裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

20日

金曜日

わかばの鬼太郎

 ゲ、ゲ、ゲゲゲのゲ、夜は車庫入れ大失敗。朝、7時15分起床。朝食、ソバ粉焼き。ソバ粉がいいのか、挟んでいる生ネギのせいか、朝食をこれ中心にしてから体調は(目からくる肩こりをのぞき)きわめて良好。血圧を下げるのにいいらしい。

 テレビでも取り上げていたが、ワシントン大学などの研究グループが、夫婦の会話の中身を心理学と数学を組み合わせて分析してみた結果、相手をほめるような肯定的なやりとりと、相手をけなす否定的なやりとりの両者が会話に占める割合を比較、これらのデータを数学的に処理した数値で、結婚生活が円満に続くのは、相手に対して肯定的な会話が否定的な会話の五倍以上あるカップルであり、この五倍という数字を割り込むと、結婚生活は高い割合で破綻するという結果がでたという。データはアメリカの夫婦でとられたものであり、日本やヨーロッパの夫婦にも応用できるかどうかは不明ということだが、聞いていて苦笑する。私ら夫婦の場合、逆転どころか、K子が私に投げかける否定の言葉はトテモトテモ、肯定の五倍ではきかない。研究グループによるとこのデータによる離婚予想は94パーセント以上の精度を誇るそうだが、それだったらウチなどはもう二十回以上離婚してないといけないのではないか。

 モノマガジンからFAXが来ていたゲラをチェックして、編集部にFAXしようとしたのだが、話し中で届かず。仕方なく編集部に電話するが、そこでトンチンカンをやり、間違えてフィギュア王編集部に電話し、フィギュア王担当のS川くんに訂正箇所を伝言した。どうにもボケている。しかも、夕方までそれを気がつかなかった。

 マンション(この渋谷のマンション)管理組合から手紙が来ていて、何かと思ったら12月に振り込んだ管理費が請求額から1円多く、“過剰分1円につきましてはマンション管理組合でお預かりしております”、付いては次回振り込みの際に、請求金額から1円を差し引いた額を振り込むように、とのしらせ。この手紙の作成及び郵送 で100倍の金が少なくともかかっていると思うのだが……。

 1時くらいまで雑用で時間が消える。今日は久しぶりに急場の原稿仕事もなく、夜にサイト・イーティング団の食事会があるくらいなのだが、さて昼をどうしようと考えて、この機会に例の復活したトツゲキラーメンに行ってみよう、と、新宿まで出て中央線に乗り、神田まで。西口を出て、西口商店街をずっと歩く(鴨だの雉だのを窓 際にずらりとつるしてある凄い光景の鴨料理屋があった)。

 しばらく歩き、あれ、まだかな、通り過ぎてしまったか、と思った頃に、トツゲキラーメンの看板発見。当然のことながら六本木の地下にあったときよりはずっとキレイに、ハタ目にはどこかのチェーンショップかな、というような作りになっている。入ってみると、あの親父さんが、こっちの顔を見かけて、覚えていてくれたとみえ、
「毎度」
 と声をかけてくれた。食券を買うシステムになっていた。変わったシステムの発券機なのでちょっととまどう(肉ダブなんてメニューもないし)が、しばし待つうちに無事、目の前に、トツゲキラーメンがどん、とおかれた。まさか、生きてまた再会しようとは。大げさではあるが、以前の店が無くなったときの空虚感は、自分の青春が終わったな、という感じだったので、そんな風にさえ感じてしまった。

 気のせいか、麺が以前の六本木時代よりいくぶん細く、また固めの茹で方になっているような気がした。上に乗っかっている肉も、以前は露骨な“豚肉のニンニク醤油揚げ”としか言えない代物であったのが、“腓骨”と言っていい上品さになったように見える。モヤシも、いかにも無造作にぶちこまれていたあの頃とは違い、彩りを考えてニンジンの繊切りなどを加えているではないか。もちろんのこと、器も、醤油の染みがこびりついた前のやつから一新して薄青のものだし、水も、水道から大コップにジャーとついで出す式でなく、きちんとした“お冷や”だ。なにか、高校時代の不良だった同級生に再会したら、いくぶんの不良ぽさは残っているものの、きちんとネクタイを締めた会社員になっていて、名刺を差し出されたような、そんな“がんばっ てるなあ”的な可笑しみが感じられた。

 しかし、味はちゃんと、トツゲキであった。これこれ、この塩辛いスープ。ふむ、ふむ、という感じで味わった。親父の目の前のカウンターに座ったので、“いつからここで?”と訊くと、“去年の10月からだよ。も〜う、大変だよ。一から客を開拓しなきゃならないからねえ。前みたいに、32年六本木でやって来て、フリの客は後回し、って態度じゃダメだからねえ”と。食べ終わり、“ああ、ひさしぶりに食べた!”とため息をついたら、うれしそうに笑っていた。この時間ですでに午後二時半くらいだったが客も一人二人と足を運んで来ており、徐々に認知されてきているか、という感じなのは結構であった。

 それから、せっかくカギを貰ったのだから、と思い新中野に行ってみよう、と、お茶の水から丸の内線に乗り込み、新中野へ。周辺の店なども見て回る。通りに面したスーパーは、高級魚のコーナーもあり、なかなかいい感じだった。マンション、ひっきりなしに引っ越し業者のトラックが行き来している。部屋に入ってみて、ここにテレビが、ここに棚が、と頭の中でインテリアデザインをしてみる。やはり狭いな、という感じ。隠居所にはちょうどいいのだろうが。見て回っていたら、チャイムがいきなり鳴ったので驚く。取り付けたオーブンや皿洗い機の業者の人だった。まだアルジは引っ越して来てないんで、ええ、3月で、と説明。新宿行きのバスの時間を見てみようとバス停のところに行ったら、ちょうど西新宿行きが来たので乗り込む。十分程度で新宿西口。渋谷に8年住んで、最初はスカしていて実にイヤだったあの近辺の雰囲気に馴染んでしまったのか、青梅街道沿いの、いかにも馬子道という雑駁さに、少し違和感を感じてしまったのが面白かった。これで、ここをまた毎日通るようになる と、今度はコッチにすぐ慣れてしまうんであろう。

 新宿へは出たが何もすることがない。すぐタクシーで帰宅。留守電が来ていて、モノマガとフィギュア王間違えたことに気がつき、あわてて連絡しなおし。あと、午前中にアップした『空中黙示録』について、たくさんのご教示をいただいた。みんな、 やっぱり知っているなあ、と感心。

 FAX来て、来週の打ち合わせの期日を確認。アスペクトからは次の社会派くん対談の期日の打ち合わせ。今週後半は何かブラックホール的にぽっかりと予定がなかったが、来週はカレンダーが書き込みで真っ黒である。もう少し均せないものか、といつも思う。パイデザ平塚くんから添付メール機能の不具合について電話、指示に従い いろいろやってみるがうまくいかず。今度来てもらうことにする。

 7時半、またまた新宿へ。どうも能率の悪いことである。小田急線南口改札で待ち合わせ。S井さん、I矢さん、S山さんといういつものメンツで、I矢さんご推薦のイタリア料理店『ルシアン』へ。ここのピッツァがうまい、ということだった。内部は暗くておしゃれで、いかにもカップル向け、という感じ。金曜日だったのでさすがに混み合っている。われわれオタクぽい男共が二席も占領してしまいすまんことである。イタリア・ビール“ナストロ・アズーロ”で乾杯。これは旨いビールだ。

 料理は前菜に、クジラのSASHIMIだの、ノロゲンゲのフリッターだのがあって、能登ですか、というような感じ。クジラは何年冷凍してましたか、という感じのものだったが、ノロゲンゲは口あたりサクサクでおいしい。また、牛タンのローストや豚頬肉のソテーなどもあり、部位にこだわっている風も窺える。ただし、イタリアンの若者向けの店だけにソースがどれも濃厚。K子が“ソースは別にしてこっちで勝手にかけさせればいいのに!”と言って文句を言っていた。ピッツァはなるほど、の味だが、これもトマトソースがイマイチとK子、文句。最後に頼んだ玄米のリゾットの上に乗っているスズキのフリッターを、“これはまあ、他のものよりいいわ”と食べていたが、リゾットの中に、緑色した香草が細かに刻まれて入っており、それを見て“これ、シャンツァイじゃないの?”とK子が言う。メニューを見て、“違うよ、シアントロ、とあるよ”と言いながら、店員さんに“シアントロって何ですか”と訊いたら、“はい、シャンツァイでございます”という返事。K子が“ギャーッ”と叫び、この店を紹介したI矢くんが“シマッたあ!”と顔をおさえて突っ伏した。シアントロ星人の陰謀に引っかかった。

 その後、他のメンバーは『虎の子』で飲み直しに行くが、私は急に眠くなったこともあり、一人先に帰宅。昼に食ったトツゲキラーメンをまだ腹が消化しかねて、血がそっちの方に全部行ってしまっていたのかも知れない。帰宅してメールを見たら、かの『空中黙示録』、見せてくれるという方がいた。感謝々々。……ところで、このビデオに私がそんなに執着するのを読んで、五万もするほどのよほどの大傑作だと思っている方がいらっしゃるかとも思いますが、単に昔見て懐かしかった、という思い出に金を払おうというだけで、他の仁が見ればただのアホAVであります。各中古ビデオショップ、値段をツリアゲたりしないように。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa