7日
水曜日
私の耳は鯛のあら
鍋の昆布を懐かしむ。朝、7時20分起き。朝食、五郎島金時にニンニク味噌。今年の初クリーニングなどもあり。札幌から送った荷物、暮れの伊勢丹で買った古書などが届く。あと、事務所費用で買った、仕事場のテレビデオも。古いテレビ(年末にビデオに切り替えられずあせったやつ)はお払い箱で、引き取られていった。
原稿書き、今日はサクサク。正月に書いた原稿の手直し版と、新原稿との二本を昼過ぎにアップ。昼飯は今朝届いたホンコン焼きそばを作って。うーむ、懐かしい。決してうまいとは思わないが、捨てがたい味がある。ふりかけの青のりの香り紛々。昔の青のりはこんなに匂わなかったように記憶しているのだけれど。それにしても、昭和三〜四○年代の人間というのは、よくこんなものばかり食べて、日本を経済大国に 持ち上げられたものだ。
街へ出て初買い物。西武デパ地下で野菜類、果物などを買う。桜餅があったので、二個入りを買って食う。帰って、ネット資料検索しばし。ちょっとヤフオクで欲しいものがあったので、値をつけるうち、かなりハマってしまい、他にもいろいろと見て回る。セルロイドの昭和四○年代のお面はかなり安くセリ落とせた。昨日の日記に書いた、ネット情報なんか役にたたんと豪語しているT氏も、ネットオークションにの みはハマっているそうである。
古書展の荷物をほどく。昭和三十六年・刊の『実話三面記事』という雑誌(日本文芸社)、“特集・歩いていても興奮する! 異常体質の娘八人の性記録”という見出しに絶倒。冒頭に男女のカラミ(と、言っても地味なもんであるが)のフォトストーリーがある。女役が往年のヴァンプ女優(後にハリウッドのB級映画プロデューサーとなり、『ピラニア』『殺人魚フライング・キラー』などの、人食い魚映画を製作した。石原慎太郎原作の映画『海底から来た女』でフカの精をやった縁か)筑波久子。男役のモデルの顔が、どこかで見た顔だと思っていたら、これがなんと、バイオリン漫談の福岡詩二センセイの若き日の姿、であった。ちとその組み合わせに驚く。
K子帰宅、6時20分に家を出て、田町まで。なんで田町かというと、そこにある中国料理店『大連』で、富士見書房S山氏の肝煎りでギョーザオフのため。山手線で田町、時間ピッタリ。集うもの、S山さん、私ら、パイデザ夫妻、と学会からI矢、K川、それにゲラッチさん、モモさん、ナジャさん、世界文化社D編集長、開田夫妻の13人という大人数。縁起が悪い数もなんのその、店へと突撃。田町はまだ昔ながらの飲食店街という雰囲気の通りが残っている。その店『大連』も、外見はごく普通の、ラーメンでも出しそうな中華料理で、果たして13名も収容できるかと思ったら三階の広間へ上げられる。広間と言っても倉庫兼主人の住居、みたいなところで、若い客がやはり同じくらいの人数で、奥の席で新年会みたいなことをやっていた。
ここの常連のS山さんがいろいろ話をつけてくれたので、ギョーザオフという話ではあったが、海老のチリ揚げ、牡蠣のフリッター、フカヒレの煮込み、鯛の揚げ物、ナマコの煮物と、どんどん豪勢な中華料理が出てくる。味は、いわゆる洗練とはちょいと異なる、いかにも大連という名のノスタルジーにふさわしい、ノスタルな味の、中華というよりシナ料理。70代とのことだが60代にしか見えないご主人は残留孤児だそうだが、陽気にいろいろ話しかけてきて、酒をどんどん勧めてくれる。私の後ろのテーブルの上に、珍しい中国酒がずらりと並ぶ。これ、なんと全部飲み放題サービスだとのこと。……ただし、一本を飲み終えてからもう一本を開けること、という シバリつき。瓶入り紹興酒からまず試みたが、これが芳醇なこと。
会話はずみ、つい食べる手がおろそかになるが、皿は次から次へと出る。一皿運ばれるたびにみんな、もうこのメンバーはさんなみとかで習い性となっているから、いちいち“ヒャーッ、すごーい”と閑静をあげ、いちいち写真を撮り、それを今日来られないメンバーにメールで送る。仙台のあのつくんは“ちくしょう、今夜のうちのおかずはウインナーソーセージだ!”との返事、と学会のS井さんは“今度はもう少し早めに予定を立ててくれえ”との返事。あまりはしゃぐので店の人が不快にならぬかと心配になるほどだったが、お父さん、なんとサービスで中華スープを出してくれるなど上機嫌、“この店にナゼ、コンナニ酒が揃ってイルト思ウ? 私が酒好きだからヨ、アハハハ”などと冗談を飛ばす(実際、港までトラック飛ばして中国からの輸入酒をいち早く独占してしまうらしい。そう言えば部屋の壁面一面にずらりとダンボー ル箱が並んでいるが、これ全て酒だそうな)。
そのご主人、途中でいきなり、部屋の隅にある大型テレビのスイッチを入れる。何か中国のビデオでも見せてくれるのかと思ったら、これがいきなりカラオケ。その直 前に、Dさんやゲラッチさんに、中国(上海)旅行したときの話をして、
「あっちじゃレストランで飯悔いながらカラオケを歌うんだよ。それも、みんな揃って『北国の春』ばかり」
と言っていたのだが、いきなりこのカラオケ、しかも曲がドンピシャ『北国の春』だったのには呆れたというか笑ったというか。ご主人が一番を歌い、マイクを手渡されたので致し方なく、二番以降を私が東北弁バージョンで歌う。S山さんが、
「ここには何度も来ているが、あんなに機嫌のいい様子を見たのは初めてですよ」
と、なにやら首を傾げて不思議そうな表情。どうも、この店の主な客層は慶応の学生で(さっき奥にいた一巻きも慶応ボーイの新年会だったらしい)、彼らは食べたり飲んだりするより、女の子とイチャつく方が主で、われわれみたいに料理にいちいち感嘆した声を上げたり、写真をとったりしないらしい。見事にツボにはまったわけ。ちなみに、ここのご主人は中国拳法の達人で、S山さん曰く
「僕より強いです」
とのこと。人は見かけによらぬもの也。
そのせいかあらぬか、お代もまことにリーズナブルであった。酒は紹興酒ひと瓶の他に、女性向けの甘い桂花酒みたいなやつ、それにご主人お勧めのパイチュウ、ファンチュウを二本、あけた。白磁の瓶に入った台湾マオタイがやはり最高の味だが、ご主人がこれは珍品と出してくれた四川省の五粮液『一滴香』というのが名詮自称、非常に香り高く、“一滴沾唇満口香”の状態となる。“おいしい香水みたいだね”と、飲んだ者の感想。K子は、ここでと学会の二次会ができぬか、とI矢くんなどと相談 している。
しかし、上記の料理の他にもギョーザが焼き、蒸し二種それぞれドンと出て、あとアバラ肉の甘辛炒め(これ最高)などもあり、かなり料理が余ってしまった。開田さんと、今度は植木さんとその爆食団員たちを、浄壇使者として雇ってこないといけませんかねえ、などと話す。みんなご機嫌で寒空の中を帰宅。ヤフオクの商品の送付につき、出品者からの問い合わせにメールで返答して、早めに就寝。