裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

月曜日

これがロシアの人形とね、マトリョシカぁ。

 なんのこたなかばい、こけしのごたる。朝7時半起き。ちょっと二日酔い気味なのは昨日の焼酎のせいか。朝食パスタ中華風麺。原稿書き『こんな猟奇でよかったら』コラム。戦後編、6枚アテ。11時に書き上げて送信。猟奇報道の歴史概観みたいな 内容なので、机の左右が資料本の山となる。

 ネットニュース、『手話で恐喝をした男』(共同通信)。
「兵庫県警は19日までに、言葉と耳の不自由な男性から現金600万円を脅し取ったとして、恐喝の疑いで大阪府堺市、無職豊福隆道容疑者(36)を逮捕した。犯行に加わった男(60)についても同容疑で逮捕状を取った。豊福容疑者と男もともにろうあ者で恐喝には手話を使っていたという。調べによると豊福容疑者らは昨年12月三木市内の路上で同市の男性を手話で脅し現金600万円を奪った疑い」
 ……確かに犯罪なんだが、様子を想像するとどうしてもモンティ・パイソンの『手旗信号版「嵐が丘」』『遭難信号版「ジュリアス・シーザー」』スケッチを思い出してしまう。

 他に朝日コムで内閣支持率、復調の報。朝日新聞社が17、18の両日実施した電話による世論調査で、小泉内閣の支持率は43%、不支持率が38%と、ともに41%だった前回(12月)から支持がやや持ち直したとのこと。
「イラク問題への対応も、“評価する”は38%にとどまったが、イラク戦争直前の03年2月の21%から大きく増えた」
 と、朝日もやや首を傾げ気味なのが可笑しい。自衛隊派遣でネットなどでは批判の論調一色という感じの中のこれは、さすがに日本国民も成熟したか、と思いたいところだが、夕刊紙などの見出しの、あまりの政府に対する悪口雑言への、一般感情とし ての反発ということなのではないか。

 日本人というのは客観的に見さえすればかなりバランス感覚に優れた国民で、禁酒法や赤狩りなどという極端な方に突っ走った歴史を持つアメリカと違い、常に現実を見据えつつ、中道を選択する目に長けている、ということは言えると思うんである。穏健的コンサバティブが、今も昔も日本の本道なのだ。ところが、マスコミやネットではそのような意見を目にすることが極めてまれで、革新、急進、過激、右傾左傾的な言説が大手をふっている。これはどういうことなのか、不思議だったのだが、この正月から、要あってやや、思想的な部分に踏み込んだ原稿を数本書いて、なるほど、とわかった。つまり、コンサバティブ基調に論をまとめつつ、人の耳目を集めるような面白い意見を述べるというのはまことに難しいことなのだ。逆にいうと、現状について苦言を呈し、上の連中を馬鹿にし、世の中間違っとるよ、と慷慨するような原稿は、大して努力を要せずともスラスラ書けてしまうんである。文才のない人間ほど、古いモノを否定して新しい方へ方へと走る傾向があるのは、別に彼らが心底ラディカルであるというわけでなく、技術的にラディカルな論説しかまとめられない、という問題もあるのではないか、と、ちょっと理解できたような気がしたことであった。

 今日は予定ぎっしりで、昼飯をまともに食っている時間がない。ホンコン焼きそばとウィダインゼリーですます。講談社Yさんから電話、新連載のことで明日打ち合わせ。2時半、IVSの人たち来宅。書庫を見せ、番組で使う本を選び、仕事場の写真など撮る。50冊ほど、箱につめて持っていった。彼らの注文の本を探すため、いろいろ書庫の山をいじっているうち、『別冊GON!』の原稿に使おうと必死で探してとうとう出てこなかった、『家庭で簡単に出来る性具の作り方』が、ひょいと出てくる。六菖十菊、実にくやしい。担当Nくんに、“出ましたけど何かに使いますか”と メールする。なんやかんやで5時までつぶれる。

 スタッフ帰ったあと、すぐ原稿続きにかかり、6時に第三弾(400字詰め7枚半見当)、7時40分にまえがき(3枚)メール。吉田豪氏からメール。二丁目のことが15日の日記にあったことに触れ、現在自分が新宿二丁目に住んでいることを教えてくれる。いかにも吉田豪の住まい、という感じで素晴らしい。へぎそばは人気があるので、大晦日は年越し蕎麦がすぐ売り切れになってしまい、食いはぐれたホモたち が店の周りで途方にくれていたとのこと。

 あとミリオンはあとがき原稿を残すばかりだが、8時半になったのでそこで就業時間終わり、と切り上げ、新宿に出て、三笠会館。さっきモンティ・パイソンのことを書いたが、須田泰成氏の『モンティ・パイソン大全』によると、あのチームのうち、ワーカホリック的に、遅くまでスタジオに残って編集や音入れをチェックしたり、何度もフィルムを見直したりしていたのはテリー・ジョーンズとマイケル・ペイリンのオクスフォード出身組、それに対し勤務時間が終わるとさっさとプライベートに戻ってしまうのがジョン・クリースとグレアム・チャップマンのケンブリッジ出身組だったとのこと。私はケンブリッジ派ということか。尤も、パイソンで一番好きなのは、 オクスフォード派のテリー・ジョーンズなのだが。

 真鯛のフリッター、伊勢エビのポアレ(柑橘系ソース旨し)、唐辛子とガーリックのパスタ(K子がこれの依存症である)、それに仔牛のTボーンステーキを注文。Tボーンステーキにしたのは、“BSE騒ぎでひょっとしてしばらく食べられなくなるかも”と思ってのことだったが、仔牛肉というのはどうもパサパサしていてうまくない。チーズ盛り合わせでカルバドスを食後酒に。新ML、まだ私のもとに届いていないので、アップがまだなのかと思っていたら、とっくに盛り上がっている旨をK子から聞く。別のアドレスに届いているらしい。帰宅して、I矢くんにその旨メールしておく。

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