裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

21日

水曜日

イレギュラの花嫁

 まあ、臨時に決めた結婚相手ですから、吸血鬼だと言われても別段。朝7時半。ソバ粉焼きにスープ、デコポン半分で朝食。スティーブン・ホーキング博士がDV被害 を受けているとの記事。
http://www.zakzak.co.jp/society/top/t-2004_01/1t2004011925.html
 加害者は現在の奥さんであり、博士の子供たち(前妻の子)が対策をとろうとしても、博士は妻をかばっているのか、被害を認めようとしないという。……悲痛な話であり、ホーキング博士ほどの人物でもそのような被害にあうのか、と愕然とする思いではある。ではあるが、なぜかその場面を想像すると笑えてきてしまうのは、いったいどういうわけのものか。ギャグ(語源は“猿ぐつわ”)というものの根本が、弱い ものいじめに起因している部分を持つせいだろう。

 ミリオン、昨日で全部原稿アゲたと喜んでいたが、まだ図版キャプションがあったのであった。一ヶにつき80ワード程度の短いものだが、図版は全部で23ヶあるから、合わせると1840ワード、原稿用紙4枚半ちょっとという量。午前中はそれにずっと費やす。思いがけず仕事が増えた感じ。もっとも、わがコレクションに解説を 加えるというのは楽しい仕事ではあるけれど。

 順調に書き進め、1時半に全部メール済む。図版用ブツ23点を二つの紙袋に収めて外出、チャーリーハウスで定食(春雨炒め)食べてから時間割。ミリオンYさん、相変わらずの用意周到、いちいち書籍名をメモし、井上デザインの表紙案二通りを見せてくれ、さらに2月から実話ナックルズに新連載のコラムの字数、内容、締切等の レジュメを手渡してくれる。

 急に全身綿のようにクタクタとなるのを覚える。気圧の変化だろうか。最近は、あまりの仕事量に、以前みたいに気圧が乱れてどうこう、という感覚をそんなに自覚しなかったのだが。司会の爆笑問題との雑学対決で、アイドル系の雑学を太田が出すので、仕入れておいてくれというので、『トリビアの温泉』を読む。モー娘。の吉澤ひとみと高橋尚子選手が親類、というネタがいいかと思うが、吉澤ひとみという名前を忘れそうなので(名前も顔も知っているが、どの子が、となると全然結びつかぬ)、何回か口の中で吉澤ひとみ、吉澤ひとみ、と唱える。

 疲れた体にムチ打って、原稿また書きにかかる。ワニマガのK子用の原作。4時に書き上げて、諸連絡(主に飲み会の打ち合わせ等)と共にメール。5時半、タクシーで中野のスタジオ。テレビの収録スタジオというと、これまで芝だとか天王洲だとかの方面が多かったので、中野にこんなスタジオがあるというのは意外だった。収録するのは地下で、なのだが、控室は二階。『ウッチャきナンチャき』のときは大部屋に入れ込みだったが、今回はメインゲストなので一室とってくれている。出演料さえ貰えれば別に扱いにこだわるわけではないが、もともとコッチの業界の人間でない(テレビが主な稼ぎ場所ではない)身としては、わざわざ出かけて行って待遇がぞんざいだと、“ああ、テレビの仕事など取るではなかった”と、自己嫌悪に陥るのである。まだ、前の回(放映は私の後)ゲストが藤川桂介さんだった。見に行ってサイン貰えばよかったと思う。

 ざっとメイクしてもらい(メイクとかヘアの女の子というのはどうして可愛い子が多いのか。まあ、センスがなければやっていけない職業だからだろうが、昔プロダクションをやっていたころから、これは不思議に思っている。女性タレントより、よほど質が上のように私には思える。今日の子も非常に可愛かった)、スタッフと打ち合わせして、6時半、スタジオ入り。よろしくお願いします、と頭を下げる。爆笑問題の二人及びアシスタントの眞鍋かおりさんにも挨拶するが、あまり愛想よくなし。も少しゲストをリラックスさせて、二、三言会話でもすればいいのに、と思う。

 オープニングの漫才X−GUNが私のことを紹介し、質問にパネルで答えるという形でいくつかコメント。どうも、こういう形でイジられるというのはあまり心地よくなし。モニターに映る私の顔も、仕事疲れで頬がタルんでいるようで、どう見てもいい顔ではない。私はやはりラジオ向きなのかな、と思う。と、言うより、司会向きであって、ゲスト向きではないのであろう。番組のペースに合わせていると、イラついてくるのである。メモを書き込んだ台本を撮影時にFDに預け、トークのとき貰ったら、別のもので、メモが全く無駄になったとか、局制作番組に比べると不手際もいろいろ多い。

 後半のトークは、ややこれに比べると快調であった。相手と顔を合わせてのトークであれば、それが爆笑問題であろうと誰であろうと、ある程度こっちのペースに引き込めるからである。それに、古書などにはまず興味がないと思った眞鍋かおりが、スタジオに飾ってある貸本マンガを待機時間におもしろがって読んでいて、“今のマンガと全然違うんですねえ、この頃のマンガって。面白い!”と言ってくれたり、また私の中学生時代の一行知識コレクションノートを見たとき、“これ、すっごい! この手書き文字のままで本にして出して欲しい!”とか、大変にこちらをモチアゲてくれたのが心地よかったためでもある。眞鍋かをりという名前はコンニチ初めて耳にした名前、見た顔なのであるが。アイドルネタ、吉澤ひとみは間違いなく言えたが、後藤真希を、後藤マキコと言ってしまった。田中真紀子と混同したか。このアイドルネ タ対決は太田さんに花を持たせる。

 古書ネタはどれもまずまず、ウケる。実はちょっとこちらで仕掛けた内輪ネタがあり、紹介本の中にこっそりジョージ・H・レオナードの『それでも月に何かがいる』(啓学出版、1978)を入れておいた。この本はトンデモマニアの間で有名な本であって、内容はまあ、NASAが撮った月面写真に、巨大建造物が写りこんでいると主張する、ありがちなトンデモ本なのだが、他にそういうことを主張する本の写真はそれがインチキであれ単純な自然現象の見間違えであれ、火星の人面岩のように、まずそれと見える形状はとっている(とっているからこそ話題になるわけだ)。だが、この本においては、紹介されている数十葉の写真のうち、“砂煙をあげている無人機械”だの、“人工的な工芸品”だの、“巨大な円盤基地”だのが、著者のキャプションで“はっきりと見える”と断言されているにもかかわらず、ひとつも見えない、それらしき形にすら見えない、どう見直して見ても見えない”という、おそるべき脳内妄想本である。一番ひどいのになると“矢印のところに”とキャプションに書かれている、その矢印さえ図版に書き込まれておらず、見えない(まあ、印刷ミスなんだろ うが)ものまである。
「これを読むと、人間は見たいと思えば、どんなものでもそう見えてしまうということがわかって、さまざまなトンデモの人たちが本当だと主張することも、ただ彼らがそうものを見たかっただけなんだ、ということがわかってしまったりします」
 と言うまとめに、太田、田中、眞鍋の三人もうなづいてくれていた。

 爆笑問題と言えば、『これマジ!?』で、“アポロ月着陸はなかった”問題を取りあげて、トンデモさんの数を一挙に増やした“前科”のある司会者である。その二人がげらげら笑いながら、“うわ! ホントだ! ナンにも写ってない!”と、トンデモ本に笑いながらツッコミを入れている図はなかなか結構であった。まあ、三十分番組で一時間半を収録に費やしたわけで、かなりカットされるから、このシーンが放映されるかどうかはわからない。しかし、もしこの場面が放映されれば、バラエティ番組というものをよく知らずにハマりこんでいる人に、ある種の解毒剤的作用を果たす のではないか、という気がしないではない。

 ラストのまとめ、“古本マニアの人でこの番組を見ている人は、今日、眞鍋かをりちゃんが古本を喜んで読んでくれていたことで、古本の話を女の子は喜ばないという思いこみをやめて、そういう話題を勇気出してフッてみてはいかがでしょう”というようなことを述べる。これでオーラス、8時15分。半終了ということであったが、案外サクサク進んだ。メイク落とし、控室で待つがなかなか迎えにこない。おかしいと思ってドアを開けたら、律儀に廊下で女性ADが待っていてくれていた。別に着替えとかあるわけではなし、気を使わないでもいい。

 タクシーは断って、歩いて中野駅の方へ。まだアニドウ上映会、やっている時間なので、サンモールを歩き、芸能小劇場。誰も受付にいないので、上映している場内に入ると、補助席もぎっしりという満席。ハニービーとビートルの結婚式のあたりから観る。この作品、19の年に同じアニドウの、電電ホールでの上映会で観たもので、たぶん同じフィルムだと思うが、かなり退色してしまっている。時の流れを感じたこ とであった。

 終わって、植木不等式氏と、こないだもご一緒したK氏と落ち合い、ベトナム料理裕香園へ。K子も落ち合う。生春巻、スペアリブ、水餃子、牛スジの煮込みなどを喰らいつつ、333ビール(仮面ライダーバーバーバー、とか言いつつ)や紹興酒飲みつつ、あの人にも困ったもンですわとか人物月旦しつつ、高信太郎は“そんなUFOに惚れました”というダジャレひとつで歴史に残す価値アリ、などと駄弁りつつ、楽しく夜が更ける。最後にフォー(ベトナムうどん)を頼んだが、ブンボーフェとか言う辛味うどんも頼む。こっちは確かに辛くて、いささか三人とも(K子は最初から食べない)ヒーホ状態。また333ビール頼んで、口中の熱さを払うが、すでに四人で紹興酒二本空けたあとの、この“仕上げのビール”というやつは、非常に酔いを回らせる。疲れもあったのだろうが、肩掛けカバンを忘れてきてしまった。台本とかだけで、大したものは入ってないのだが。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa