裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

25日

火曜日

三択ロース

 1.デパートの戦略。2.古代ドルイドの伝説。3.カーネル・サンダースのアルバイト。朝7時20分起床。朝食はまたオート・ミール。こういう、どう考えてもウマくなさそうなものをウマいと感じる瞬間(ほんとに瞬間だが)があるというのが不思議である。何やらクリスマスにも関わらず、世間は騒々しいようである。結構なことだ。

 昨日からの仕事、まだおさまりつかず。三連休のあとで、打ち合わせ予定が三つもつまっている。申し訳ないが、二見書房のYさんにFAXして、別の日に延ばしてもらう。他の二つに比べて軽いというわけではなく、一番時間のかかるものだからである。メアドが飛んでしまったのでFAXにしたが、ひょっとして1時にこちらに直行してから会社に出るのかも、と心配になり、1時、時間割に顔を出す。来ていなかったので一旦帰宅、昼飯を冷蔵庫の中のスープの残りに飯をぶちこんで啜りこんですます。侘びしい食事だが、年末でもあり、冷蔵庫の中を片付けねばならない。

 2時、改めて時間割、講談社単行本打ち合わせ。赤入れした原稿を渡し、この本の売り方をいろいろツメる。これでこの本に関する私の作業は一段落、と思っていたら前書き後書きをすっかり失念していた。ドタバタで頭が回転していないなあ。雑談、書き下ろし本のことなど少し。

 打ち合わせ終え、その足でタクシーに飛び乗り、曙橋へ。銀行で家賃下ろそうとしたが、連休明けで長蛇の列。おまけに二機しかない端末の両方でトラブルが起きたのであきらめる。井上デザイン事務所、編プロのT氏と唐沢商会『マニア蔵』の装丁打ち合わせ。まだなをきもT氏も来ていない。井上さんと本の表紙のことをツメていた人がいて、この人が恒友出版のS社長。名刺交換し、石原さん『異常なラブレター』のことについて、しばし話す。週刊女性、週刊文春、朝日新聞等からインタビュー依頼が来ているとか。こう言っては何だが、初版部数ウン千部の本にしてはそれこそ異常な注目のされかたである。石原さんが暴走しすぎないように、と二人で話す。

 なをき、よしこさんの車でやってきた。さっそく打ち合わせ。読みやすさより、何でもブチ込んでいるというおトク感をウリにしよう、と提案する。実際は、読みやすさ優先だと、文章をケズったり改訂したり、細かい作業が増えてメンドくさいこともある。部数の件をなをきが気にしている。やはり家のローンは大変だ。保証部数はウンヌンウンヌン部だが、何とかこれがムンムンフンフン部になればいいなあ、という話ちょっと。さっき講談社との打ち合わせで聞いた話をして、
「くらたまの『だめんずうぉーかー』は29万部だって」
 と言ったらなをき、目を向いて、
「ああ、オレは今までなにをやってきたんだろう」
 と落ち込む。才能というのはみな、トンガったことをすることだと思っているが、実は(本人に役にたつ)才能というのはトンガったことをしないことなのではないかと、これは私も我が身をふりかえって思う。『バガボンド』のこととか『ふたりH』のこととか、しばし自虐的な話題で笑いあう。井上くんからK子へのクリスマスプレゼントをもらう。

 そこでなをきと別れ、地下鉄で渋谷へ。銀座線渋谷駅改札でK子と待ち合わせ、浅草まで。始発から終点までという長距離。東洋館にてトンデモ落語会スペシャル。早くつきすぎたので、外へ出て何か食おうと思ってウロつく。むかぁし、この近くにえらく古びた大衆食堂があったはずだが、と探すが、やはり私の頭は旧式で、とっくの昔にそこは入口が封じられ、自動販売機がそこを埋めるように並んでいた。“誇れる味覚・豊かな栄養”という看板はまだ、かろうじて残っていた。銀だこのタコヤキを買ってきてロビーで食う。開場時に来た睦月さんが私のあまりに早く来ているのに驚いて、“出るんですか?”と訊いてきた。三々五々、客は入るが、どうもショボい入り。考えてみれば、出演者である志加吾のサイトにも談生のサイトにも、今日のことがアップされていない。私も開場時間を、快楽亭のHPでやっと見つけた。

 外人がやってきて、受け付けの快楽亭のおかみさんに何か質問している。落語マニアか、と思ったらそうでなく、ここはストリップ劇場か、と訊いている様子。古いガイドブックを頼りにきているのだろう。ここに寒空はだかが出演しているとき、同じような間違いの問い合わせがあって、“そこはハダカやっているの?”という問いに事務員が“ええ、はだかは出てます”と答えて、やってきて怒った客がいたとかいないとか。そう言えば、ロビーの真ん中にあった丸いソファがいつのまにかなくなり、ストリップ劇場の名残りがまたひとつ消えた。睦月さんとしばらく小説談義、映画談義。開田さん夫妻、それに講談社の前担当、Iくんが来た。

 なにしろクリスマスで、みんな忙しいらしく、志加吾も談生も凄まじくいいかげんに旧ネタをやって下がる。快楽亭は武家ものを長講したが、トンデモっぽくはない。ゲストの笑福亭福笑師匠は極めてユニークな芸風、ちょっと驚く。まだハマるまでにはいかず。談之助と白鳥のみ、トンデモの基本に忠実。二人ともその持ち味を最大限に発揮したネタだった。談之助さんのやつはオチでやっと、“ああ、『鉄拐』のパロディだったか!”と気がついた。

 ヤムヤムで打ち上げ。開田さんの同人誌『特撮が来た!』5冊いただく。力作揃いで、今年の特撮事情の活発ぶり(混迷ぶり?)が表れているようである。小林晋一郎氏のブッ翔びぶりが凄い。講談社Iくんともいろいろな話。東浩紀氏の『動物化するポストモダン』、かなり売れているそうである。個人的な感想はどうあれ、本というものは売れねばどうにもならん。書籍市場が活性化するのは大歓迎である。と、思い部数を聞く。……東さん、もうお互いアカデミズムだとかサブカルだとか言う分野で本書くのやめて、エッチな漫画やろうよ。で、ひとやまアテてから趣味でこういうことをやる、というのはどう?

Copyright 2006 Shunichi Karasawa