裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

21日

金曜日

トレーダー、トレーダー、お前はトレーダーになるのだ

投資家養成講座“株の穴”。

※アスペクト語り下ろし収録(後半) NHK試写 あのつくん歓迎会

朝6時半ころ目が覚める。
布団の中で本を読みあさる。
アンドレ・モラリーダニノス『性関係の歴史』(文庫クセジュ)など。
文庫クセジュってどれくらい読まれているのだろうか。
この本は高校生くらいのとき、題名にドキドキしながら
読んで、訳文のあまりの生硬さにヘキエキした記憶がある。
「やがては下部生命機構と機能の発見によってもたらされた
一種の情熱的な客観性」
なんて文章はどういう意味か、一回読んだきりでは理解できない。
また、アン・ボレイン(アン・ブリーン)、サミュエル・ペピイス
(サミュエル・ピープス)、ソネ(ソネット)、サバ(サバト)の
ような、独特の表記(後ろ二つはフランス語読みか)にもてこずった。

しかしながら、何となくこういう独特の表現や表記が、高校生である
こちらに、“アタマいいことを言っているなあ”というような
感じを抱かせたのも事実である。
すっと読み飛ばしてしまえばそれほど大したことを言っていない
内容でも、こういう風に書けば、読者の目をそこで一時ストップさせ、
アイドリングさせたまま、内容に思いを馳せさせることが可能なのだ。
悪文の効用というのは確かにあるな、と今回も感心させられ、
訳者名を見たら篠沢秀夫だった。まえがきで
「訳者は、本書の主題に関しては全く専門家といいがたい」
と逃げを打っているのがおかしい。あるいは、初版刊行の
一九六六年当時の大学内で、こういう性的な内容のものを翻訳した、
ということであらぬ噂がたたぬよう、故意に訳文を
硬いものにしたのかもしれない。
ちなみに、高校生であった私に一番受けた個所は
「播種に伴う性行為は或る種族のインディアンにおいて
発見された(マスカキ族)」
という一行であり、エロトリビアの定番ネタになっている。

入浴して、9時15分ころ朝食。
リンゴ、ブドー、スープ。
快楽亭に24日の歌舞伎のチケットのことを問い合わそうとしたら
携帯が不通になっていた。あわてて談之助さんに電話して
自宅の電話を教えてもらう。留守録にもしていない。
セットしても聞き方がわからないからしないのだそうである。

11時半、タクシーで事務所。
やはり年末のあわただしい季節はタクシー使用頻繁。
ある人にものを送るのに住所を調べねばならず、年賀状を繰って
いたら、実相寺監督からのものがあった。
「何か凄まじくバカバカしいものを一緒に作りましょう」
などと書いてあって、少ししんみりする。

オノからメール、別冊宝島からインタビューの依頼、
クリスマス明けに。何か今年はギリギリになってからの方が忙しい。
12時半、アスペクトK瀬さん来、事務所にて、本の語り下ろし
後半収録。キーワードが出てくるたびにK瀬さん、身をよじって
面白がってくれるので語りに力が入る。

語り終わる頃、バーバラが来る。
白夜の『トンデモ版・ユーチューブのハマり方』の話。
その最中に電話、TBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』
から、例の政府のUFO問弁について、まとめでコメントをして
くれないか、とのこと。時間を聞くと、5時20分ころ、との話。
その時間はNHKで実相寺昭雄監督の追悼番組の試写なのだが、
と思ったが計算してみると、3時半からだいたい1時間半の番組を終えて
5時。20分からなら大丈夫かな、とOKする。

K瀬くん帰って、すぐにNHKに。
『肉眼夢記 〜実相寺昭雄・異界への招待〜』のスタッフの皆さん、
奥様の原知佐子さん、それにちな坊(タヌキのぬいぐるみ。実相寺
監督が息子と言って可愛がっていた)。寺田農さん、コダイのIさん
等に挨拶。試写室はもう、ほぼ満員の盛況(ちな坊は当然、最前列
の真ん中に座っている)。補助席まで出たことにNHKの人も驚いていた。
来るという人で遅れている人がいるとのことで、映写開始が
10分ほど遅れる。電話のこともあり、ちょっと気が気でなし。
40分に開始。

ハイビジョンで撮影された冒頭の東京の夜景が凄い迫力。
ドラマ部分(京極夏彦氏演)と私たちがこのあいだ録った座談会部分、
そして資料映像部分が交錯するという趣向。
NHKでいいのか、と思うようなSM的描写もあり、驚く。
京極さんの、“まとめがそれかよ!”というオトしかたが実に何とも。
秘蔵映像では、NHKの番組に生出演した監督がちな坊を
抱いてスタジオ入りしたときの、アナウンサーのとまどった表情が見物。
笑ってしまったが、I女史に
「カラサワさん、笑っていたでしょう! 私も笑っちゃった」
と後で言われる。アナウンサーの職業的スマイルは見事。しかし
「何かコレクションをされているとか」
「ええ、今まで切った爪とか」
ではさすがにその笑顔も凍りついていたが。

90分(正確には89分)の試写が終わり、試写室に灯がつくと
同時に、サイレントモードにしていた携帯に電話が入る。
なんというタイミング。あわてて、感想発表などやっている試写室
から飛び出して(寺田さんもやはり携帯が鳴って一緒に出た)
ディレクターと会話、番組につなげられる。
TBSも、まさかNHKから電話に出ているとは思うまい。

荒川さんの質問に対し、星新一さんの
「円盤(UFO)は実生活がどうにもやりきれなくなった時、現れる」
という言葉を紹介し、さらに町村さん(昭和19年生まれ)
の少年時代、昭和30年代に空飛ぶ円盤の大ブームがあり、
それを思春期に体験したんですよ、というような話。
石破さん(昭和32年生まれ)はもろに怪獣ブーム世代なので
ゴジラの話が出てくるのも当然。
人間、思想信条的抵抗力のない世代にハマったものには逆らえない。

何か、昨日の『ストリーム』に続き、二日連続でラジオで
UFOの話をするというのも変なもの。しかし、緊張のせいか、
昨日よりずっとうまく、まとまった話が出来た。ダメではないか。
出口のところでIさん待っていてくれる。
中の映像に出てましたね、と言うと、違いますよ、あれ、私じゃない
ですよ、と。ただ、実相寺監督作品には一、二度出演したことが
あるらしい。

いろいろ話して、同人誌送ることを約して、事務所に帰る。
バーバラ待っていて、アキバのフェスで売る本にサインを。
し終わってメールチェック、某社ゲラチェック。
すぐ、またあわただしく事務所を出て、渋谷へ。
K子、あのつくんと待合わせで、久しぶりに武蔵小杉『おれんち』
で食事会。金曜のクリスマス前でハチ公前大混雑。
K子に電話したら、東横線乗り場のところに移動したという
ことだったので、急いで行き、通勤快速で武蔵小杉。

同じ電車で開田夫妻と乗り合わせる。
ギュウギュウ詰めの中を武蔵小杉。自営業者のあのつくん、
「こんな電車に乗ったのは何年ぶりだろうか」
と。

駅から歩いて10分、『おれんち』到着。
メンバー、われわれ夫妻、開田夫妻、あのつくん、I矢くん、
のび太くん、しら〜さん、それにコーディネーターで
みなみさん。別席にももさんもいた。
とりあえずビールで乾杯、渇いた冬の空気の中歩いてきたので
ビールがうまい。

あと、おまかせで刺身盛り合わせ(真鯛、甘エビ、胡麻鯖、アオダイ、キンキ、
赤イサキなど)、白レバ、焼き鳥、白子天麩羅、
鯛のおから蒸し、香箱ガニ、鯛の中骨のネギ味噌焼き、
それにあのつくんのおみやげの鯨の皮をネギと共に蒸したもの、
ふぐとネギのつけ網焼き、サワラ塩焼き、ブリしゃぶ、キンキの鍋。
まだあと、何か出たかもわからず。
それからこれもあのつくんのおみやげのハゼの干物をあぶって
骨酒にしたもの。仙台では雑煮のだしに使うものだとか。
腹いっぱいになって〆の雑炊とかはとても入らず。

みんなテンション高くてギャグ飛ばしあい、
うるさいほど。
K子もごきげん。昼にそう言えばオノから、K子から仕事の指示
が来たのだが無茶苦茶ごきげんな内容で、
「ど、どうしたのでしょう」
と質問が来た。機嫌がよくてとまどわれるというのも
困ったキャラである。

東横線で渋谷まで。そこから山手線に乗り換え、
新宿であのつくん(神田泊まり)と別れ、開田夫妻と乗り合いで
タクシー。運転手さんが私を“先生”と呼ぶので知っているのかな、と
思ったら、偶然にも、昨日、TBSまで乗った人だった。
何たる偶然。帰宅12時、自宅までの道を歩いていたら、
買い物に出る母と出会った。くたびれてすぐ寝る。

*写真は左から、香箱蟹、鯛のおから蒸し、ハゼの骨酒。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa