裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

水曜日

あなたと、学会したい

一緒に池田先生の講演を聞きにいかない?

※企画原稿

夢に何度も出てくる場所がある。
最近は見ないが、阿佐谷の北口から高円寺に続く通りの光景。
もちろん、現実のとはまるで違う、ずっと道が階段状になっていて、
両側に木造建築が隙間なく立ち並んでいるという、
水木しげるの初期のマンガに出てくるような光景。
それから、山の中にぽつんと一軒家で建っている実家。
これまた実際とはまるで異なる。
そして、今日久しぶりに見たが、
渋谷の郊外(?)のおしゃれな通り。
昼間だったことはなく、たいていが深夜の光景である。
鉢山町の通りか、それとも井の頭通りのあたりが
原型になっているのか。
その通りにある黒いビルの中の、木造黒塗りの居酒屋。
そこで飲み会をやっている。
あぁルナのメンバーが何人かいたようなので、
こないだの川崎での打ち上げの記憶が残っていたのだろう。
私は酔ったのでその店を出て少し歩くと大河があり、
そこを観光で渡る遊覧船の船着き場に入る。
昭和っぽい待合室で少し待ち、着いた船に乗るが、
そこでさっきの飲み会の一団とまた合流、木のベンチに
押し合いへし合いしながら座って、窓からちらちら見える
川面を眺めていた。

朝6時ころ目が覚めて、布団の中で読書。
朝日新書『江戸の歌舞伎スキャンダル』(赤坂治績)。
某仕事の資料用に買ったものだが、資料には使えず、
しかし面白い。内容は面白いのだが、著者の文章は繰り返しとか
話題の途中で別の件の注釈とかが入って、やや読みづらく、
寝床で読むにはくたびれる。
で、少し呼んでは眠くなってまた寝るのだが、このまどろみが
凄まじい快感。

8時半起床、入浴。
9時朝食。コーンスープにリンゴ、イチゴ。
アンドナウの会、打ち合せに、ひとつ業界で名高い某店を使って
みたい、一年の最後くらいいいだろう、とスタッフ某くん
言い出し、私がちょっとツテを頼んで打診してみた。
そしたら、予約が入らないと店を開けない上に、
一人一席七万円という超法規的な値段とのこと。
もちろんマスコミは一切お断り(BBCは日本のじゃないから、と
許可をもらったことがあるそうな)、常連には黒澤明、
貴乃花、王貞治、安倍晋太郎とかがいて、それクラスでないとダメ、
だそうである。オソレイッテあきらめる。

黒澤明の娘さんの書いたものなどを読むと、
黒澤家では常に人を呼んでパーティを開いて盛大に飲み食い
しており、映画を作れずに金がなかったときに、それが
出来なかったのがかなりつらかったらしく、
新しい映画の話がきて、金が入ると、まずやることは
人を呼んでの食事会、飲み会だったようである。
たぶん、上記の店にも一人でいったわけではなく、
スタッフやキャストを連れて入っての大散財だったろう。
映画監督なんてのは、それをしないといけない職業で、
以前、本多猪四郎監督の夫人にうかがった話では、
本多監督も、あるとき自分の資産を調べて、
「もっと稼いだ筈なんだがなあ。みんな、人に食わせて
しまったんだなあ。すまんなあ」
と夫人にあやまったそうである。
伊丹十三は最初それがわからず、スタッフが飯を食うときにも
「自分はいま、ダイエット中だから」
と参加せず、ベテランの助監督が一度、
「監督というのはそれではいかん」
と説教したことがあったという。
映画というのは本当に身を削って作るものなのだなあ。

原稿書き(某企画のもの)せっせと。
やっていたら昼飯を食うのを忘れていた。
3時過ぎに茶漬けを一杯掻き込んで。
いかにも師走の食事という感じである。

昨日事務所に出なかったから、今日はぜひとも出なくては、と
タクシー使って事務所へ。
明日のラジオの準備とか、ゲラとか、いろいろFAXが
来ていた。それをすませるのに時間食う。
資料を買いにパルコブックセンターへ。
アベックが多いのはこの季節の渋谷では当然だが、渋谷に住まいして
十年、石を投げたくなる気持ちをこらえてアベック観察をしてきた
経験から言うと、以前に比べ密着度が高いというか、女性の方で、
逃がすものかとばかり男性の腕にしがみついている、というカップルが
今年は多いような気がする。女性の売り手市場ではなくなって
きていることの表れか。

事務所に帰ってまた仕事続けるが捗らず。
あきらめて東急本店で買い物、駅前からバスに乗り帰宅。
資料本車中で読む。

DVD整理。買って忘れていた、ルビー・モレノ主演
『SM借金地獄』見る。実際に借金まみれだったモレノが
ヌードになって出演、からむのがこれも借金まみれで吉本を解雇
された松本竜介という、キワモノもいいところの作品、
と思ってみていたら、何とホラーだった。
ちょっと驚く。

アサリ剥き身とネギ、油揚を薄だしで煮て、それと惣菜の
野菜煮付けなど食べながら酒。
『ブレードランナー アルティメット・コレクターズエディション』
の、メイキングを見る。もう25年も前なのか。
涙なしでは見られないが、プロダクション・イラストレーターの
トム・サウスウェルのインタビューの日本語字幕で
「(リドリー・スコットは)ヘヴィ・メタル(SFコミック誌)の
ようなデザインを求めていた。メビウスの帯のような、新しい発想で
渾沌とした世界を作れと」
とあって、見ていてヘヴィ・メタルでメビウスとくれば、これは
メビウスの帯(輪)のメビウスじゃなく、漫画家の方のメビウス(同誌の
創刊者)のことなんじゃないか? と思う。

英語字幕で見直してみると、確かにサウスウェルは
“メビウス・ストリップ(Möbius strip)”と言っているのだが、
この場合のストリップは帯ではなくって、コミック・ストリップの
略だろう。↓ここなど参照。
http://moebius.exblog.jp/95661/
いや、訳を非難しているわけではない。
メビウスの帯でも話は何とか通じてしまう。
いちいちこういう特殊な世界の用語に全て通じるのは不可能である。
むしろ、こういうフックがあることにより、いろいろと
その世界のことを踏み込んで調べられるキッカケになれば、
むしろそのフックとなってくれたことを喜びたいのである。

ホッピー二杯。
体力急速に落ちて、メイキングも途中で見るのをやめて
ベッドにもぐりこむ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa