裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

31日

月曜日

ジョアの鐘

♪鳴ってる鳴ってる煩悩鳴ってる除夜〜除夜〜(小柳ルミ子・歌)

※コミケ 大晦日食事会

6時半に目が醒める。
実質睡眠時間3時間か。
つらい一日になるぞ、と起きて入浴し、
母の用意してくれたカニサンドで朝食。
ぜいたくに蟹缶のタラバガニの脚をたっぷりはさんだサンドイッチ。
CLUBSANDWICHならぬCRABSANDWICHである。
うまいがビールが飲みたくなって困る。

今回は荷物も他の準備もほとんどスタッフがやってくれているので
私は用意もなにもなく、身一つ(人寄せパンダ役である)で
行けばいいので気が楽である。
玄関でふと気がついたが、昨日モツを煮込んで、
普段ならマンションじゅうにモツの匂いが蔓延しているはずなのに、
一切匂いがなし。東急ハンズで買った無臭匂い消しの力、すさまじ。

7時15分、家を出て、タクシーでお台場ビッグサイト。
運転手さんに
「この年末に凄い人出ですねえ。何があるんです?」
と言われるのも恒例也。

西館“れ”69a。すなわち壁際である。
「壁際、島角大手のしるし(リゲインのCMソングの節で)」
と歌われた壁際は、長いコミケ歴でも初めてである。
なるほど、スペースが格段に広く使え、いちいち荷物や
在庫の置き場の中で身をすくめている必要がない。
合体で隣り合わせのバーバラが
「私は壁になりたい」
とシャレを言っていたが、さすがに快適である。
ただし、通路が広い分、フリのお客さんが気付かずに通り過ぎて
いってしまわないか、という不安がある。
それを解消するために、バーバラに巨大ポスターを作らせて、
壁に貼り出す。
最初は目立つように高く貼っていたら、スタッフに
「ブーススタッフで一番背の高い人が手を揚げて届く高さを
上限にしてください」
と注意された。そういうルールがあるのか(事故防止のためだろう)。
「しかし、そのルールだと、背の高い低いでかなり有利不利の
差が出るんじゃないスかね」
「春風亭鯉朝なんかがブース出したら全然見えない」
などとオノと話す。
その鯉朝、談之助と挨拶に来たが、おとつい昨夜との二連チャンの
飲み会で、ノドをすっかりつぶしていた。

談之助さん、開田さんのところから委託を受けてそれぞれの
同人誌を置く。うちは新刊が二冊にバーバラ制作の文サバ本の
計三冊が新刊、それからバックナンバー類と、あぁルナのDVDも
置くので、もうキツキツ。山本会長からMAD本とチャリス新刊を
いただく。S井さんはゆうべ、K子の元でアシスタントたちと
簿記試験の特訓だったそうで、かなりしごかれたらしく、
みんなの同情を受けていた。

ロフトのさいとうさんが随分とフツーの女子っぽい格好で
来ていたので萌え。手伝わせてください、と言うので
ずっと居てくれるのかと思ったら途中で消えてしまった。
こちらのスタッフは私の他にオノ&マド、それに近喰和信くんを
こないだの『ノーボディ・ノーパーティ』の打ち上げで強制的に
マドがスタッフ拉致したので、総勢4人。
バーバラの方はいつものコスプレちゃんと元夫のOさん、それに
しら〜と引田さんが加わっていた。

右隣が眠田さんのウォーマシーン、さらに隣がと学会。
左のバーバラの隣が岡田斗司夫のロケット野郎、だったはずが
もうコミケには出ないそうで、ブースは確保されていたが開店休業。
その隣が探偵ファイルだった。探偵ファイルの巨乳アイドルえりす
のコスプレがもう、エロいこと。
開田さんのブースに行ったら、やはり
「今年のコスプレはエロいねえ!」
と驚いていた。
片ショルダータイプの衣装を着けてブラ丸出しなのとか、
太股のしかも内股にタトゥー描いてるハイレグとか。
この厳冬に、とか思うが、熱気でむしろ館内は熱いくらい。
黒セーターの首の部分に、小さい黒いバンダナをはめると
遠目からでは区別がつかないので、着脱式タートルネックと
して寒い日には重宝しているのだが、途中から汗ばんできて
外してしまった。

やがて開場、最初こそ客はパラパラという感じだったが、
やがて列を成すようになり、最初は座って応対していたのが
立ち上がり、握手やサインや新刊の説明に応じて、さらに代金を
受け取り、ときどき椅子に腰をかけるのだが、倒れ込むように、であり、
しかも30秒も座っておられず、次のお客の相手をせねばならず。
脚がパンパンに腫れ上がり、もう死ぬかと思った。さすがは壁際。
とはいえ、新刊三冊セットがどんどん売れていくのは快感。
委託本はすぐ売り切れになり、売り上げを届けさせたら
早いのに驚かれたとマドがウレシソウに言っていた。

もう、数限りない知りあいや業界の方が挨拶に来てくれて、
コミケというのはこういう、普段無沙汰をしている方々への
いい義理立ての場になるな、とちょっと思う。
どんなに思い出しても付け落ちがあるので、いちいち記さず、
あしからず。ただ、若いお客さんで、私の『文筆業サバイバル塾』
の前の二巻を買って読み、内容に感嘆してすぐにその記述に則して
原稿を書いて持ち込みしたら採用されて、いまネットマガジンに
連載しているという人にお礼を言われたが、これはうれしかった。

これも例年のごとく、長々立ち読みしたあげくに
買わずに帰る客もいたが、今年は、帰ったかなと思ったらまた
戻ってきて、買っていくというパターンの人も10人以上いた。
内容がよかったせい、と思いたい。
オノは大車輪だったし、マドも荷物受け取りから途中で忙し過ぎて
具合の悪くなったバーバラのクスリまで買いに行ってくれる
働きぶり、近喰くんも初めてのコミケにとまどいながらも
よくやってくれた。満足である。

探偵ファイルのところはオースミ氏の呼び込みが凄く、
「私の人毛を付けます!」
というわけのわからん呼び込みの文句をやっていた。

3時半、撤収。撤収まぎわまで客足途切れず対応に追われる。
しかし、うちよりも隣のバーバラのところの方が平均して
長い列ができていたように思う。
バーバラ曰く、
「出版関係ものはいま、売れ線の鉱脈なんですよ!」
と。もっとも彼女、暮の無理(このコミケの準備にとにかく
暮を全て使っていた)が祟ったか、途中でダウンし、
椅子に倒れ込んでいた。“おたふく風邪かも”と言っていたが
熱が40度もあったそうである。それでも、途中からはまた
元気に客の応対をしていたが。

眠田さんが
「やっぱり海外アニメ本ってのは売れないよ!」
とボヤいていた(しかし、後で計算してみたらかなり売れていた
とのこと)。あと、米澤さん夫人のベルさんが以前米やん原稿を
書いた同人誌の新装版を持ってきてくれて挨拶。
今度『虎の子』で飲みましょう、と約す。

さてやることもほぼ終えて撤収。タクシーもほとんど列がなく、
すぐ乗れる。
大晦日の、動きを停めた東京シティの澄んだ空を楽しみつつ
4人で渋谷の仕事場まで。運転手さん、娘二人がコミケに
出店しているそうだが、
「どういうのを描いているか、教えてくんないんですよ」
というので、オノが“何日目に出てるんですか”と訊くと
「昨日だったんですけどね」
との答え。
「二日目かー! それは、言えないかも」
と大笑いになり、運転手さん、不安そうな表情になっていた。
渋谷着。オノに金勘定をさせて、その間、背中がガチガチの鉄板状態に
なっていたので少し横になって(テーブルの下に)寝る。

起き出して、まだ作業続いているので、少しでも仕事場を
片づけるか、と階下に下りて、床の上などに山を成している
本の整理を始める。やり始めると凝り出して、あそこの本を
こっちへ、こっちの本をあそこへ、とやり、時間を忘れる。
「上は終わりましたがまだですか」
と二度ほど催促された。掃除機まではかけられなかったが、
なんとか応急なりとも、仕事場が人間の住んでいる部屋に見える
までにはなった。目出度し。
オノから、売り上げのごく一部であるがアガリを受け取る。
上々吉の売り上げだったそうである。さらに目出度し。

それと、今日はいつものレインコートではなく、一応寒さ対策の
ためのオーバーを来てきたのだが、暖冬のこととて、着るのは
今年は今日が初めて。ポケットに手をつっこんだら、4千円がとこ
紙幣が出てきて驚いた。去年の暮に、(多分)酔ってタクシーで
帰り、お釣りを受け取って、そのままポケットに入れ、
財布に入れ直すのを忘れたままクロゼットにかけ、そして
そのことを失念したまま、一年以上放っておかれたままになって
いたのであろう。

気分が大きくなって、よし、夜の飲み会の前にコミケ打ち上げを
やろう、と外に出る。大晦日でもうどこも閉まっている。
「蕎麦屋くらいは開いてるだろう」
と探していたら予想あやまたず、PL病院のある神山町の通りあたり
に手打ち蕎麦の提灯。中をのぞいたら、おあつらえで4人分、
カウンターが開いていた。入って思い出したが、Yくんと
打ち合せ兼の昼飯にと入った店だった。

「大晦日用品書き」
という特製メニューに従って、板わさ、鴨焼き、蕎麦味噌、
天麩羅盛り合わせなどでビールで乾杯、燗酒も行こう、となって
一合つけるが、すぐ飲み干してしまい、
「センセー、もう蕎麦にするにしても、あと一合くらいはいけるのでは」
という進言にすぐ従って、もう一本。
売り上げも上々、バリバリだった身体も、大掃除がマッサージ代わり
になったか、痛みもなくなり(疲れが限度を超してアドレナリンが
出てきたのかもしれず)、酒も肴もいずれもうまい。
気分も高揚してきて、実に楽しい大晦日となる。
支払いはポケットから出た額ではまるで足りなくなったが、まあ
そこはそれ。
K子に電話、本日の報告と明日の打ち合せちょっと。

ご機嫌で出て、タクシーで新中野まで。
サントクで飲み物仕込んで、母の室に押しかける。
やがて談之助夫妻もユウトくん連れて来、さらにパイデザ夫妻も
やってきて、大にぎやかな大晦日。
レバーペーストとイクラのトースト乗せ(トーストはYくんの
奥さんの手製である)、近ちゃんとマドがもう、食う食う。
談之助の奥さんが来るというので、母がスーパー三軒渡り歩いて
(今の季節はおせち用にエビが買いあさられる)手に入れた
クルマエビでのエビマヨ、鳥肉と栗とピーマンの炒め物、
牡蛎の佃煮茶漬けなど。牡蛎茶の自家製佃煮、もう絶品中の絶品。
酒は越寒梅から焼酎『五人蔵』、マド持参の
磯自慢純米大吟醸熟成、それからズブロッカ。
談之助の語る例の一家の裏事情ばなしに母、感嘆。
あと、近喰くんが札幌の薬局にいたEさんにソックリだ、と。

マドは途中でソファで寝てしまい、残りのメンバーでワイワイ。
私は途中から飲み一辺倒になり、あまり食べず。それでも
デザートは甘いものを欲しがる酔っ払いの本能で、
やめろと制止されるのを振り切って食う。
話疲れると紅白やK1、BSでの談志の高座などをザッピング、
最後はやはり『ゆく年くる年』。
なんやかや、ここ数年で最も大晦日らしい一日になったような気が。
しかし、そこまででさしもアドレナリンで賦活されていた肉体も
限界、モウ寝ると宣言。今年もよろしく、で自室に戻る。
K子が大掃除の仕上げをしておいてくれたので、床もピカピカな
状態の部屋で、ベッドに倒れ込んでそのまま沈没。
かくて一年は終わりぬ。

・写真はコミケ準備段階、勢揃い段階、販売中。撮影はいずれもマド。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa