裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

24日

火曜日

生類脂身の令

 デブを笑ったり傷つけたりしたら遠島。朝、7時20分起床。二日酔いとかは全くないが、やや風邪気味か、少しアタマがクラクラする。朝食はソバ粉焼き、リンゴ。書き下ろし本の原稿、メモがそろそろ煮詰まってきている。一気に二冊、片づける予 定。体調がしかし、不安定だな。

 パソコンに向かうが、やはりテンションあがらず。気圧もあるのかと思う。読み残しの資料片手に少し横になる。電話あり、ゆまに書房Tくんから。今日打ち合わせいかが、と言ってあったのだが、返事がなかったのでダメかと思っていた。OKだとのこと。ゆうべの留守録を確認したら、日本テレビ『メレンゲの気持ち』から出演の依 頼があった。よく連続してくるもの。

 昨年12月1日の日記で取り上げた事件に、無期判決。
「母親を殺害した殺人罪に問われた山形県米沢市赤崩、無職、土田博行被告(23)に対し、山形地裁は23日、懲役14年(求刑・懲役15年)を言い渡した。木下徹信裁判長は事件がアニメの影響だったことを認め“内面に抑えられていた妄想が現実化した。理解困難な動機に酌量の余地はない”と述べた。判決によると、土田被告は高校生の時に見たテレビのSFアニメ番組『新世紀エヴァンゲリオン』に出てくる、“(人類の)進化の最終結論は滅亡”という言葉に共感し、“人間は地球環境を破壊し、不必要”と考えるようになった。昨年6月25日、会社を無断で早退し、自宅で母親(47)の頭を木製バットやスコップで数十回殴打し殺害した」
                (Mainichi INTERACTIVE)

 私の当該事件へのコメントは昨年と変わらず。要するに“あんた、バカぁ?”。バカがフィクションと現実を混同しただけの話である。とはいえ、あの作品が“現実”にリアル感を抱けず、フィクション(妄想)の世界により親近感を抱くタイプの少年たちに、(それが作品自体通常ならざる状態で世に送り出されたという理由も含め)強いレポールをかけるだけのインパクトを有するものであったことは確かである。それは現実離れしている内容であるが故に、世界の破滅を説く多くの宗教の教義と同じ く、煩わしい全ての現実からの逃避先として理想型だったのだろう。

 それ故に私は、当時、自分の周囲にいた、アニメにウブな人たちに、あの作品とのある程度の距離を置いたつきあい方を勧め、また、そういった立ち位置での楽しみ方をいろいろ紹介したりもした。その方法論を、“オタクのシニシズム”“揶揄的態度をとることによって自分自身の問題点を見ようとしない”“真摯でない”と非難した人々(竹熊健太郎氏等)にとり、真摯にあの番組の中で示されたテーマに向かい合ったこの犯人こそが、まさに理想的な作品への取り組み方を示した人物、ということになるのだろうか。いや、確かに殺人事件における裁判の起訴状という、これ以上ない現実の中に、いきなり“人類進化の最終形態”などというSF的用語が動機として書き込まれるなど、オタクにとっては痛快事ではあると思うが(昨年末のオタク大賞で この件への私のコメントは“カッコいい〜!”だった)。

 昼は冷凍庫整理で、カチカチの牛肉とナムル(そろそろ豆モヤシがヤバい)を使いビビンバ。青唐辛子味噌で。食後、ビデオで『空中黙示録』。いろいろあって、ついに見ることが出来た。……要するに、AV女優を全裸でヘリコプターから吊して飛ばせるという、私の好きな“バカバカしいことに徹底して手間と金と情熱をつぎ込む”行為の極限のようなビデオである。再確認して驚いたのは、女を吊す、デーモン小暮みたいなメイクをした男が池島ゆたか(K子が撮った映画『不思議の国のゲイたち』のプロデューサー)氏だったこと。知り合いが出ていたとは。女優の、よく言えば肉付きのいい(たるんだ、ともいう)お腹などに、時代を感じてしみじみしてしまう。これ見てしみじみするトシになるとは。それにしてもこのあいだの関西学院大の遭難救助関係のニュースで、ヘリの使用量が一時間50万円とか聞いたばかりだったので
「これ、いくらかかったんだろう?」
 と見ていて思わざるを得なかった。たぶん、AV好きのヘリのオーナーの特別貸出しだったんだろうが……。

 1時半、時間割でゆまに書房Tさん。『カラサワコレクション』、次回配本は6月ということにする。前回は一度に三冊同時出版したが、それでは読者の財布がいたむ率が高いので、6/7/8と、一ヶ月に一冊ずつの刊行に、出版の形式を変える。Tさんには『社会派くんがゆく! 死闘編』を進呈。帰宅、『メレンゲの気持ち』製作プロダクションから電話。なんと、撮りが今週土曜というタイトなスケジュール。私がダメだったら、どうするつもりだったのか(誰かがダメになった代役なのかも)?

 帰宅、原稿書き。体調いまいちの中で熱中したので、少しフラつく。今夜は『くすぐリングス』があるのだが、ちょっと顔を出すのは見合わせることにする。ひさしぶりにみんなに顔を合わせたかったのだが。横になって、雑読書。石ノ森章太郎『不倫学入門』(ニッポン放送出版、1989年)読む。レディースコミックの資料のために買ったモノだが、改めて読むと案外面白い。企画モノ漫画ではあるが、力の入った大作(として売らねばならぬもの)ばかり描かされていたであろう当時の石ノ森氏が、肩の力を抜いて気楽に描いている感じが見えて、読んでいて楽しいのである。さまざまな不倫のパターンを短編仕立てにして、法律知識のコラムが後ろに載る、という体裁であるが、徹底して泥沼になって自殺したり警察沙汰になったり、というようなケースは意識してはぶいていて、読者に不倫の危なさを示しながらも、裏で“危険なことは楽しいですよ”と、そっとソソノかす、という、まさにレディースコミック的な作品。当時は確かにレディコミ全盛で、かの石ノ森までこういう作品を描いていたんである。

 夜8時半、青山『もくち』でK子と。奥のテーブル席(天井から半ばまで柵のような衝立が降りていて、かがまないと入れない)につく。近くの席で、どこかの会社のコンパがあり、かなり騒がしい。料理は、こないだもそうだったが、メニューにあるもので切れているものが多いのが困る。びり鯛かまぼこ、揚げ豆腐、地鶏鍋など。まあまあの味。K子は最後に出てくるわさび釜飯が好きで、これだけのためにここには通う、と言っている。10時帰宅。『メレンゲの気持ち』からFAX。出演料が、この間の『爆笑問題のススメ』のほぼ二倍。“凄い”と言ったら、K子が“よく見てみなさいよ、拘束が二日よ。二日分のギャラだもん、倍でアタリマエよ”と言う。なるほど、と思ったが、しかしこれまでの番組では撮りが二日だろうと三日だろうと、支払い学は同じだった気が。やはり、誰かも少し大物の出演がキャンセルになった代役 なのかと思う。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa