裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

日曜日

浅見(れいな)、朝日奈(えり)、浅田(真央)が大好きで

♪そォれで身上つゥぶした、ア、もっともだァもっともだ。

※『L25』取材、幻冬舎打ち合せ。

朝8時45分起床。大急ぎで入浴、出た途端に朝食のベル。母の室で朝食。クラムチャウダーとリンゴ、キウイ。朝刊にジャン・ピエール・カッセル死去の報、74歳。もっと年かと思っていた。ハリウッド男優にはない、粋と品を兼ね備えていた役者さんだった。息子のバンサン・カッセルが個性派俳優というか怪優として売れているので、まあ後顧の憂いはなかったろうが、あの息子にはまだ、親父のような品のある演技は演じられないように思える。親父のジャン・ピエール・カッセルには、何をやっても上流社会の香りがするところがあった。『オリエント急行殺人事件』のように、車掌役でも。なにしろ、ヨーロッパを縦断する列車の車掌だけに、乗り合わせる乗客に合せて、英語、フランス語、ドイツ語、ポーランド語までを使い分けるインテリ車掌なのだ。

名作『まぼろしの市街戦』、快作『リオの男』を撮ったフィリップ・ド・ブロカの隠れた佳作『ピストン野郎』でカッセルは主役をはっている。金持ちの道楽息子が破産して、女のヒモで食いつなごうとするが……というピンク・コメディ(お相手はカトリーヌ・ドヌーブ)だったが、その“軽み”は観ていて驚くほどだった。軽過ぎて、ベルモンドほどの評判はとれなかったが、こういう“エエトコのぼんぼん”を演じられる俳優は貴重だ、と思った。

そのぼんぼん演技の最高傑作がリチャード・レスターの『三銃士』『四銃士』におけるルイ十三世。はっきり言ってバカ殿役であり、王妃(ジェラルディン・チャップリン)に浮気されていることも気がつかないぼんくらなのだが、それをカッセルは、与太郎ではなく若旦那で演じており、いかにもヨーロッパ的頽廃、という品を出していた。バカを演じて品を出せる役者は滅多にいない。『三銃士』の舞踏会シーンで、国を実質上牛耳っているリシュリュー枢機卿(チャールトン・ヘストン)に言われるまま、ダンスを踊りつつ、妻の胸に飾られたネックレスの宝石の数(浮気相手にやってしまっている)を数えようとするシーンは、爆笑ものとはいえ、演じたらかなり難しい場面である(ダンスはきちんと踊りつつ、ボケ演技をしないといけないのである)。

『料理長殿ご用心!』では、ゲスト扱いで、最初に殺される名シェフ。殺されるかわりとして『オリエント……』では乗客だったジャクリーヌ・ビセットとの情事シーンがあった。『ピストン野郎』の頃の役柄にもどった感じか。お互い裸にエプロンという姿で、いちゃつきあいながら手づかみで互いの口に料理を押し込むという、食欲と性欲を合一させた傑作シーンで、たぶん伊丹十三の『タンポポ』の、役所広司と黒田福美の情事はこれをモデルにしたんだと思うが、エロチックでありながら気品があるこちらに遠く及ばなかった。それもこれも、カッセルの持っている“上品な色気”の持つ力だったのである。こういう役者は、もうヨーロッパにも、そんなにいなくなってしまった。黙祷。

ネットでは他に、能登行きでよく利用していたサンダーバード内で昨年8月起きていた暴行事件の記事。36歳の解体工が、当時21歳の女性の隣の席に座って、
「逃げると殺す」
「ストーカーして一生付きまとってやる」
などと脅し、繰り返し女性の下半身を触るなどしたという。さらに、京都駅出発後の午後10時半ごろから約30分間にわたり、車内のトイレに連れ込み、暴行したとか。女性は車両前方のトイレに連れて行かれる途中、声を上げられず泣いていたが、付近の乗客は植園容疑者に
「何をジロジロ見ているんだ」
などと怒鳴られ、車掌に通報もできなかったという。

車掌に通報くらい出来るだろうと思うところだが、車掌にしらばっくれられてしまったら、今度は
「誰が知らせた」
と、暴力の矛先がこっちに向かってくる危険性がある。特急列車というのは走る密室であって、逃げられないのだ。私はズルいから、逆に何とか知らせる方法を考えるだろうが、普通の人間は暴力的な言動を目にするだけで、自分に対しそれがふるわれたら、という“想像力”による恐怖で、何も出来なくなってしまう。想像力というのはある場合にはやっかいなものだ。

人間を支配するのは思想や言動ではなく、基本は暴力である。小規模な集団の内部なら、ただ、殴るという一事だけで、人は人を支配できる。いや、声高に人を怒鳴りつけるだけで、人は人を萎縮させられる。私の知人の中にも、その方法で、ある暴力的な団体に
「一生奉仕する」
ことを約束させられた脆弱な文化人がいる(まあ、彼の場合自業自得な部分もあるので、あまり同情しない)。

暴力はいけない。それは当然の真理であるが、しかしそれで誰もが暴力を捨て、暴力を嫌い、人に手をあげられない人間ばかりになった時代は、暴力を平気でふるえる人間にとって天国である。アメリカ社会に対し、いかに銃規制を叫んだところで、北朝鮮にいかに原爆の破棄を訴えたところで、この“囚人のジレンマ”がある限り、実現は難しいだろう。この歳になって、人間社会とは、理想からは全くかけ離れた野蛮な時代から、本質は全く進歩していない、ということをやっと完全に理解できたような気がする。その中で自分はどうするか? が次の問題である。幸いにも、これまで、暴力に屈服した経験はないのだが。

昼は母の室で鴨南蛮。出汁が辛くて辛くて、そこが江戸前で大いに結構。食って、自室で読書。幻冬舎トテカワから電話、今日、ゲラをお渡ししたいとのこと。GW進行で、みんな日曜も何も無し。

3時半、家を出て渋谷へ。天気がいいせいか、人がやたら出ている。東武ホテルで、“L25”インタビュー。R25は知っていたが、女性向け姉妹誌があったとは。“運命の赤い糸”雑学を。ライターさんがもう、私の娘くらいの年齢。

30分ほど話して事務所に戻り、原稿整理。ネットでメール整理していたら、ひさびさにこのテのスパムが来ていた。
※※※
パプアニューギニア人の主人の事で相談があります。

送信日時:Sun 04/22/2007 02:53:33 JST
宛先:×××××@×××××.com
Reply-to:pachi_pachi_qr@yahoo.co.jp

突然のメールごめんなさい。
浩子といいます。33歳既婚、主人の仕事の手伝いをしています。
主人の件で、相談があるんです。
主人はパプアニューギニア人で、日本で料亭を営んでいます。
そこまではいいのですが、問題が一つあって。。
料亭をオープンするぐらい日本好きの主人なんですが、
ただ一つ、和服にだけは馴染めないみたいで。
日本料亭でありながらも、出身国のままの格好で応対してるんです。

つまり、ほぼ全裸にシンボルケースのみの格好なんです。

主人が料理を運んだりするために部屋に入った途端、
お客様は悲鳴を上げパニック状態になるんです。
やはり…股間に白い牙を装着した褐色の肌の異国人が
そういう場にいきなり登場したら驚くものでしょうか。

*ttp://scrambleeggs.web.fc2.com/
ここにその動画をアップしておきました。
主人が登場した途端に料亭内がパニックになっている動画です。
動画を見て、こんな状況下で料亭を続けても大丈夫かどうか
第三者の意見を聞かせてください。

※※
シチュエーションコメディの脚本を書けばいいのに。

やがてトテカワから電話あるので、お茶買ってきてと頼んで、事務所で打ち合せ。ゲラ受け取り、いろいろと話す。タイトルの件も。幻冬舎新書の新刊、いろいろといただく。パラパラとそれらのページをめくって、ある一冊を
「これ、いいなあ。売れているでしょう」
と言ったら、まさに、だった。最近の新書戦争ではダントツのトップを行っている幻冬舎新書だが、その中でもダントツに売れているのが私の指摘した長嶺超貴『裁判官の爆笑お言葉集』だそうな。パラパラでわかる。

むろん、ただのパラパラだから、内容などを詳しく読めたわけではない。なのに、これが一番売れる、と断言できたのはそのデザインである。見開きの片面に、大きな活字で裁判官の言葉があり、そのページの左下に小さくデータが記載されている。見開きの右側ページはそれだけ。一行の言葉だけでも、他のものは一切載せず、大きな余白をとってある。それに対して、右側のページで解説を加えているのだが、これは次のページに持ち越すことなく、ほぼ600文字くらいでまとめてある。

はっきり言えばスカスカなのだが、それだけに、
「これなら頭を使わずに読めそうだ」
「これだけコンパクトにまとめてあると、トリビア的な知識として使えそうな話題が多そうだ」
と、手にとる忙しいサラリーマンたちに思わせる力を持っている。なにより、パラパラ読みでも、お言葉が余白たっぷりのところに大きな活字で組まれているから、目に入りやすい。そこで、書かれている
「変態を通り越して、ど変態だ」
「だだっこ。それも個性だけど、そういう感情が優先してしまうところを、直せと言わないが、気づいてほしいね」
「犬のうんこですら肥料になるのに」
などという一節が目に飛び込んできたら、もう買わざるを得ない。

「……これは内容というより、編集の勝利でしょうね。こんなデザイン、なかなか怖くてできませんよ」
と言ったら、やはり、この編集は編集長のSくんが見込んで他の新書からヘッドハンティングした編集者(女性)が作ったものだという。著者は若くて、文章がともすれば過激になるところを押さえて直させ、また、解説に力が入って長くなったものも、全て規定文字数内に収め直させたという。

……内容の濃い本、充実した本は誰にでも書ける。と、言うと語弊があるが、人間には誰しも向上心があるから、伯楽の手引き次第で、力作、問題作を書くことはさほど難しくない。難しいのは、いくらでも濃い内容に出来る本を、情報量を抑制し薄いものにすることだ。必要なのは向上心でなく、下降心なのである。著者には良心というものがあって、この要求にはなかなか諾えない。しかし、現代では、こういう風に本を作らないと多くの人には読んでもらえないのである。ミリオンのYくんも、実話ナックルズのコンビニコミックを編集しながら、内容をウスくするのに本当に苦労したそうだ。これからは、ウスい本を書ける人間が生き残れるのではないか。濃い本は一年か二年に一冊、書けばそれでいい。

そうトテカワに話しながら、シマッタ、今度の自分の本は(ウスくしよう、ウスくしようと勤めながら)まだ濃かった! と大反省。彼女に
「頼む、この本の売れ行きは期待しないでくれ。次は絶対もっとウスいのを書く!」
と宣言。その場で
「例えばこんなのはどう?」
と企画を作る。ア、ソレハイイデスネ! ということになり、今月中に彼女にデータを送ることを約束。

もう少し時間が遅ければ食事を誘ったのだが、半チクな時間だったのであきらめ、また仕事。東京中低粋の田中肉和さんと幸永に行くかも、という予定もあったが、それも田中さんが昼の用事のあとで飲み屋につかまっているようなので次回回し。今日、母の家にパイデザがくるらしいので、そっちに合流することにする。

パイデザ夫妻、社員のSくんを連れてきていた。能登土産の酒をあけ、新タケノコの味噌煮込み、レバーペーストとイクラ載せのトースト、ローストビーフのサラダ、頬肉のシチュー、パスタ。春タケノコの、ちょっとほろ苦いえぐみが大変に美味。人物月旦いろいろ。久々にパイデザと飲んだので、ちょっと躁状態になってしまって、しゃべるしゃべる。終いには自分で“いけねえ、止まらねえ”状態になった。部屋に帰ったのはまだ10時前だったと思うが、バッタリ倒れるようにベッドに入り込んで寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa