裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

火曜日

ア太郎か、ア太郎よ

 垣根の曲がり角で焚き火している人、八百屋のア太郎さんじゃない? 朝7時10分起床。肉まん蒸かして朝食。『大地』の二部では、王龍の息子の王虎が、南方の粒食文化をののしって、故郷の北方の粉食を懐かしむくだりがあった。食の嗜好、もっと言うと幼児期に食いつけなかったものの味になじめない、という排他性が、自然と個人のアイデンティティを形成する。私のように、子供時代から何でもかんでも節操 なく口にしていたような人間はやはり、定見のないチャランポランになる。

 たまっていた日記つけ。ADSL工事の件で、説明を受けて不得要領の部分を、パイデザに回していろいろ訊いてもらうことにする。このサービスの電話担当の女性がどうも、みんな言葉に特長があるなと思っていたら、NTTの青森支社が担当してい るのであった。

 旅行中の新聞などまとめ読み。元スリーファンキーズの手塚しげお、6日に死去。62歳。“♪カナカナカナカ、ナカナカ見つからない”は今でもよく鼻歌で出る。芸歴を調べたら、『仮面ライダーストロンガー』で奇械人ゴロンガメ、なんてのをやっていたのか。うーむ。ゴロンガメだからいけない、というわけではないが、せめてギリザメスだとかガラガランダだとか、もうちょっとまともな名前の怪人だったら、と 思ってしまう。一般の人にはどちらも同じか。

 平塚くん、結局ADSL工事はいろいろこっちにめんどくさいことが多いので断ったとのこと。感謝。メールいろいろ。昨日の『爆笑問題のススメ』見ました、という内容のものがやたら来ている。仕事メールでは、景気いい話あり、一方で景気悪い話あり。風呂につかって、悪い話の方の善後策をいろいろ考えるが、少し落ち込む。ゲンなおしにと、少し気張ってタクシーで参宮橋まで乗り付け、道楽でノリラーメン。

 帰宅して、すぐに『フィギュア王』の臨時依頼原稿4枚半を書く。マジンガーZ特集の巻頭原稿。つい一昨日に見て“マジンガーみたいだ”と思った太陽の塔のことから書き起こして、70年代の巨大ロボットヒーローとしてのあの作品の特異性、その前に位置する鉄人28号、その後に位置する機動戦士ガンダムとの違いを、放送開始二年前の大阪万国博覧会とからめて書く。書き上げてざっと読み返してみる。……どうも、その時代の空気みたいなものが感じられない。内容はいいのだが、と首をひねり、思い返して、文中の一人称を“ぼく”にしてみる(ここ五年、一人称はほとんど“私”で統一していたのだが)。すると見事に、文章にいい意味7割、悪い意味3割のセンチメンタルさが生じて、“あの時代”を語る文体になった。“私はあのころ”と書くと、そこには当時の自分と今の自分の間にすでに一線が引かれたことを認めた上での、達観みたいなイメージが漂う。一人称を“ぼく”(“僕”ではない方がよろしい)にし、しかも無根拠に複数形にして“ぼくらはあのころ”と書くと、そこに、未練というか執着というか、まだあの時代をひきずっている割り切りの悪さが出る。 この未練の快感というのがノスタルジアの魅力なのだろう。

 島優子さんとの鳥オフの件でベギラマにメール。某雑誌(相手があることでまだ未定なので某と書く)から、時事対談連載の依頼電話。村崎さんとのヤツを少し一般向けにしたようなものになるか? 文化事象に限るとか、差別化の工夫が必要ではない か、と少し考える。

 原稿メールし、新宿でサウナ&マッサージ。いつもの先生から“『爆笑問題』見ましたぁ”と言われて恐縮。もっとも今日の担当は別の先生。肩の張りをちゃんと驚いてくれてにやりとする。人間というのは本能的にナルシストであって、自分の病気や 不健康まで、人より上に位置していると自慢したがるものである。

 9時半、中目黒『好ずし』。神戸で一緒だったS山さんがいたのに驚く。チャットでK子が誘ったんだとか。いろいろと話しながら、握り、アジ叩き(最近は叩きを頼んでも大抵、少し片の小さい刺身みたいなものを出してくるが、正当な叩きだったので嬉しかった)、それから鯛のカブトの塩焼きなど。体格のいいS山さんと一緒だと 酒が進む。

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