裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

木曜日

♪ソーレソレソレ首つりだ〜

 死刑駄洒落シリーズ2『首つりマンボ』。ゆうべはTBSさんとのやりとりとかで2時まで寝られず。ベッドに入るが、
「何時間寝られるか」
という強迫観念で30分おきくらいに目を覚まし、
「あ、まだ寝られる」
 と確認してまた寝るという繰り返しでへとへとになる。

 7時入浴。心配していた寒波それほどでなし。また、やりとりの内で朝10時からの撮影が11時半からとなり少し気が楽。朝食8時、バナナと生パイナップル。9時半、タクシーで仕事場。連絡類、電話等すまして11時外出、神保町交差点。最初の撮影がおしているので少しドトールで待ち。昨日の深夜にあがった最終シナリオで、神保町駅で私は難しそうな古書を読んでいる、ということになったので、その本(薬 学史の本)などを見せながらADの女の子と話す。
「私、全然本とか読まないんですよ〜」
 とその子、恥もせず言って笑う。そうだろうな、今は読書などをせっせとする人間の方が異常な趣味の持ち主とされる。

 しばらくしてやってきたディレクターと、軽く今日訪れる予定のルートをたどり、ざっとダンドリをリハ。文省堂で新青年1000万円を見、あらたま書店で写真集を見、そしてクイズというダンドリ。文省堂の店長さんが私の大ファンだそうで、サインを求められた。こういう取材はたいてい見せに迷惑かけることになるので、このように喜んでくれると(喜ぶのを通り越してアガっていたけど)有り難い。この後、回答者のナンチャン、西郷輝彦、佐藤藍子、勝俣州和、笑福亭笑瓶らが来てまた打ち合わせかと思ったら、彼らはそのままぶっつけで本番に入るという。私もそのまま解説などアドリブで入れてくれと、特に説明もせずそれが当然でしょとスタッフたちも平 然。テレビの世界というのは凄いもんだと呆れる。

 考えて練り込んだギャグや演出が排除される世界であることに憤慨するか、或いはこの“同時性”あるが故に視聴者がそこでカメラに映るものを“現実”とみなして受け入れるのだな、と納得するか。最近、若手のお笑いたちが舞台でハズしたギャグを言って平気だったり、またどう考えてもグダグダのライブをやって得々としているのは(また、客も案外それで喜んでいるのは)テレビのこの同時性の再現なのかもしれぬ、とちょっと思ったり。思えば舞台というのは別にそれをわざわざ演出せずとも同時性のものなのだが、それを演じ手も受け手も、テレビ的同時性の模倣でないと感じ られなくなっているのかもしれない。

 とにもかくにも私も、そういうぶっつけのノリに合わせられる能力の持ち主、と認識されてお仕事を回してもらっているわけである(今回の特番、ゲスト出題者はなぎら健壱、阿藤快、叶姉妹、ボブ・サップなどで、素人は私一人である)。待つこと一時間、やっと神保町の階段をみんながぞろぞろ上がってくるのを出迎える。開口一番ナンチャンから“先生、神保町はなんで神保町と言うんですか”と台本にない質問をカマしてくる。とりあえず
「この名は元禄時代にこのあたりに屋敷を持っていた旗本、神保長治の名にちなむも ので……」
 と答えて、なんとかクリア。賞賛を得る。

 神保町のトリビアを解説しながら街を歩き、バスガイド的な案内役を務める。コースは極めて俗なものだが、それだけに気が楽。アイデアは安っぽい番組だが、さすがTBS、そこかしこにネタが仕込んであって、盛り上がる。ことにあらたまで、写真集や古い雑誌などの、定価と今の値段を比較するクイズなど、単純ではあるがウケが とれてよろしい。

 最後は小宮山書店地下の伯剌西爾の奥の個室でで雑学ポイントクイズやっておしまい。サクサク進んで、スタッフから“時間ぴったりでした!”と褒められる。まあ、進行に関しては巧い男だと思う。終わって通りに出る。これだけのメンバーが揃っているわけである。撮影していると街路はすぐ人だかり(黒山の、とまではいかぬが)になる。しかし、撮影中にサインを求められたのは笑瓶さんが一回、佐藤藍子が一回(これは私が鶴岡に頼まれたので)、私が通行のファン、文省堂、それから伯剌西爾のマスターと、合わせて三回。極端な地域限定人気ではあるが、そこは神保町、私の バリューが他のタレントさんより大きいのである。

 今回、楽しみだったのは佐藤藍子に会えることだったが、間近で見てやはり美女だわい、と関心した。とはいえ、正統派美女ではない。凄く細くて顔が小いちゃくて、でも目や口は常人の倍くらい大きくて鼻は高くて、なんか宇宙人みたいだった。内蔵は弱そうだな、と思っていたがやはり首筋の皮膚のあたりがちょっと荒れていた。目はデカすぎ。白目部分に血管が浮いてちょっと気味悪い。と、いうか、これくらい特徴のある顔の子でなければ、美人なんて履いて捨てるほどいるテレビ業界では残って いけないのだろう。

 もちろん、顔だけがいいのではない。すさまじく頭のいい子であることはすぐ、わかった。自分の顔や声がどうテレビに映るかを全部心得ている。そりゃもうベテランの域だし、当然だが、しかし凄いのは、すでにアイドルとしちゃ(まだ写真集は出ていても)トウがたっていて、エッチばなしにもついていかなきゃいけないし、国民的美少女グランプリのころの写真ネタでみんなにイジられたときにも、ちゃんと対応しなきゃいけないという、
「時間軸による自分の価値の推移と現在位置」
 をきちんと心得ているところ。こういうのをして“セルフ・プロデュース”が出来ているというのだなあ、としみじみ思った。雑学クイズで男の子のおちんちんという答えを言わせようとして(私が、じゃない。テレビ局の指示である!)みんなが“言え言え!”とはやすと
「……ティンティン?」
 と可愛く答えて突っ伏していた。いつまでもお高く止まらせない事務所も偉い。

 中山美穂の大ファンで写真集もブロマイドも持ってるし部屋にポスターも貼っている、というのが意外。どういう意味があるのだろう? 誰かが“じゃ、辻仁成なんかどう思うの”と訊いたら、
「もうちょっとマシなのと結婚しろよー」
 といきどおったようにおっしゃる。全ミポリンファンの心の声の代弁を、まさか佐藤藍子ちゃんがやってくれるとは誰も思わなかったろう。

 私個人としてはしかし、佐藤藍子より西郷輝彦を間近で見られた方に胸がときめいた。なにしろ私の中では“歴史”だから。昔の『明星』の西郷輝彦特集号をあらたま 書店で呈示したのだが
「へえ、こんなのあったのかあ」
 と、ポケットマネーで購入していた。

 タクシーチケット貰ったのでタクシーで帰る。せっかくだからもっとぶらついて買い物でもと思ったが原稿がある。帰宅、雑文原稿いくつか。メール、電話いろいろ。はげまされたりはげましたり。友人はありがたいものかな。『社会派くんがゆく!』最新対談にチェック入れ。毎回これ原稿用紙で30枚以上になる。思えば凄い。

 そこらで寝不足たたって、仕事場の床に毛布かぶって少し横になる。6時半、東武ホテルで待ち合わせ、時間割。と学会の皆神龍太郎さん、ではなく今回は彼の本業で来ているので、某大手のKさん。Kさんの作った本の中に入れる月報(?)用のインタビュー。インタビューとはいえ、私とKさんはもう十数年来と学会で顔を合わせている間柄であり、かつ同い年、意見とか発想とかがだいたい同じなので、楽しく雑談していればそれが即、そのままインタビュー原稿になるという感じ。少しはいつものマニアばなしより“まともな(つまらん)ことを言っているカラサワシュンイチ”であっただけ。これでギャラがいただけるというのは少し申し訳ない感さえあり。名古 屋のファンから貰った“おっぱいプリン”なる冗談商品を、
「これは皆神さん向きでしょう」
 とわけのわからん理由で(以前桐生祐狩さんの『物魂』で、それが原因で私や皆神さんや植木さんが殺されることになった事件のモデルとなった一件以来、そのイメー ジ)進呈。

 7時半、そこを出て『華暦』へ、K子が“遅い!”と怒りつつ待っている。とはいえ、今日はKさんが取材費で持ってくれるのですぐ機嫌が直る。花まるマーケットのサイン入りエプロンのこと、家計を奥さんが握るとはどういうことかということから始まっていろいろ話題は森羅万象へと。皆神さんと話すとそのうんちくというか含蓄というか、全部メモとっておきたい気になるのだが、しかしそういう濃い話をただアルコールの酔いにまかせて聞き流すというのが当時最高の贅沢というものであろう。お仕事になってストレスが発散できて、おまけにオゴってもらって、実にいい気分の 一夜であった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa