裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

木曜日

アリスの風

♪木の枝の小猫さんこんにちは、キチガイの帽子屋さんこんにちは、芋虫弱虫こんにちは。

※書評原稿手直し、某代理店打ち合せ、『通販生活』打ち上げ

朝7時起床。久々に早起きが出来た、と思ったのだが……。入浴、メールチェック等。ちょっと頭がクラクラ。ゆうべの酒が残っているか、宿酲(ふつかよい)気味。9時朝食。ミカン(タンカン?)、イチゴ、豆のスープ。

このあいだから、まったく連絡がとれなくなってしまっている某社某氏の会社に連絡、昨日も会社の若手に電話して、確実に伝えてくれるよう念を押したのだが連絡なし。今日も、昨日の電話で
「明日、9時に出社」
と聞いたので9時15分に電話したら、
「もう出ました」
と。そんなわけあるか、と呆れる。

連絡事項いくつか済まし、雑原稿二、三片づけ。そうしたら、急に眠気がさしてきて、ベッドに横になって四十分ほど眠ってしまう。やはり最近、睡眠時間が長くなっている。

ベッドで、ウツラウツラしながらQ.サカマキ『俺たち銃を捨てられない』(新泉社)読んでいるうち目が醒める。アメリカ社会で生きる若者がガンに頼らざるを得ない状況をほぼ絶望的にドキュメントした本。これを読むと、日本人がその純情な平和論で単純にアメリカに向かって銃規制を叫ぶことが、いかに絵空事かわかる。マリッシャ(民間武装集団)こそ自由のシンボル、という思考そのものが、日本人には理解不能だろう。この本の発行は96年だが、01年の同時多発テロ以来、さらに彼の国の国民の自己防衛思想は強固なものになっていると思われる。

……それはそうと、この発行年月日確認のために奥付を改めてみたら、こういう記載があった。
「1996年7月15日・第一刷発行(初版2,500部)」
ガンもそうだが、こっち(執筆生活者の生活の確保)も何とか状況を改善しないとなあ。

ところで、ガンはフロイト的解釈では男性器の象徴である(『精神分析入門』の中で夢の象徴的表現として“陰茎と同じように体内に侵入して傷つけるという点で共通性をもつもの……メス、懐剣、槍、サーベルなど。小銃、短銃、連発式ピストル”と記述されている)、この語源は女性名であるらしい。偶然、別件でマイミクのROCKYさんに教わったミクシィのコラムにあった。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=411255908&owner_id=809109
ここによると、もともとは投石機の愛称として“レディー・グニルド(GUNILDA)”というのがあり、グニルドは北欧系の女性名。この略称として、今でも北欧やドイツではGUN(グン)という呼び方があり、それが投石機→大砲→火縄銃→ピストル、の呼び名として移っていったという。『バリバリ伝説』の主人公の巨摩郡は、ドイツや北欧では女の子と間違われる危険性があるのだな。それにしても、ここのコラムは凄い。ちょっとした論文なみの内容を持つものがゴロゴロしている。

昼は自家製焼肉弁当。卵焼きつき。母はもう『砂時計』1〜5を読了して、続きを読みたいと言っている。露骨な少女マンガ絵なので、読めないかも、と思ったのだが。

出勤、3時半。山手通りから十二社方面へ抜けるのに商店街を通っていくのだが、随分前に店を閉めたらしい廃屋のような店の看板をふとみたら、『鰹節 ××商店』とあった。鰹節専門店で商売が出来た時代というのは、いつまでなのだろう(今でも日本橋とかにはあるけれど)。

事務所、どどいつ文庫さん来。
「雨、降りませんでしたか」
と言う。中野の方も渋谷も、ひさびさの快晴なのにナニを言っておるのかこの人は、と思ったら、板橋の方は大雨だったそうだ。何か、この人の周辺にだけ異世界空間がとりまいているのではないか、と思ってしまう。

昨日書いた『佐藤勝 銀幕の交響楽』の書評、ちょっと手直し。と思ったがなかなかこの手直しが難物。限られた文字数で語りたいことをどう語るか、ナニを入れてナニを削るか、というのはまったく、パズルの世界。ここで二文字、あっちで五文字と削って、その文字数で
新たな内容を書き込む。

担当Kさんに送る。少し苦笑するメールが来ていた。浮世のしがらみ。……しがらみと言えばもうひとつ、心苦しい問題で某氏と打ち合せ。時間割の予定で出かけたら、休みだった(もうGW休業か。思えば一年前の5月28日の日記にも、トテカワと時間割で待ち合わせたら休みだった、という記述あり)。東武ホテルに場所移す。こういう話に適したスミッコの席をとってくれた。

いろんな力不足がからみあった、かなり頭の痛い問題だったのだが、某氏の裁量で、なんとかしてくれることに。これは素直にありがたし、と感謝。とりあえず、必要な手続きのみ確認する。

事務所にもう一度帰る。結果報告、オノがとりあえずバンザイ、と。
これで肩の荷がひとつ下りた。で、6時半、オノと事務所を出て市ケ谷へ。市ケ谷『中国飯店』で、通販生活抱き枕開発プロジェクト打ちあげ。車中でもうひとつ、頭の痛いところに電話。やはり通じず。明日、会社に直接出向くことにする。

『中国飯店』は、以前世界文化社で打ち合せしていた頃、よく行っていた店。ただし、夜は初めて。カタログハウスの部長さん、担当のMさん、ヤマセイのお二人。花彫の瓶入り紹興酒の封を木槌で割って乾杯。それから会食。北京ダック、フカヒレスープ、帆立の干し貝柱で生の貝柱を炒めたもの、など。まあ、普通一般においしい中華ではあるが、中に一品、食べたことのないものが。里芋を茹でて半ツブシにしたもの。つぶした芋で丸の芋を和えるという、いわゆる“のた芋”的な料理だが、そのつぶした芋の餡の味付けをネギ油でやっている。

紹興酒は加飯酒でさすがにうまし。女児紅(女の子が生れたら瓶に仕込んで土中に埋め、嫁に行くときに掘り出して結婚式にふるまう酒)ってのは何年ものくらいのことを指すのか、というような話。部長さんのお話では12〜14年くらい、ではないかと。
「昔の中国じゃそれくらいで嫁に行ったんだから」
と。実際は、そういう風習からして迷信に近いらしいが。
http://tinyurl.com/35h2hw

話題は、中国、台湾、イタリアなど、これまでそれぞれが行った国でのうまいもの(まずかったもの)話。仕事で中国にしょっちゅう行っているヤマセイの社長さんの言では、中国では杭州がオススメだとか。スッポンの姿蒸しというのが絶品らしい。

9時ころ、お開き。お腹はかなりパンパンだったが飲み足りなかったので、のんべの私とオノのみ、総武線で中野まで行き、そこのオノの行きつけのウイスキーバーへ。以前、私の母がここにオノに連れられて来た店。ギネスで喉をうるおし、モニターに流れている、アイルランドのリバーダンスのビデオ映像を見ながら、アイリッシュ・ウイスキーをいただく。リバーダンスを見たのは初めてだが、伝統音楽とタップを混合させた、一種独特のもの。野趣とモダンでは、やや野趣がかっているか。
http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Miyuki/7755/main.htm

マスターが、これを見て“隠し芸でタップとかやりたいと思って”と言っていたのに、オノが
「隠し芸、なんて久しぶりに聞いた言葉ですよ!」
と。いま、そう言えば団体旅行などというものがすたれて、“隠し芸”というのも死語になりつつあるわけか。昔は『絶対うける隠し芸』なんて本がいくつも出ていた。浪曲や落語、都々逸などのサワリ集みたいなものだが、こういうものも出来ない無芸な人のために、いろいろ工夫がこらされており、見立て、というのが一番バカバカしく、こういうものがまかり通っていた時代のノンキさを思う。障子をあけて、周囲を眺めて、また閉めるだけ、なんてので、これで“開けて、見て、閉め”、アケテミテシメ、つまり“明智光秀”の見立て、なのである。

トイレに川上史津子さんの出演する『青ひげ公の城』(寺山修司)のフライヤーがあった。西手新九郎だが、今日、このお芝居について川上さんと電話で話したばかり。
http://www.enjoytokyo.jp/OD004Detail.html?EVENT_ID=72369
出演者にマメ山田さんがいるのがうれしい。中野貴雄のビデオとか、松田龍平の『青い空』の花田先生役とかで強烈な印象の小人俳優さんである。オノにマメさんのことを説明する。酒、いろいろ種類を変えて三〜四杯、いった。自家製のレーズンバターが美味だった。

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