裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

21日

土曜日

あんこうパーティ

みんなでよってたかって肝だの皮だのがからんでるのをつついて、それは乱れたもので……。

※『社会派くん』号外原稿 観劇二本

明け方に目が覚めて、寝床で洋泉社新書『召使いたちの大英帝国』(小林章夫)読む。著者は1949年生まれ、私より9歳年長だが、ヴィクトリア朝の乳母の条件を並べたくだりで
「その胸はふくよかにして円形を保ち、垂れ下がっていないこと、乳首は硬くつんと上を向いているのが望ましい」
という説明の文章のあとに
「(筆者にとってもこれが望ましい)」
とあるのに笑う。真面目くさった顔でポツリとこういうことを言うのは英国風か。

朝、9時起床。朝食を30分遅らせてもらう。入浴、服薬。頭痛はだいぶ軽減、そのかわり麻黄附子細辛湯もあまり効かなくなって、慢性化したような。朝食、キウイ、リンゴ、パンプキンスープ。

それから自室に戻って、『社会派くん』号外。幸い、と言ってはなんだが相方の村崎さんも原稿遅らせているので、まだ気が楽。いろいろと話を外にふくらませられる話なのだが、極力それをせずに、せいぜいがアメリカの“防衛権”くらいにして、まとめる。1時半、完成。メールしてふう、と息をつく。

それから外出、恵比寿エコー劇場にてテアトル・エコー公演『エリック&ノーマン cash on delivery』観賞。熊倉一雄さんからのご招待。満席の盛況、前売り券も早々と完売というのはさすが。

作者のマイケル・クーニーはイギリスの現代喜劇作家。手厚いが複雑な英国社会保障制度を皮肉ったコメディで、失業したことを妻に悟られないため、あの手この手で社会保障手当を受け取って生活費にしている男・エリックが主人公。そのため、自分たち夫婦はあらゆる病気を患い、家の二階には失業した木樵一家(長男は難聴)が住んでいて、その木樵はラッサ熱で死亡して……というようなウソを積み重ねてきている。妻も、下宿人のノーマンも、自分たちがそんなことに利用されているとはツユ知らないが伯父のジョージだけは、支給されたマタニティドレスやカツラを転売する商売のためにグルになっている。そろそろそれらのウソが重荷になってきているが、妻にそれを告白できないでいるエリックのもとに、ある日社会保障事務所の調査員が現れて、エリックは何とかごまかそうとするが、ウソがウソを呼んで、どんどん状況は複雑になっていく……という話。

主役を演じる落合弘治と溝口敦のコンビは達者だし、エリックの妻役の南風佳子はヒステリー演技が実にうまいし、調査員役の瀬下和久はイギリス紳士的な風格があるし(それがどんどん崩れていく、というのがオチにつながるギャグのひとつになっているので、この役には風格が必須なのだ)、伯父役の山下啓介はなにしろヒス副総統だし、最初はまとめ役として登場して混乱を増幅することしかしない医師役の熊倉一雄さんは軽い役とはいえ実に楽しそうに円熟の芝居を楽しんでいるし、翻訳物の喜劇としてはちょっとないくらい面白い。ただ、イギリスの社会保障制度に対する知識がない日本人(もちろん私含め)には、単なるスラップスティックとしてしか楽しめないだろう(イギリスの観客はもっと政府の無能な政策に対する毒のキツいサタイアとして楽しんでいるのだろう)と思うとちょっとくやしい。広げるだけ広げた混乱を収拾するラストも、イギリスではそれが認められるのかも知れないが、日本人にとっては少しご都合主義すぎ、に思えるのが残念だった。

3時半、劇場を出る。昼飯を食い損ねていたので、どこかで軽く、と思うが通りに開いている店がほとんどない。やむを得ず、オリジン弁当を買って事務所で食べる。デミグラハンバーグ弁当、というのを頼んだが、いや、作るのの早いこと、見ていると冷蔵のハンバーグ(ソースごとビニール袋に入っている)を湯に入れて温め、付け合わせのミニグラタンの同じく冷凍(焦げ目つき)をレンジに入れ、キャベツとご飯と漬物を容器に盛り、あったまったハンバーグをビニール袋を破いてキャベツの上に置き、レンジからグラタンを出してこれも入れ、ご飯の上にゴマをふりかけ、と、流れるような動作で、2分もかからず完成させる。で、タクシーで事務所に行き、そこで食べてみると、こんなものでも案外うまく食えるのがくやしい。ま、こういうデリバリー食品も進化したんだろうが。

日記つけなどをそこで少しやって、6時15分、出て今度は大塚まで。大塚の萬スタジオでチームプロミス公演『SENGOKU〜それぞれの運命のために〜』観賞。芝居のハシゴは久しぶり。京都太秦で山田監督の作品に出演したとき共演した、大野由加里ちゃんが客演しているので観にいったのである。時間読み違えて、到着時にはもう始まっていたが、しかし冒頭のところだったので、ストーリィ把握とかには問題なし。

エコーの芝居とはいろいろな面で180度対照的な小劇場演劇。まず、役者・スタッフの平均年齢で30歳は若いのではあるまいか(最年長の熊倉さんと比べると60歳違うキャストがいる)。脚本も演技も比べ物にならないくらい粗削りだが、しかし、これも別の魅力をもった立派な演劇。きちんと楽しめたし、若さゆえのエネルギッシュさが存分に伝わってきて大変によかった。男優陣の顔が信長、秀吉、家康とそれぞれハマってユニークであったし、服部半蔵、斎藤道三(少し年長な役者さんたちが演じている)も好演。顔が“役者々々している”役者さんがいない劇団が最近増えている中、こういうところは頼もしい。ラストがちょっと、新感線を安くしたような感じだったのは、最近のこういう芝居の通例だが、何とかならないか。

女優さんたちは、舞台が初めてという人もいたようだし、衣装が全部赤で統一(男優は黒)されていたので、正直、誰が誰だか、ちょっととまどうところもあった。その中で由加里ちゃんはさすがというか、華があって、色気もあって、出てきただけでヒロイン、という雰囲気がただよい(他の女優さんのほとんどは宝塚的な男役なので、唯一女性性が強調される濃姫役は儲け役である)結構だった。

彼女、今度NHKの朝ドラに出演するとやら。同じく京都で一緒だった高嶋ひとみちゃんは二時間ドラマに出るし、みんながんばっているなあ、とちょっと嬉しい。今日は両方の舞台で、演出とか、ストーリィ進行に対するアイデアをいくつも得た。芝居というのはしかし、映画以上に観ていろんな勉強が出来るものだ。

終ったあと、客出しをしている由加里ちゃんに挨拶、新宿まで山手線、そこから地下鉄で帰宅。サントクで買い物し、メールチェックなどしつつ夜食作り。今朝の原稿にちょっと捕鯨のことを書いたら、西手新九郎でサントクが鯨祭りだったので、そこで買った皮の酢味噌和え、銀ダラの湯豆腐。ビール、日本酒熱燗、ホッピーというコース。DVDで『ジェダイの復讐(帰還)』のオーディオ・コメンタリー。ベン・バートしゃべりすぎ。キャリー・フィッシャーがおばさん声になっていたのにちょっと愕然とす。ふと気がついたらもう1時半。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa