裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

18日

金曜日

むかしあびるは盗癖がすごくて

 箱ごと盗むし
 お店もつぶしたよ
 ランララララーラララ
 ランララララーラララ
 ランララララーラララ
 ラララララララ

 朝7時半まで寝坊。急いで入浴、朝食。クロワッサンとリンゴ数切れ。あびる優万引き告白事件に思わず失笑。本人、プロダクション、テレビ局、いずれもヤバいと思わなかったのか、という疑問がわくと思うが、最近テレビにちょこちょこ出るようになって、ここらへんのテレビ業界のノリというものを幾分かでも味わった人間にとっ ては、なんか非常によくわかるような気がする。

 たぶんディレクターは、人気バラドルの意外な過去ばなしを引き出せたことで、スタジオの受けというか盛り上がりに“ヤッタ!”と指を鳴らし、視聴率の数字がだだだと脳内に並び、その瞬間、モラルだとか、社会的常識だとかというものが全部抜け落ちてしまったのだろう。ある種の白痴化であるが、そういう思考の持ち主でなければあの過当競争の中を勝ち残っていけない。今回はそれが命取りになったわけだが。

 人は社会通念の大ワクの中で生きてはいない。狭い、自分の生存範疇の中の通念が第一の行動規範だ。職業的興奮は時に常識の規を越えるものだし、テレビというものは視聴率さえ取れれば人殺しだってしかねない。そういう人たちの作ったものにわれわれは四六時中、脳内をかき回されながら生きている。今更これしきのことで怒るのもな、というのが正直な気持ちだ。本気で彼女の行為に怒りを抱いている(それが父親の逮捕歴までをもさらされてしかるべき行為だと思っている)人間がどれだけいるか。暴走族あがりであることや、現在進行形の不倫行為を自慢げに述べている芸能人 は山ほどいるではないか。

 昨日の報になるが劇画家の松本正彦氏、死去。70歳。劇画の元祖の一人、というような紹介をしていたところもあったが、この人は劇画という呼称を辰巳ヨシヒロが唱えるのとほぼ同時期に、“駒画”という名称を提唱して争った人である。結局劇画の方が残ったのは、単純に語感の問題もあったろうが、辰巳ヨシヒロの人望で劇画工房の方に作家が集まり、劇画という名称でなくては商売にならなくなったため、大したこだわりもなく辰巳に泣きついて自分も劇画の方に移った、という話を本人が『パンダラブー』(ひばり書房、後にひよこ書房で復刻、さらに青林工藝舎で復刻)の巻末インタビューで語っている。劇画ブームが到来してからは売れに売れ、松本正彦を中心においた劇画ブーム分析などが当時の雑誌に載ったほどであったが、売れたのは彼の執筆がとにかく早く、数をこなせたからであろう。劇画ブーム初期の劇画家たちの作品は基本的に絵が雑であったが、中でも松本正彦の作品におけるその雑さは、今読むと衝撃を受けるほどで、決して手抜きではないにせよ、はっきり言えば落書き、としか思えない絵柄であった。それでも注文が耐えなかったのは、マンガ(劇画を含む)に対しての、当時の読者が求めるものが現在とは異なっていたためであろうし、また、松本作品の持つダークでアンニュイな作風が、小手先のテクニックを超えた魅力を持っていたためだろう(それを認めたさいとう・たかをが、一時彼に原作を依頼したりしている)。後に松本は、シュールな(現代の目から見て)ギャグ作品『パンダラブー』の復刻で一部のマニアに再評価を受けるが、ギャグ作品に限らず、この当時の劇画作品も、今の読者にはおよそ想像もつかないショックを与えるのではあるま いか。誰か再刊しないだろうか……。

 あと、新潟で17歳の少女を牛刀で刺した36歳サイコ女の記事も笑った。“少女を裂くに牛刀を用いる”。新宿まで地下鉄、ちょっと買い物して11時出勤。原稿、まずモノマガジン5枚半。メモ元に書き出すが、メモですでに規定文字数オーバーす るほど。書き上げて、昼食。オニギリ、黒豆納豆、根深汁。

 それから週刊現代マンガ評原稿、2枚。最初3/4まで書き上げたものがどうもインパクト不足に思え、も少しキャッチを考えたものに全面的に書き直し、メール。モノマガS谷くんから電話、すぐ図版用ブツをバイク便で取りに来てもらう。

 快楽亭から電話。ビデオのオムニバスの一編で、急遽15分の怪談をやらなきゃならなくなった由。15分で何をやるのかと思ったら、なんと『四谷怪談』。
「ロッパの『47分忠臣蔵』の上を行きますね」
 と感想を述べる。こんなマニアックな会話が通じるのは快楽亭と、くらいだろう。キャスティングもまた絶妙で、快楽亭の伊右衛門に林由美香のお岩、宅悦がミスターブッタマン。……もっと笑えるのは、“落語家の立川左談次”の役で歌舞伎の市川左 團次。

 気圧低めでドロドロと。これは雨になるな、と予感。気圧の乱れで体調ははなはだしく落ちるが、偏頭痛とか、そういうものがないだけ有難い。ミクシィで大勢の人たちに励ましてもらう。メールでもおぐりゆかはじめ大勢の人たちからエールが。

 続いて社会派くんがゆく、7分目まで書き上げ。週刊現代で時間つかった分だけスケジュールがずれ、予定内で完成させられず。残念。タクシーで神保町。談之助さんと待ち合わせ、某所で某イベントにつき打ち合わせ。申し込みの記載にポカがあった りして、あせる。付け合わせして本当によかった。

 そこから新宿。都営新宿線が非常ブレーキ誤作動とかで止まっており、半蔵門線で永田町乗り換えで。ビックカメラで談之助さんの買い物につきあう。売り場のテレビで『ウッチャンナンチャン史上最強地下鉄バトル』をやっていた。佐藤藍子はベギラマに似てるな、と思う。顔かたちもさることながら、表情の出し方が。

 新中野まで丸の内線、そこでユキさん、某国営放送Yくん拾って家へ。道々、某番組関係の裏情報など聞き、笑う。家に着いてテレビつけたら、ちょうど私の出番の最後のとこ。ゴールデンの番組とは思えない安直な作りだが、犯罪性がないだけマシ、か。食事会、しら〜さん、談之助さん夫妻、電脳丸三郎太さん、Yくん。現在Yくんは番組制作の相談を某A新聞社勤めのUさんにしているそうで、こんなところで呉越 同舟。

 料理はギョウザサモサ、タコのカルパッチョ、海老マヨ、酢豚など。タコが妙に風味あってうまい。生ダコより茹でたものの方が風味があるように思う。あと、某所から到来のご禁制の品。テレビで言うといけないようなもの、か。酒に合う。ビール、日本酒、ホッピーなど。気圧のせいでやはり変な酔い方。体力も消耗しつくし、11時過ぎに気絶するように寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa