裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

木曜日

ミミガー遅れの便りをのせて

 船は出ていく那覇みなと。朝8時起床。ちょっとしぶり腹。念のため玄関とかいろいろチェックするがやはりカバンなし。朝食はソバ粉焼きとデコポン。原稿を書かないとと思い、パソコン前に座るが、どうも書けない。テンションがまるで上がらぬ。気圧かなあ、と思う。ネット関係の購買でちょっとトラブル、これも憂鬱の原因。おまけに、ファックスがOTCから届いていて、昨日、岡田さんと平成オタク談義打ち合わせだった筈ですが、とある。これはすっかりドワスレしていた。頭がどうかしているのではないか?

 今日はマンション購入ローンを組む書類にサインしに中野に出向かねばならない。それが二時からなのだが、細かくてややこしいところ(説明を受けたり何だり)はK子がやってくれるというので、私はサインだけしに3時半に行くことにする。これで時間は出来たわけだが、出来たからと言って仕事が進むわけでもない。某氏から某放送局の某新体制づくりに関して、某件についての教示依頼電話が昨日あり、それに関係して某所にメール出したり、某サイトでいろいろ調べたり。こういうことにはエネ ルギー注ぎ込めるのだが。

 昼はパックのご飯に、鰯醤油煮の缶詰、大根おろしで飯。原稿催促メールいくつも来るが、本当に今日は何ひとつ仕事が手につかない。二日酔いか、昨日のテレビ出演の疲れか。ゆまに書房の件に関し、西条八十のことをちょっと調べる。『王将』(吹けば飛ぶよな将棋の駒に……)が西条八十の作詞だった、というのはちょっと盲点で あった。

 執筆はひとまずおいて、道新読書欄原稿のための読書。古神道真智会主宰の高村博山氏の言をジャーナリストの小川圭輔という人がまとめた『平成二十年、危機が訪れ人類は淘汰される』(たま出版)。人類がこれまで意識レベルを上の次元に上げるこ とにことごとく失敗してきたのは、
「大きな原因は人類の奢りにある。物質的にもピークを迎えた人間は謙虚さを忘れて傲慢になり、その結果、神を求めなくなる。宗教にも関心を示さなくなる。自分が神 になってしまうからだ」
 という指摘はまあ、いいが、そのすぐ後に
「今や日本は精神的レベルにおいても肉体的レベルにおいても世界の中心になろうとしている。いずれ世界中から人々が日本へ参拝しに来るようになり、事実上の“バチカン”になっていくだろう。日本人は神を受け入れた民族として、日本そのものが神殿になり、そこに世界中から人々が参拝に訪れるのである」
 なんて書いてあるのは、謙虚さを忘れた傲慢以外の何ものでもねえだろうと思うのだが。おまけにその証明が“日本は経済面で世界第二位になったことがある”というのはわけがわからない。今は第二位からも滑り落ちてしまっているだろうし、それで言うなら一位のアメリカの方が神に選ばれた国なんじゃないのか?

 原稿呻吟していたらもう3時過ぎ。あわててタクシーに飛び乗り、中野まで行く。タクシー運転手さん、少々吃音気味なのだがおしゃべり好きで、最初は独り言を言っていたが、やがて話しかけてくる。権藤という表札のことから、権の字はケンと読むと人を支配する力を表す(権力、権勢)が、ゴンと読むと“仮”、“副”の意味にな る、てな会話を交わす。
「権化ってのは仮の姿に化けたもののことだし、権妻というとおメカケさんのことだしねえ」
 という話から運転手さんは某大会社の会長がメカケを持っている、と教えてくれ、
「人間、金がありゃ女を囲っても、誰も何とも言いませんよねえ。ああ、金が欲しいですねえ」
 と、安っぽいドラマの中の一般庶民の意見、みたいなセリフを吐く。彼に言わせると、自分が出世出来なかったのは、小学校の時の教師が教え方がへたくそで、鶴亀算 をとうとう理解できなかったことに全ての原因があるという。
「ああ、あのとき鶴亀算さえきちんと覚えておけばなあ」
 と嘆くのに、あいづち打ちながら苦笑押さえ難し。

 車が立て込んで10分ほど遅刻。それでも、ちょうどK子が判押しを終わり、世帯主である私が実印を押すだけとなったところ。いくつもいくつもの書類に住所氏名を書き、判を押す。捨て印だの割り印だのもあるのがめんどくさい。“外人さんとの契約の場合、これはどうするんですか”と訊いたら、その名前で印鑑を作ってもらう、とのことであった。記名と押印だけして、K子はまだ説明受けるが、私は用済みで帰宅。裕香園に立ち寄ってみたが、今日は臨時休業。こういうところまでツイてない。帰宅、またパソコンの前に座ったが、やはり何も書けず。今日はとことん、仕事の神様には見放されたことであった。

 9時、パイデザ夫妻と『くりくり』で会食。タクシー拾うために立っているだけで寒い。K子は平塚くんと家具の相談をし、一緒に内覧会にも行くそうだ。私も立ち会おうか、と言ったが、K子は自分の選んだ家具に私が横から口を出されたくないから来ちゃダメ、と言う。くりくりの料理、今日は四人なので、K子がお気に入りのメインディッシュである仔羊のローストとひな鶏半身、それにタルタルステーキが全部食べられる、とご機嫌。ルンピアはちょっと失敗したから、とサービスしてくれる。あと、イカの巻き飯というものも。味付けご飯の上にローストしたイカをのせてくるんだようにしたもので、ご飯の味付けが香ばしくて、ナッツなども入ったユニークなもので、なかなかいい。ワインも二本あけたら、もう途中から眠くなって眠くなって、コックリを始めてしまう。やはり仕事できなかったのも眠いのも、気圧だろうと判断 する。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa