裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

12日

土曜日

七転八倒七回目の後悔

 元ネタ↓がちとマニアっぽかったかな。
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 七曜に関係ない生活のはずなのに連休だとダレる。7時起床、入浴、朝食。これは変わらず。11半くらいまでミクシィなどやって、家を出、地下鉄、新宿で都営線に 乗り換えて神保町。古書会館へ。

 今朝、中野貴雄監督がミク日記で、フィギュア買いをガマンして借金を完済した、 と書いてあったので、
「私も住宅ローン返済まで古書展自粛中」
 とコメントつけたら、これがよくなかった。急に久しぶりに行きたくなってたまら なくなり、
「あまり買わないで、ちょっとのぞくだけ」
 と、誘惑に簡単に負けた。いつも古書展に行くときには旅行のときなどにも用いる大きなカバンを肩に背負うのだが、
「いやいや、今日は買わないのだから」
 と、わざわざ小さいのを持って。古書展会場、一歩足を踏み入れると、ああ、古書オタクたちの濃い懐かしい世界。

 改装前の古書会館では古書展は二階のベランダ付きの、日当たりのいい催事スペー スで開かれていたが、
「陽がさすと本が傷む」
 という声があがり、改装後は薄暗い地下に会場が移された。こうして古書マニアはますます世間から隔離される。ロリコンと違ってあまり犯罪をおかさないからまあ、 社会からほっておかれているだけで、あまり人畜に有益な人種ではない。

「今日は見るだけ、眺めるだけ」
 とオマジナイのようにつぶやきながら会場を回る。それなのにいつの間にか南條範夫著作コーナーなどで数冊、手に本が。
「いや、これは帰りに地下鉄の中で読むものがないからだ、うん」
 などと言い聞かせつつ。

 なんとか9分通り場内を回り、これならほとんど買わずに済みそうだ、と思ったところで、最後の棚が、私の現在の探求分野である昭和期性文献、犯罪文献がずらりと揃った棚。梅原北明の本とかが並んでいる。トラップかこれは。理性もなにもふっとんでガツガツ、という感じで手にとり、内容と状態を確かめ、手元に積み、というこ とを繰り返す。周囲の物音も聞こえない。

 ふと我に返ると、目の前に本の山が。
 これはナンだ。
 ボクはなにをしたんだ。
 よくドラマで、ふとベッドで目を覚ますと脇に見知らぬ美女が裸で微笑んでいて、何も記憶がないというシチュエーションがあって、見るたび
「そんなことあるわけねえじゃねえか」
 と笑っていたが、ありますね、アレ。でもまあ、レジへ持っていく前でよかった。あわてて財布の中身と改めて相談し、泣く泣く半分以上を棚に戻す。それでもウン万はいった。いや、ウン万で済んだ、という方が古書めぐりにおいては正しいか。

 自分で笑ってしまうのは、それだけ買って、当然小さいカバンには入りきれないの だが、ヤマトの真田さんなみに
「こんなこともあるかと思って」
 ちゃんと、出がけに紙袋を折り畳んで、カバンの中に忍ばせておいたことである。さっきのパターンで言えば、美女と寝たことは記憶になくとも、ちゃんとポケットの中にゴム製品を忍ばせておいたというようなものである。紳士のたしなみ。違うか。

 せっかく古書展絶ちを破ったのだからと、ダイエットも今日はお休みにして、いもやで天丼を食う。
「ご飯少なめ」
 と注文するのがせめてもの良心。以前はこの店は男性オンリーだったが、最近は若い女性や夫婦連れの姿も目立つようになってきた。しかし、女性客の食べ方を見るとイラだつ。おちょぼ口で上品に食べるな! 丼モンなんてのはわっさわっさとかき込むようにして、食後のお茶すするのまで含めて十分以内で食い終わってサッと出る、 のが正しい作法なのだ。

 出て地下鉄で帰宅。電話数本。ガスエポック、カンさん、FRIDAY、鶴岡。少し疲れてウトウト。それから仕事。7時半、予約してあったタントンマッサージ。
「こないだカラサワさんTVで見ました」
 と言われる。『サンクチュアリ』の再放送のこと。そう言えばいま、揉まれている最中にも『世界一受けたい授業』やっているのだった。

 帰宅、中田(伯母)から電話があったという。テレビに私が出ているのを見てご満悦であったらしい。うーむ。私個人としては虚名を売っているという羞恥が先に立つのだが。しかし、これも次第に麻痺して、そのうちお声がかからないことにイラ立つ ようになるのだろう。これもローンのため、生活のため、古書代のため。

 家メシ、長芋のポン酢和えと生ハム、椎茸の炒めもの。それと鶏手羽煮込み。酒の肴でしばらく楽しみ、それから飯の上にぶっかけて。テレビで『土ワイ』、渡瀬恒彦主演の刑事もの。途中から見てもナンの支障もなくストーリィが把握できる。テレビ とはこういうものだろう。

 この手のドラマを、ミステリとしてどうこう、ドラマとしてどうこうと批評するマニアぶりっこがいるが、あれはテレビというもののニーズをわかっていない半可通である。よくそういう連中はエクスキューズとして『刑事コロンボ』などを持ち出すがそもそも彼我のテレビ文化、いや、文化の中でのテレビドラマ受容の差というものを 理解せずに日本のテレビドラマをクサしても仕方ない。

 そう言えば筒井康隆のファンで『富豪刑事』を見て、“筒井康隆はなんであんな自分の作品を無惨に改悪されたドラマに嬉々として出ているのか”と嘆いていたサイトがあった。ファンのくせに筒井って人をわかっていないな、と思った。本が売れなくなった作家(これは最近の筒井氏の自称)にとって、自作がアイドル女優主演でドラ マ化されるくらい嬉しいことはないに決まっているではないか。

 いい作品が書きたいなどというモチベーションがあるうちは作家は青い。きちんとしたプロ意識を持っている作家にとって、モチベーションが“売れたり映像化されたりして金が稼げる作品が書きたい”であるのが、最も健全なのである。なぜならば、そうやって書かれた作品が、一番、出版社や書店などをうるおすからである。売れない作品を書くことは、周囲の、自分の本を出そう、売ろうとしている人々に迷惑をか けるのである。

 もちろん、この渡瀬恒彦のも、推理ドラマとしては平凡。でもテレビだし、途中から見ているわけだから文句も言えない。そこそこ楽しめる。それこそ、無理な展開に
「そんなことあるわけねえじゃねえか」
 と笑いながら。
 それでよし。
 笹野高史、売れているなあ、とか、古手川祐子、老けたなあ、とか、無責任にそんなことを思いつつ、雑談しつつ見られるのがいいテレビドラマ。

 自室に戻る。K子は今日も半徹。水割り缶飲みつつDVD類ザッピング。結局『キング・コング』(旧版)になる。もう50回以上見ている作品だが、最近は特撮部分より、冒頭の、フェイ・レイを強引にスカウトするカール・デナム(ロバート・アームストロング生涯の名演)のキャラに感情移入してしまい、その押しの演技にゲラゲ ラ笑いながら観る。世界一面白い映画なんじゃないか。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa