裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

9日

水曜日

生放送は大けがのもと

 まあ、うっかり放送禁止語いっちゃってもどうしようもできないもんねえ。朝6時 起床。入浴、ネットチェック。
http://www5f.biglobe.ne.jp/~dannosuke/
↑ここにある(ちょっと見つけにくいが)ユキさん(談之助さんの奥さん)の日記で大笑い。一応文章で飯を食っている身として、他人の文章をあまり褒めることはしないのだが、ときどきこういう天与の感覚で文章を書いている人が世の中にはいて、読 むたびにかなわんなあ、と思う。弟(なをき)が、よく
「絵の巧い同業者は何にも怖くない。怖いのは“落書き”の巧い同業者だ」
 と言っていたが、まさにユキさんは文章の落書きの天才なのである。

 朝食8時、朝のニュースショーはすっかりサッカー一色。なにしろ相手が北朝鮮ということで、普段なら興味しめさないような層までが興奮しているようだ。最高の政治ショーである。この盛り上がりの中ではいかな強硬派の安倍といい拉致被害者家族といい、経済制裁を、とはなかなか言い出せないだろう。日本の意識を分断したこと で総書記閣下はほくそ笑んでいるのではないか?

 唯一それに対抗しているのがライブドアのニッポン放送筆頭株主昇格であるが、さて、このあいだの球団経営参入騒動のときと堀江社長の顔が全然違ってみえるのが興味深い。要するに、このあいだまでは夢を実現したいと目を輝かせていた青年実業家の顔だったが、今回の顔はギラギラとした野望を押し隠している乗っ取り屋の顔である。テレビメディアを甘くみてはいけない。彼が羊の皮をかぶった狼であるということを、テレビの画面はちゃんと伝えてしまっている。まあ、ネット事業との提携がどうとかいう彼の説明が全く具体的でなく、単に表向きの言い訳にしか聞こえない、ということもあるのだろうが。

 9時半出勤。コンビニに行ったらアキちゃんが
「実は今週いっぱいで店をやめます」
 とのこと。
「貰った年賀状にあったメアドにメールしますから、メル友になってくださいね」
 と。もう25年若かったらこのシチュエーションはどんな素人の屑屋に見せてもタダじゃすまない。モーリス・シュバリエじゃないが
「もう若くなくて幸せだ」
 というやつか。呵々。

 地下鉄で出勤。新宿で買い物、そこからタクシー。タクシーの運ちゃん、こっち向 いて愛想笑いして、
「あ、カラサワ先生、ご苦労様です」
 と言う。この先生は編集者さんたちがこっちに言う“先生”ではなく、教師の意味での先生。つまり、この運転手さん『世界一受けたい授業』のファンなのであった。モノカキ業界では顔が(なにしろアノ似顔絵があるので)売れている方とはいえ、ここまで一般に生顔を知られると、もう滅多なことは出来ないなあ、と思う。

 電話数本。メールいくつか。雑用を雑々とこなしているうちに待ち合わせの時間ギリギリになり、あわててオニギリ、黒豆納豆、しじみ汁で昼食をとり、急いで出ようとした、まさにそのところで電話。1時間遅れるとの、打ち合わせ相手からのもの。出てからでなくてよかった。またパソコン前に戻って今日のコミビア収録の準備をす る。

 1時間後、時間割。週刊プレイボーイMくん。3月からの新連載の打ち合わせ。基本はネタに対し私がウンチク傾け、なにごとかを語るといういつものパターンだが、それだけではいつも通りすぎて面白くない。第三者の目を入れたらどうか、と提案。カラサワの連載はいつも色気に欠ける、と評判(?)なので、アシスタントの女の子を入れよう、という申し出。基本的にMくんも賛成するが、しかし、女性ライターって人種は第三者になるというよりはこっち寄りでノッてしまいますからねえと、もっ ともなご意見。ふむ、と、ちょうどこの後がコミビアの収録なので思いついて
「じゃ、おぐりゆかでどうですか」
 と提案。
「はあ、どういう人ですか」
「いやなに、私の助手役でいつもツッコミ入れてくる女優です、オタク大賞とかで岡田斗司夫も絶賛していて……」
「あ、そういう方がいらっしゃるのなら」
 という感じで、めでたく彼女に仕事をとることが出来た。外部売り出しプロデューサーとしてなかなかの働きである。いや、実際、オタク大賞のときに彼女の一般人視点でのツッコミは絶対ヨソでも使えるし、使ってみたいと踏んでいたのである。

 スケジュールなど確認してちょうど1時間、打ち合わせ終えて出て、そのまま東武ホテルへ。本日出演をお願いしている三橋俊一、ティーチャ佐川の両氏、それとおそらく週刊プレイボーイに登場する女性中、もっとも色気のない女の子になるであろう (じゃ、なんのために入れたのかと思うと苦笑ものだが)おぐりゆか。

 マネージャー役の土田さんが原宿から向かって少し迷ったというのを待ち、仕事場で今回の台本の読み合わせ。三橋さんはおぐりの父親役、ティーチャ先生には私の父親役をやってもらおうという趣向。それはよかったが、もう一本、おぐりをヘビ女にしてしまうという回がある。ヘビのように舌を細くしてチロチロ、と出し入れしてもらうよう台本に書いたのだが、なんとおぐりが“舌を細くできない”ということが発覚。ベロベロ、と舌をそのまま出し入れするしかできない。ベロ出しチョンマじゃねえかそれじゃあ、と呆れ、うーん、と首をひねって、とりあえず現場でなんとかすることにする。そうか、人間っていろいろ出来ないことがあるんだ、とちょっと新鮮な 困惑だった。

 タクシーでBS朝日スタジオ、入る際に受付と警備の両方できびしく名前と出演番組のチェックをされる。本家のテレビ朝日だってこんなに厳しくないんじゃないか。やはり北朝鮮戦の影響か? 控え室でしばらく待ち。メイクの葛西さんにヘビ女メイ クのこと相談。これが例えば中野貴雄組であれば
「あの、ドクトル・キューラの看護婦みたいなメイクで」
 とかで通じるんだろうが、非・オタク人にはなかなか説明が荷。4時半収録開始。今回はクールの残り回消化なので、いつもより一本多い五本録り。

 ケツカッチンの三橋さん出演の回から録り始めるが、三橋さんなかなか台詞覚えていてくれず、やや手こずる。このコーナーの収録としては記録的な五テイク。やや現場に緊張走る。しかし絵としては極めて面白い。ティーチャ佐川さんが帽子をかぶっ て最後に登場、
「唐沢の父です」
 と名乗るシーンは爆笑モノ。一気に出演者平均年齢を高めたこの回は見逃せません ぞ。

 とにもかくにも無事終わって、さて二本目から四本目までは私とおぐりで、飛ばす飛ばす。ほとんどリハ一回、本番一回でOKを出す。まあ、すでに5回20本もやっているわけで。途中一回、おぐりが衣装着替えている間にテレビのニュースを見ながらFDさんと雑談。アメリカで、13歳の教え子とやって捕まった金髪の女性教師の画像に、
「しかし13歳だったらたまらんでしょうね」
「またこの先生がソソる顔だねえ」
「しかも金髪。あ、アメリカだから普通か」
「3年B組金髪先生」
 みたいなオヤジ会話。おぐりが戻ってきたとたんにスタッフがすぐモニターに切り替えたのが笑える。
「いま、ちょっとFDさんと演出理論についての高尚な話を」
「絶対違いますね!」

 で、最後がヘビ女。途中で青白いライトを下から照らす、怪談映画的な演出で照明をあててもらう。いかにもベテランという感じのお爺さんの照明技師さんが、実にう れしそうにそういうベタな怪奇照明をやってくれる。

 で、変身後のメイク。ざっとイラストを描いて葛西さんに呈示して説明。こういうとき絵を描けるのは強い。私としては、もっとマンガ的にやってくれるかと思っていたが、葛西さん、きちんと、基礎にパール入りの、ハ虫類的光沢ある白粉を塗り、口も目もリアルに塗ってくれる。脇で指示を出して、もっとマンガチックに、と修正出しつつ。なんとこれで45分もかかった。おぐり、成りきってシャア、と口を開けて実に楽しげに怪奇ヘビ女を演ずる。これなら舌チロよりインパクトあるかも、と膝を叩く。まったく現場でなきゃわからぬことがある。ヘビおぐり、ファンには必見とい うかなんというか。土田さんが嬉々として撮影していた。

 スタジオに戻って収録再開。メイクは45分だったが収録はリハ一回、本番一回の 1分で決まり。
「はい、これでコミビア、全て収録終わりました」
 というFDさんの言葉にちょっと感慨あり。おぐりのメイク落としを待って、途中から見学に来た海谷さんともなって出て、そこから山手線で日暮里。うわの空メンバーたちが、コミビア終了記念で打ち上げをやってくれる。場所はもちろん、いまやう わの空のソウルフードとなった感のあるもんじゃの大木屋。

 座長、奈緒美さんはじめ島さん、小林さん、水科さん、金沢くん、はんまんさんまで揃ったオールメンバー。乾杯して、今日の撮影のこと、週プレのこと、今後の予定のことなど話しつつ、恒例のカツオたたき、巨大肉、牡蠣ネギ焼き、メンチかつ、もんじゃといったフルコース。おぐり大はしゃぎ、ここのもんじゃ初めてのみずしなさんが写真をせっせと撮っている。

 食べている途中で日本チームが北朝鮮を1−2で破る。大将、おー、と叫んで、
「よーし、おごるぞ!」
 と口走る。みんながわーっ、と日本の得点時より大きい歓声をあげると
「あ、冗談、冗談!」
 ナーンダ。……とはいえ北朝鮮ごとき相手に(しかもホームで)苦戦しているようじゃ、本戦はダメと決まったようなもの。なんで日本でサッカーなんかやらねばいか んのか、と、遡ればそこまで思ってしまうのだが。

 牡蠣がさすがに旬でうまいこと。メンチの汁気にも感動。最後のもんじゃは11名で7人前、さすがに食っても食っても。まあ、それがこのもんじゃの魅力だが。打ち 上げということで劇団におごってもらう。申し訳なし。

 なんだかんだで和気藹々、12時ギリギリ。あわてて電車に飛び乗る。水科さんと池袋まで一緒になる。退団したメンバーのことなども話しながら。劇団というのは集合離散常無きが常。去る者は追わぬがよろしい。もったいないとは思うが。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa