裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

20日

木曜日

今日もジャンキーだハッパがうまい

元ネタももう過去のものだよなあ(先日早稲田のタバコ屋の看板に見つけて
懐かしくなってしまった)。

※『ストリーム』出演

時節柄、忘年会の夢。
トイレに行ったら、そこで談之助さんが高座着に着替えていた。
何故か死んだ知人がいて余興に歌を歌うが下手で呆れる
というもの。

朝、寝床の中で読書。
『江戸の歌舞伎スキャンダル』続き。
八代目団十郎が大阪で31歳の若さで自殺したときの死絵
(追善のために刷られた浮世絵)が面白い。寝ている(目を
あけているので死んでいるように見えない)団十郎の周りを、
ガリバーのリリパット人のように小さい女性ファンたちが
取り囲んで嘆き悲しんでいる図。涅槃図からの連想だろうが。

それにしても、追善絵とか供養絵とか言えばいいものを、
死絵とは凄まじくダイレクトな名称である。
昔、兎月書房の怪奇マンガで、死絵堂死次郎(しにえどうしにじろう)
という、死絵を専門に扱っている浮世絵屋の男が出てきたのがあったが、
これはてっきり、“死絵”という名称のインパクトから
つけられた名前であったろう。
http://www.rekihaku.ac.jp/kikaku/index90/pic7.html
↑ここの説明にあるように、死絵は単なる追憶のための
似顔絵ではなく、その役者像に死のイメージを付与させて
ことさらに死んだことを強調した。
以前に死刑問題に関して書いたことだが、
ついこのあいだの時代まで、日本人にとり、死、それも
有名人の死はひとつの宗教的なイベントだったと思うのである。

8時45分、入浴。9時25分、朝食。
ヨーグルト、リンゴ二切れ、巨峰数粒。
こうでんさんから送っていただいた牡蛎の余りを母がツクダニ
にしたもので小さい茶碗に半分ほどお茶漬けを味見。
う、とうなるほど美味かった。
正月の酒疲れの胃にはこれだな。

日記つけ、いろいろ連絡。
明日から忘年会連打。今日のうちに片づけて……と
思ったのだがそうもいかず。
マイミクえべーさんの日記で、大阪のローカル放送で
ニンテンドーDSの雑学苑が大きく取り上げられていた、とあった。
どういう使われ方だかわからないが、担当は知っているかしらん。
雑用まみれのまま、1時、家を出てタクシーで赤坂TBSまで。
小西克也『ストリーム』出演。
車中で電話。てっきりTBSからだと思ったら、別なところから。
……いや、急な話で。とりあえず、マネージャーから連絡を
とらせますから、ということで切って、すぐオノにメール。
兼ね合いで気掛かりな部分もあるが、オノからもすぐ“おー”という返事。
これもイキオイか?

久しぶりに正面玄関に車をつけて(ピンポンの場合は北口玄関から
入るのである)、入ろうとしたら、“何か知り合いがいる予感”。
いや、テレパシーとかというようなトンデモは言わないが、何だろう、
「誰かいるな」
という空気を感じていたら、果然、“カラサワさん!”という声。
ナンビョー鈴木くんだった。仕事でここで打ち合せだという。
さっきの携帯でテンション上がっており、全身の神経が
ピリピリしているので、こういうカン働きがきくのだろう。

9階に上がってスタジオに入ろうとしたところで、
かつての『ポケット!』のIディレクターに会う。
『ストリーム』のMディレクターと、会議室で打ち合せ、
さっきの件についていろいろ意見聞いてレクチャー受ける。

で、もうすぐ本番。
小西さん、無精ヒゲたくわえてちょっとワイルドな感じになった。
もう、この人は以前から私のファンらしく、目がウキウキして、
何か言うたびに大笑いする。しかも自分でトウトウとしゃべる。
「小西さん、アツいですね」
とこっちが司会したくらいだった。

自著の宣伝も出来たし、何個所かアヤしいところはあったが
まず、前回、前々回の出演よりはうまくいった、と思う。
終わって、Iくんが“これからコダイの人と会う”と
いうので、一階の喫茶店でしばらく歓談。
ハルミさん(音声の人。正式スタッフでなかったのに『ブジオ』
のとき、“いつも何かおいしそうなものがあるので”というので
スタジオに来ているうち、なしくずしにレギュラースタッフになって
しまったという食いしん坊の女性)が
「カラサワさんが前に“うまい焼肉屋に連れてってやる”と言ったきり、
まだ連れてってくれてない」
と顔合わせるたびにうるさくて仕方ないので、何とか連れていってやって
くださいよ、と言われる。
相模大野ツアー、するか。

やがてコダイのI女史来たって、六本木ヒルズで行われている
『ウルトラマン大博覧会』の招待状をくれる。
実は先日撮った追悼番組の件で、ちょいピンチな場面があり、
たまたま京極さんの番組をやっているIくんがかなり大胆な手助けを
したらしい。そのときに、Iくんがカラサワと実相寺監督を
ゲストに呼んだ番組を作り、追悼番組まで作ったと言う話を聞いて
驚いたらしい。

しばし、実相寺監督の思い出話。
“猫が庭に来た記録”ばかりか“排便記録”まで取っていた、と
いう話に笑う。聞いて驚いた“数十年分の、切った爪のコレクション”
は、奥様が処分なさってしまったらしい。惜しい、と思うがしかし
よく考えれば何が惜しいのだか。
「追悼番組で映像だけでも残したかったのに」
と言ったら奥様(原知佐子さん)、
「イヤよ、気持ち悪い」
とニベもなかったとか。
それを聞いた美術の池谷氏、
「じゃ、作るか」
とつぶやいたそうだが、結局実現しなかったとか。
話だけでベラボウに面白いので、もういいや。
しかし、腸を全摘した監督、それを欲しがったろうなあ。

「座談会では話せませんでしたが」
と、その記録魔癖を、『ファントム・オブ・パラダイス』の
スワン(ポール・ウィリアムス)が、悪魔との契約の条件に、
自分の記録を全て録っておけ、と命じられたエピソードと結びつけ、
「実相寺昭雄という人間も、映像の悪魔に魂を売った男、だったの
かもしれませんね」
と、キザなことを言う。
ま、美人相手(I女史はかなりの美人)にはね。

明日のNHKの試写に誘われたので、急いでアスペクトに電話し、
アスペクトでの語り下ろしを事務所にて、に変更してもらう。

3時、そこを辞して、地下鉄で四谷、そこからタクシーで
事務所。赤坂見附あたりを徘徊したのだが、昼食にコレゾという
店なく、結局今日は昼を食いそびれてしまう。
事務所で電話数件、私では何もわからず。

テンション変調。
収めようとして、安達Oさんのミク日記にあった、
“七人の侍リメイクキャスティング案”にならって、
“荒野の七人リメイクキャスティング案”などを作っていたら
時間がやたらたって、今日の予定全部行けなくなる。
ちなみに考えたのは
* クリス - ユル・ブリンナー-内野聖陽
* ヴィン - スティーブ・マックイーン-江口洋介
* チコ - ホルスト・ブッフホルツ-松田龍平
* オライリー - チャールズ・ブロンソン-坂口憲二
* リー - ロバート・ヴォーン-稲垣吾郎
* ブリット - ジェームズ・コバーン-及川光博
* ハリー - ブラッド・デクスター-古田新太
それに
* カルヴェラ - イーライ・ウォラック-嶋田久作
というやつ。
内野がクリスなのは『風林火山』の坊主頭つながり。
ジェームズ・コバーンを及川にしたのはこういうキャラも
いていいかも、と思ったからだが、コバーンのイメージで
いくなら韓流スターなどを一人入れるか。
http://bb.goo.ne.jp/special/korea/star/m003.html
↑クォン・サンウとか。

で、時代は明治の北海道の開拓地。
政府の開拓命令を悪用してアイヌの村落を略奪する私兵団の
ボスが嶋田久作、アイヌの長老(菅原文太・特出)の一声で
内野以下流れ者が駆り集められる。松田龍平と恋に落ちる
アイヌの娘に栗山千明。

なんてやってる場合じゃない。
いったん仕事を切り上げ、バスで帰宅。
サントクで買い物中、Yくんから電話。
こっちも急速に固まってきた。年内にもう一度打ち合せを。
昨日までは、もう今年のヤマは越えた、と思っていたのに。
それにしても来年は春からドタバタしそうである。

自宅で仕事にかかるがサッパリ書けず。
神経が執筆モードになっておらず。
以前、某社に出した単行本の企画、ボツとなる。
担当編集者からの丁寧な手紙を、その内心を斟酌して意訳すれば
「こんな新しい本の企画を出すくらいだったら、もう2年も前に
出して出しっぱなしになってる企画を早くやったらんかい、ボケがぁ」
になる。読んで仰天。
まだ生きていたんか、あの企画。
催促もないので、てっきり空中分解したとばかりと思っていた。
たまたま、出した企画が怪談がらみだったのだが、まさに
幽霊にでも出会った気分。
「はいはいはい、やりますやりますすいませんすいません」
と返答。これでまた来年の大仕事、ひとつ増えた。

それもあってさらに原稿書けず。
二時間ほど七転八倒の揚げ句あきらめ、
ビールにする。
サントクに鯨の赤身があったので、水菜と共にハリハリ鍋。
『一乃谷』風に、カワでとったダシでやり、さらに壇一夫風に
ニンニクのみじん切りを入れる。

DVDで『ブレードランナー アルティメット・コレクターズ
エディション』のメイキング続き。
製作中にかなりのトラブルがあった作品で、25年たったインタビュー
ではみんな当時を美化して語っているが、いかにも裏にいろいろ
話したいことがありそうな感じ紛々で面白い。
脚本のハンプトン・フィンチャーの顔が痩せた大島渚そっくり。
彼がそもそもディックの原作に惚れ込み、映画化には向かないと
言われた『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を映画化しようと
言い出して、プロデューサーのマイケル・ディーレイを強硬に
説得してこの企画はスタートしたのだが、“これが自分の映画だ”
と主張する栄誉は雇われ監督のスコットに奪われてしまった。
インタビューでこの映画を絶賛しながらも、そこらへん不満だらけ
の気分が露骨なフィンチャーは、やはり映画はカントクにならねば、
と、1999年、『マイナス・マン』で、殺意のない連続殺人鬼
の内面を描くという、かなり難解な作品を脚本・監督し、
一部で賞をとるなど評価はされたがヒットせず、日本でも未公開
(『クアドロフォニア〜多重人格殺人』という、内容にそぐわない
タイトルでDVD発売)。『ブレードランナー』公開バージョンで
悪評高かったモノローグの多用、デイレクターズ・カットバージョン
で悪評高かった主人公の心理の幻想的描写、という手法の両方を
使いまくっていた。

フィンチャーは俳優あがりだが、エグゼグティブ・プロデューサーで、
撮影期間の超過を理由に一旦はスコットを解雇したバッド・ヨーキン
は監督あがり。憶えている、クルーゾー警部もので唯一、ピーター・
セラーズが演じなかった『クルーゾー警部』という映画を撮った
人である。彼はスコットを降ろして自分で監督したかったようだ。
さて、どんな凡庸な作品になったことであろうか。その凡庸バージョン
も観てみたい、と非常に思う。
案外面白い娯楽映画になったのではないか。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa