裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

木曜日

ようこそここへ、クー・クラックス・クラン私の黒い人

♪森の立ち木につるします〜

※原稿不捗

朝7時起き、ゆうべ寝たのが3時ころだから5時間くらいしか寝ていない。風呂に入り、ベッドで本を読むうち、また眠くなって寝てしまい、9時に食事の電話で起こされる。

9時20分、朝食。コーンスープ、スイカ。新聞に、書評のマクラ(次の次あたりの)に使えるニュースあり。快晴だがテンションは沈滞気味。白夜書房、三才ブックスと次々に電話入るが受け流してばかり。

『三丁目の猟奇』、ネットでまだ売れていてアマゾンでは品切れ状態。さっそく、ユーズドで4094円という値段をつけている出品者がいた。そうMLで言ったら、『唐沢先生の雑学授業』には1万1200円つけている出品者がいると教えられた。いったい、これで買う人がいるのか、と思うが、驚くのはこれら出品者の評価がどれも高いこと。買って、満足している人がいるのならまあ、それは勝手ではあるのだが。

昼はひさしぶりに黒豆納豆で。蟹の身が残っていたのでカニ汁も作る。食べながらネットで、書籍用資料を検索。ついつい買い集めてしまい、K子に怒られたりするのだが。

2時、事務所に出る。アマゾンで届いた本、二冊ほど読むが、どちらもハズレ。いわゆるカリスマ起業家とかカリスマバイヤーとか言われる人の書いたコラム集というので、当たった試しなし。本人たちは鋭い視点とネットを駆使した広範で素早い情報収集能力を誇っているようだが、新しい見聞がひとつもない。そこらの、ニートのネットオタクたちのブログの方がよほど見識と情報を嗅ぎつける感覚は優れているし文章も味わいがある(特になぜかネットビジネスマンの文章はひどい)。コラムなど書こうと思わず(まして本にしようと思わず)よろしく金儲け専一にやっていただきたい。

原稿、資料集めて書き続けるがそこで力尽きる。余計なものを読んで時間を無駄にした。電話、週刊新潮から。インタビュー依頼、今度はこないだのようなヘンな依頼でなく、またちゃんと会ってお話を聞きたいとのこと。明日、ロフトに行く前に東武ホテルで会うことにする。

残っているベータのビデオを久しぶりに見て、それから買い物して帰る。9時、夕食。またまたイカのプルピートス。これまで2回作って、まだイマイチの出来だったので、三度目の正直、今日は丸のスルメイカを、自分でおろして作る。魚屋さんに頼むと、どうしても内蔵を奇麗に洗ってしまうので、味にコクが出ないのである。

イカをおろすのは案外好きである。雅子様が外交官時代通ったという料理研究会が、“イカをおろす”練習から始まるので“イカロス会”と称されていたというが、女性にはキモチ悪く感じるかもしれないが、男性であれば、イカの解体は
「よく出来た機械仕掛けを分解する」
快感に通じる感覚がある。頭とキモを胴から外したり、カラストンビや目玉を外すと、まるで組み立て部品を外すように奇麗にとれるのが面白い。子供時代、目覚まし時計やラジオを分解して怒られた、あのときの興奮。

で、解体したイカを内蔵ごとブツ切りにして、白ワイン少々、塩胡椒に丸のトウガラシとつぶしたニンニクひとかけ加えてまぜて(塩辛を作る要領)、しばらく置き、フライパンにオリーブオイルを熱して、先にニンニクをとり出してちょっと炒め、それから、漬けたイカを全部ドバッとぶち込んで、バタひとかけ放り込み、イカを硬くしないよう一気に仕上げる。食べてみると、三回目にしてウム完成、と思える仕上がり。やはりコツは、イカの内臓のベトベト、ドロドロした部分をそのまま加えることであった。これが絶妙なソースとなり、うまいうまいとパンになすって全て腹中に収める。

イカの内臓を食いながら、人間の内臓が出てくる山本薩夫版『白い巨塔』をDVDで見る。本当に開腹するシーンを見せるタイトルバックは公開当時(1966)はかなり衝撃的なものではなかったか。当時32歳の田宮次郎の、小川真由美との情事のシーンで見せる筋張ってはいるが逞しい肉体は、それだけで財前五郎という、常に世の中と戦い続けてきた男のキャラクターを表現していた。情事の前に小川が、ベッド脇の扇風機のスイッチを入れるのも当時の風俗として記憶しておくべき(私のような商売のものは)。それにしても、以前見て印象に残っていたシーンの情景や台詞が、だいぶ記憶とは違っていることも発見。それにしても、山崎豊子作品の主人公のネーミングのユニークさは以前も日記に書いたが、この作品のプロデューサーの名字が主人公と同じ財前で、財前定生。これは自分がプロデュースするしかない、と思ったろう。

寝る前にもう一度ミクシィ見たら、横山ノック氏死去の報。ナンセンス・トリオの“♪親亀の背中に……”と並んで、漫画トリオの“パンパかパーン、今週のハイライト”を真似しなかった私の世代の男の子は一人もおるまい。まさに一時代を築いたお笑いスターだった。

その後、お仕事を一回だけだがご一緒したことがある(こういう方が最近、よく亡くなる)。京本政樹監督・主演のVシネマ『髑髏戦士スカルソルジャー』という作品に潮健児のマネージャーとして参加したという話は以前、日記に書いた。
http://www.tobunken.com/diary/diary20020725000000.html
その作品に、龍虎さん、黒部進さん、ダンプ松本さんなどと一緒に、横山ノック氏も、主人公たちが住むボロビルの大家という役で特別出演していた。92年、参議院選挙で落選して、野にいた時だった。(他にこの作品には森田健作氏も出ている。後に国会議員になる人、以前国会議員だった人が出ていたわけだ。無駄に豪華である)。

ワンシーンのみの出演だったが、待ち時間が長く、楽屋で無駄話をしばらくした。マンガトリオの頃から見てました、と言うと、
「あの頃はえらい人気でした」
と笑っていったが、その後に続けて
「ボクくらい長くやってると、人気なんてもんは屁みたいなもんでとらえどこがないっちゅうことがよくわかります。人気におごる若いのが多い中で、京本クンちゅう人は実に腰が低くて感心や。人気の怖さをようわかってはるんだと思いますな」
と話してくれた。

それからすぐ、大阪府都知事選に出て、まさかの当選。そして2期目も235万票をとって当選しながら、セクハラ事件で訴えられ、辞任、有罪。人気の怖さを忘れてしまったのか、または知事になっても治らぬほどスケベ欲というのは強いのか。聞いたところでは、あの浅香光代さんの胸まで出合いがしら揉んだ、というから、恐れを知らないスケベだったわけだ。ハゲはスケベ、というイメージを定着させるのに一役かった人物だったかもしれない。

そう言えばノックさんのエピソードで好きな話。彼が楽屋で寝ころんでいたら、人気絶頂の若手漫才が、出番が終って急いでテレビ局へ、と、着替えもそこそこに、寝ているノックさんの上をまたいで出て行こうとした。さしものノックさんも起き上がって、
「先輩をまたいでいくやつがおるか!」
と怒鳴ると、その若手のマネージャーがまた大した度胸で、
「売れてる若手が通るとこに寝ころんでいるやつがおるか!」
と怒鳴りかえした。するとノック氏、しばらく考えて
「それもそやな」
と、また寝ころんでしまったという。“売れてナンボ”の大阪らしい話で、気に入っていた。とまれ、あのような晩節を汚した人の割には、ニュースでの他の芸能人のコメントが非常に温かいものだったのが、お笑いファンとしてはちょっと嬉しい。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa