読む。マフィアの話ではなくて、ボルジア家の話。
読むうち9時になり、朝食。
リンゴ、タンジールみかん、アオマメスープ。
佳声先生宅より、長野の仕事のお礼が届く。

昨日が〆切だった『男の部屋』の原稿を書く。
これもどこかでそろそろ単行本にまとめることを
考えていい頃である(ワールドフォトプレスはこの手のエッセイは
本にしない出版社なのである)。

1時半、完成させてメール。
明日の落語会のネタの稽古などぶつぶつ。
そこでオノから連絡、事務所の鍵を忘れて入れない、とのこと。
すぐ行くから、3時半までどこかで時間つぶしている
ように、と指示。
急いで昼食をとる。イカの刺身をショウガ醤油にひたしておいて、
温めたご飯の上にシソの繊切りと乗っけてかきこむ、イカ丼。

いくつか連絡事項すませて、3時タクシーで事務所。
いや吹く風の冷たいのなんの。
アマゾンから届いた書籍など受け取る。
オノが出直してきたので、事務所のマスターキーを預ける。
本来、今日は家で稽古に専念するか、という心積もりであり
スタッフのドジのおかげで事務所に出ることになったのは
とんだ無駄、と思うところだったが、これが実は出てよかった。
会社関係のことで書類を提出しなければならない件があり、
その提出日が明後日で、てっきり書類はもう作ってあるものと
ばかり思っていたら、それどころか、その書類のありかも
どこだったか、という状態であったことが判明した。
大慌てで二人で事務所中を探し回り、やっと発見。
ふう、と息をつく。

その他、アサツー・ディー・ケーから原稿依頼問合せメール、
『男の部屋』Mさんから受け取りメールなど。
朝日新聞からゲラFAX、ただし次の私の書評予定本の刊行が
このゲラの本よりも早いため、そっちの原稿を先に載せて、これを次回し
にするかも、とのこと。次の書評予定本が二冊同時なので、早く
読まないと、とあせる。
ビデオ、DVDの類をちょっと探して自宅へ持って行く参段。

バスで新宿西口。小田急ハルクで買い物。
やはり最近はここがモノが揃うことでは一番。
地下鉄で新中野まで。

早川書房Aさんから先日、関西ローカルの番組で私の著書を
使って特集をやる許可を、と言ってきたので、それにかこつけて、
以前から懸案の企画(こちらの怠惰で宙ぶらりんのままになっていた)
をいくつか提案しておいた。
それの返事で、別口のものがいま立ち上がりそうだというので
そこにいくつか、友人たちの本の企画もお願いしておく。
実はこれも『男の部屋』のも、その前にやる仕事山積なのだが
弾込めは常にしておかないと。

メール連絡数通。ちょっと打ち合せ必要なものもあり。
市川崑監督死去の報。
愛弟子の安達Oさんの嘆きが思われる。
以前安達さんのブログの『黒い十人の女』レビューにあった
「ワンカットの中の情報量の多さ」
を読んでなるほどと思ったことがある。
テレビの画面では、主役のバストアップだけでいっぱいいっぱい
だが、スクリーンというのは広いのだ。
そこにいろんなものが映り込み、そして、暗い映画館の中で
画面に集中している観客たちには、その、画面の中に映っている
ものが、情報として全て意識の中に取り込まれる。
ストーリィには関係なくても、なんとなく
「あ、この作品はリッチだ」
「この作品は貧乏だ」
というイメージがそこに生れてしまうのである。
これは予算の多い少ないとは関係ない。
あくまで、絵作りに監督がどこまで神経を費やしているか
の問題なのである。
自分も監督として画面の中の情報量にはこだわった伊丹十三が
『吾輩は猫である』に迷亭役で出演したときのキネ旬の対談で
苦沙弥先生の書斎の書棚のに並んでいる本の選定を、
「まさに明治時代の教養人の書棚って感じ」
と絶賛していた。こういう作り込みが、市川組はズ抜けていたと思う。

晩年の作品には首をかしげざるを得ないものもあるが、
しかし、どうあれ巨匠・名匠の名を恣にし、90代まで作品、それも
大作映画をまかせられ撮り続けられたというのが凄い。
われわれマニアはどうしても不遇な天才の方に肩入れしたくなるが
映画を撮りたくても撮れない現今の状況下で、なぜ市川崑のみが
映画会社やスポンサーにかほどまでに信頼されていたか、それを研究する
価値はあるだろう。

思うところ、ひとつには、助監督たちに
「どんな汚い手を使っても監督になれ。この世界では監督に
ならないとゼロでしかない」
と言い切り、また、新感覚の鬼才としてもてはやされた自分の評価
に対し、
「鬼才なんて評価はメシにつながらない。賞をとって評価されなくちゃ
意味がない」
と言って『ビルマの竪琴』『野火』などの文芸作品で見事国際的な
賞を受賞した、という、プロとしての冷静かつ現実的な自己判断が
あるだろう。

もうひとつは、あれだけのヘビースモーカーでありながら
(常にくわえタバコをしていられるよう、前歯を一本抜いたという
伝説がある)92の長命を保った頑健な肉体がある。
太秦の撮影所で聞いたが、市川監督は80代になっても毎日のように
ステーキを食っていたほどの肉好きだったそうである。
黒澤明もやはり肉好きだった。
こんなところだけ天才のマネをしても甲斐はないと思うが、
健康のため私もせっせと肉食に務めよう。

明日のネタをいろいろ調べつつ、メモ取りながら、
ステーキ(とはいえ鯨肉)、ホタルイカの酢味噌和えで酒。
発泡酒一缶、焼酎の蕎麦湯割。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa