裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

水曜日

ダーリン・オブ・脱構築

 デリダ、ピチカート・ファイブを語る。朝8時起床。朝食、レタスとマイタケのコンソメスープ煮。日記つけ、風呂入り、雑用。電話頻々。札幌の母から、送ったCD届いたとの知らせ。宅急便の伝票に“コピー有り”と書いてあったのは何かというので、最近は途中での紛失や破損で訴えられることのないよう、必ず中の書類やデータにはコピーがとってあるかどうか確認するのだと教える。実際にとってある場合はごく少ないと思うが。石原さんから電話。取材攻勢に対して、どう対応したらいいかという質問。何箇条か、注意する。あと、沖縄の中笈さんから年末の挨拶の電話。金子監督のキネ旬の文章について、いろいろウワサ交換。新刊の売れ行き上々だそうで、 まずめでたし。来年も沖縄行きたいなあ。

 11時、早めに出て、新宿。銀行で家賃を下ろす。午前中でも列が外へハミ出している。それから紀伊国屋地下のDVD店で買い物し、書籍の方でミスター高橋『流血の魔術最強の演技』(講談社)買う。さらに伊勢丹で食料品少し。王ろじでメシを食おうと思っていったら、もう年内の営業が終わって入口に注連縄が張られていた。仕方なく、その近くのカレー屋『ガンジー』でミックスカレー。スパイスギンギンのカレーで、胃腸薬のんだような食後感がある。そこで『流血の……』読んだらとまらなくなり、渋谷への車中も読み続け、時間割でコーヒー飲みながら読了した。“すべてのプロレスはショーである”“スポーツとして見るから八百長で、ショーとしてとらえればこれは完成されたエンターテインメントである”という、誰もがそうと思っていながらハッキリ口にしなかった事実を公開した画期的な書物。プロレスファンとして前々から思っていた、“本気で戦えば日本人が外人にかなうわけがない”ということを裏書きしてくれていてウレシかった。これはマイケル・R・ボールの『プロレス社会学』と合わせて読む本かもしれない。ショーをショーとして楽しめるアメリカ人と、やはり虚構には燃え切れない日本人の差がはっきり見えてくる。それにしても、ちょっと前にこの日記にも書いた、ホーガンの猪木失神事件が、新日本サイドをも騙した猪木のひとり芝居だったとは。これなど、見事すぎる演技である。

 2時帰宅。原稿書く。小谷真理×山形浩生裁判の判決で、インターネットのホームページに謝罪文を掲載せよ、との、どこかで聞いたような判決。ネットの記事によると、“ネットでの謝罪文掲載を認めた判決は初めてとみられる”とのことで、私や岡田斗司夫の立場、伊藤くんの立場はどこに、という感じだが、こちらは和解、向こうは判決という違いか。正直なところ、裁判というシステムはその問題に対する社会的興味を失わせてしまう(日本においては)ものであり、これが賢い選択であったとは思えない。他にすることもいろいろあるだろうに、という感じ。

 3時半、時間割でアスペクトK田くん、K瀬さんと打ち合わせ。『裏モノの神様』単行本化の件。2月がちょっと単行本ラッシュなので、3月に出すのをいささかK田くん怖がっているが、私の場合は典型的な都市大型書店向き作家なので、それほどデメリットにはならないんじゃないかと思う。4時、村崎百郎氏来て、『社会派くんがゆく!』、ネット連載にて再開の第一回。テロからはじまり狂牛病、田代まさし、野村沙千代とネタが満載の感じ。村崎さん、さすがペヨトル出身者だけあって、鈴木書店倒産を大いに嘆く。私も同感だが、しかしやむを得ないとの考え。人文系の学術書を、また日本人が真に希求する時代が来るよう、社会の方を変えていかないとどうにもならない。と、いうより、アカデミシャンたちの体質をだな。

 話がはずんで、ギリギリまで対談続き、6時15分前に切り上げてもらって、タクシーで新宿へ。20分遅れで『鳥源』。サンマーク出版の重刷祝い。これだけ売れてまだ新聞に広告出してくれないのだが、“いや、『水は答えを知っている』などと並んで出るのはこの本のためにもよくないと思って”とTさん言う。逆に考えれば、広告なしでこれだけハケるのは大したものだろう。スズメ焼き、ウズラ、鳥モモなど。クリスマスから一日遅れで鳥モモにかぶりつけた。鍋は相変わらずの濃厚さ。帰りに挨拶したら、“いつもご活躍で”と言われる。誰か店員に私のファンがいるのか?

 Tさんはまだ仕事とかで会社に帰り、私たち夫婦は四谷に飛んで、井上デザインの忘年会於まさ吉。講談社Hくんたち、ササキバラゴウ氏、伊奈浩太郎氏など、知り合いも多々。ササキバラ氏いよいよ旧作アニメ情報誌、立ち上げるそうである。原稿依頼、喜んで受ける。氏が出した講談社選書の裏話など聞く。フィギュア会社の人に、ゴジラ上映館の話聞く。子供が退屈しているワキで、親が目をうるうるさせて見入っているそうな。やはり怪獣映画は、怪獣映画の文法をちゃんと幼いうちにたたき込まれた者でないと、すんなり入っていけない。これは例の河出の本で、庵野秀明氏も、“この空白期間はなかなか取りかえしがつかない”と指摘していることだ。“特撮は他のメディアよりハードルが高い”という指摘も、まったくその通り。
「本来、アニメや特撮って駄目なものなんですよ。この駄目なところがいいとか、駄目だからこそ頑張ろうよとか、そういう現状認識をしてからやったほうがいいと思うんですね。(中略)映画そのものがデカダンスなんですが、その中でもアニメや特撮は究極のデカダンスだと思います」
 ……なんだかんだ言って、結局オタクアミーゴスと同じこと言っているような気がするなあ。

 せまい店内は、紫煙のウズで、K子は嫌がって外で猫と遊んでいる。その回りを平塚くん、伊奈さん、ササキバラさん、井上くんが囲んでサロンができていた。モテることである。ではよいお年を、と挨拶してタクシーで渋谷に帰る。『ザ・ベスト』のエロ漫画コメント原稿にチェック入れてFAXし、寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa