裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

木曜日

一天ニューアカにかき曇り

 どうも浅田とか中沢が出てきてから、急に思想界の雲行きが怪しくなったな。朝、目覚めが6時。そのまま寝床で本を読み、7時半起床。寝起きのいいのを自慢するのは年寄りになったということを自慢しているようなものだが、しかし便利は便利である。私の場合、仕事上の読書やメモ書きが出来るので、朝早い目覚めはあまり苦痛にならない。今日はちょっと仕事の準備にとこのあいだ買ったPHP『「宗教とオカルト」の時代を生きる知恵』(渡部昇一、谷沢永一)を読破。仕事で使う資料になる部分は非常に有益だったのでモトは十分とったが、その他の部分はイマイチ。だいたい において、PHPのこういう対談本は中身がスカな場合が多い。

 今回は特に渡部氏がひどい。“科学の立場はひとつではない、自分は天動説を支持する”とか言って、
「天動説が嘘というのなら、秒速三十キロで動く物体の上に軽い空気がなくならない理由について、説明してもらったらいい。おそらく考えれば考えるほど、答えられないはずです」
 などと吹いている。英文学者が第二宇宙速度とかを知らないのはまあ、仕方ないのかも知れないが、ロジックを武器にしている評論家がこれでは情けない。じゃあ、天の方で動いているのなら、凄まじいスピードで移動しているはずの他の天体、例えば金星とかに空気があるのはどういうわけなのか。この説ではおかしいことになるではないか。対談相手の谷沢氏が、後書で
「今回は主題が宗教であるだけに、この問題に関しては渡部さんの蘊蓄が段違いに優れていること自明の理なので、対談の牽引及び主導の役割を渡部さんにお願いした。私は専らかねて疑問とするところを小出しに申し出ては伴奏の真似事に努めた」
 と、秘かに逃げを打っているようなところがあるのが可笑しい。

 一方で、同じ後書で
「せめて仏教についてお役に立つ本を挙げておきたい。話を逆に、お役に立たない本の筆頭は、中村元の著書及び編著である。こういう人を学商と呼ぶ」
 などと書いているのは、いかにも谷沢永一らしくて笑える。また、
「私はこの齢まで多くの人を見てきましたが、何かの方法で人格が向上したというような人を知りません」
「人間に成長なんてことあるのかしらんと疑います。学問なんて熱心にやればやるほど人間が悪くなる例が圧倒的ですね」
「世の中に哲学ほど頭から人を馬鹿にした曲芸はないと思います。あんな得手勝手な学問があるでしょうか。何事をも何者をも証明せずして自分に都合のよい結論を振り回すのですからね。(中略)自分個人の情念を人間性一般に誇張する言語表現の特殊な技法にすぎないのです」
 のような、おなじみ谷沢節が随所にあって楽しく、そのおかげで読了できた。

 朝食はソバ粉パンケーキにリンゴソースで。午前中は雑用で一気に過ぎていく。植木不等式氏より豚丸焼き会のお誘い、また笹公人さんよりタカノ綾さん上京に関しての打ち合わせメールなど。タカノさんは洋泉社の第一作が出て以来のと学会ファンなのだそうである。これはちょっと意外で驚いた。母からも電話あり。銀行口座の件。

 昼食はまた青唐辛子味噌でビビンバ。しばらくまた書庫に沈殿。6時に家を出て、新宿ビデオマーケット。最近は家でビデオを見る環境になく、未見のものがだいぶダブついているので、新しいDVD類は見送り(引っ越したらかなりのペースで遅れを取り戻さないといけない)。アダルトビデオのフロアの、貴重盤コーナーのケースの中に、この数年探し回っていた『空中黙示録』というビデオを見つけた。このケースの中の商品は平均が一本5万円という高額なのだが、たとえ5万が10万でも買う、と気負い込んだのだが、残念無念、“非売品”という札がついていた。しばらく未練 でケースの前を立ち去りがたく、地団駄を踏んでいた。

 これに限らず、今、書いている本の資料で草創期の1980年代のアダルトビデオをまとめて見直してみたいと思っているのだが、残念ながらマニアショップやネットオークションでは昨今のお宝ブームで値段が高くなりすぎて、そうそう簡単には集められない。コレクターの方で、どなたか協力してくださる方はいないだろうか。もしいらっしゃったらCXP02120@nifty.ne.jpまでメールをいただければ幸い。

 帰宅、メールチェック。千葉の古書店さんに本をネットで注文した返事が来ていたが、“ひょっとして、このあいだ『爆笑問題のススメ』にでていた方でしょうか?”との私信がついていた。私の収集範囲のものをかなり持っている人らしい。

 9時、『華暦』でK子と夕食。板さんたちにもテレビ、“見ました”と言われる。今朝の電話で母が言っていたように、“どうしてあんな時間にみんな見られるのかしら。翌日の仕事もあるだろうにねえ”という感じ。刺身は尾長鯛とマグロ。ここの魚は、おれんちとも船山とも異なる、独特のうまさ。刺身なんて、どこで食っても同じ魚、とはいかないところが面白い。K子から新マンションのカギをもらう。いよいよ引っ越しが目前に迫ったという感じ。その件について話しながら、タケノコ焼き、おでんなど。自衛隊員のファンであるYさんから、晩白柚というでかいザボンみたいな柑橘類をいただいたとのこと。ばんぺいゆ、と読むそうな。ばんぺいゆハンターD、とか口走る。帰り、“いつもお世話になっているので”と、日本酒をいただいた。

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